ジョーナカムラとこんどうようぢが語るゲイ心とは? 兄貴と美少年の切ない恋心を描いた純愛映画「アスリート~俺が彼に溺れた日々~」

「第4回秋葉原映画祭2019」でプレミア上映された後、7月15日の「第28回レインボー・リール東京」で上映され人気を集めた現代のLGBTの世界を描いた映画「アスリート~俺が彼に溺れた日々~」。いよいよ今月26日からアップリンク吉祥寺他、全国順次公開される。

物語は、新宿二丁目で運命的な出会いを果たした海堂航平(ジョーナカムラ)と悠嵩(こんどうようぢ)が、戸惑いながらもいつしか性の垣根を超えて惹かれ合っていくというもので、ダブル主演を務めたジョーナカムラさんとこんどうようぢさんに、自分の“性”への価値観に葛藤し、「愛とは何か」を模索する演技に込めたそれぞれの想いを伺った。

ー本作に出演しようと思ったいきさつを教えてください。

ジョー:台湾ではアジア初の同性婚などでLGBTムーブメントが熱く動いているのは知っていて、ようやく最近日本でもその広がりが見えてきたように感じています。その中で、今回この映画の話をいただいたので、僕にとっても良いチャンスになるのかなと思って引き受けさせていただきました。

また、中学生の頃に両親が家にニューハーフの方を遊びで連れてくることもよくあったので、セクシュアルマイノリティに対しての偏見が全くなかったんですよ。それに海外に行くと、同性同士が手を繋いで歩いているなんてのも当たり前の光景で、「人は人」なんだなっていつもそう思ってきました。

ようぢ:実は僕は台本を渡されてすぐ撮影っていう流れだったので、最初はLGBT映画であることを知らなかったんです。でも、それがゲイだとか他の性自認であるとかではなく、自分自身が演技や役者に興味があったので、普段の自分では感じらない感情や想いをフィルターを通して届けることは、すごく良い経験になるのかなって思い挑みました。

それに、この作品を通して演技する楽しさにも気付かせてもらい、もっと色々経験したいきっかけをくれた映画になりました。

ジョー:とりあえず僕にとっても初めての役だったので、自分が演じた海堂をどう描写したら良いのか分からなかったんです。それで、とりあえずたくさんのLGBT作品やゲイ映画の名作「ブロークバック・マウンテン」などを観て、こういった表現の仕方があるんだとかを参考にさせていただきました。

また昔、新宿二丁目でバイトをしていたことがあったので、そこに来るお客さんのことを思い浮かべたりもしました。そうやって少しずつ演技をしながら、理解を深めていった感じでした。

ようぢ:僕は元々妻子持ちだった海堂に一目惚れされるという出会いの流れだったので、どうやったら自分にはない色気を出せば良いのかを悩みました。でも、大江監督が普段通りで良いよって言ってくださったので、悠嵩という役ではあったんですけど、自分の自然な一面と重ね合わせてやってみました。

ただ、キスの場面はちょっと困惑しました。逆にその部分は経験豊富なジョーさんが手取り足取り教えてくれてとても勉強になりました(笑)。

ー異性から同性を好きになる役を演じたジョーさんは、どのような感情で演じられましたか?

ジョー:離婚届けを突きつけられた後に、同性に惹かれていく海堂。これは本当に一番難しい場面でしたよね…。それで僕の友達にゲイの方がいるんですけど、彼のエピソードに少し身を委ねた部分はありました。彼は、小さい頃に好きな女の子に書いたラブレターが風で飛んで周りの同級生に見られてしまったっていうハプニングがあって、冷やかされたことにとても傷ついてしまった挙句に「もう女の子は好きにならない!」ってなってしまったんです。

それで女性に傷つけられたという想いから、同性の居心地の良さに気付かされて恋愛感情が芽生えていくんですけど、実際に海堂も悠嵩と生活していくうちに、徐々に心を開いて性を超えて人として惹かれていったと思うんですよ。

現にベランダでのタバコのシーンや電話を待っているシーン、髪の毛を切っているシーンなど、とても温かな日常風景が映し出されていて優しい時間が流れているんです。

ーようぢさんは、悠嵩に感情移入した部分はありましたか?

ようぢ:普段からあまり感情を爆発させることってないんですけど、ひとつ自分の感情が揺れ動かされて共感できた場面があったんです。それは新宿二丁目にいるゲイカップルを見て、そこを通ったサラリーマンが気持ち悪いって言うシーンがあって、そこで悠嵩が怒るシーンです。

元々人の悪口とかも好きではないですし、ただ普通にしているだけなのに、差別を受けるLGBTの方々の気持ちが少し身に感じて、怒りを爆発させた後に、どこか切なくて苦しい錯覚と感情移入してしまった部分がありました。

ー両親へのカミングアウトシーンに込めた想いはありましたか?

ようぢ:父親に「こんな息子でごめん」っていうセリフがあるんですけど、これは僕自身が、自分の母親に対して言うような気持ちを込めました。コンビニに行くような感覚で上京して芸能界に入ったのですが、母親としては普通に就職して安定した暮らしをして欲しかったと思うんですよ。母子家庭で3兄弟をひとりで育ててくれた母親に、あなたの思い通りの生き方ができずにごめんって。

このシーンでのカミングアウトへの想いは違ってはいるのですが、実際に僕は当事者ではないし、その気持ちの大きさは正直測ることができません。だからといって、分かったふりで演技はできないし、実際にセクシュアリティをカミングアウトをすることは簡単な話ではないと思っています。だから、ニュアンスを少し変えつつも自分なりの気持ちを投影させてみました。

ジョー:僕は悠嵩をサポートする役でしたが、親子の絆は最後は分かり合えるんじゃないかと信じていて、そういう気持ちで背中を押すパートナー役で支えましたね。ただ今回は映画の中でしたし、現実問題ではそう上手くいかないこともあると思っています。両親や友人、理解し合えない人も当然います。でもだからと言ってそれが、「あなたを愛していない」ってことに直結するわけではないし、カミングアウトを特定の人にすることって、ある意味大切な人だから伝えているんですよね。

ー最後に、映画を観てくださる方とLGBTの方々に応援メッセージをお願いします。

ジョー:この作品を通じて、自分のセクシュアリティに悩んでいる人にそのままで良いんだよって伝わってほしいですね。またストレートの方々には、「色は違うけれど、愛の形は一緒」なんだよってことがより多く認知され、理解が広まればと思っています。少しでも日本のこれからに貢献できる映画になってくれていたら嬉しいです。

ようぢ:少しずつですがLGBTに理解のある社会にはなっていっているって思っていますので、このままもっと広がっていってほしいですね。また個人的なんですけど、受け入れられない人は無理に興味を持つ必要はないとも思っています。社会の流れで受け入れられることが当たり前で受け入れないとダサいとか、受け入れられない人を受け入れない世の中ではあってほしくないんです。LGBTの方々も一緒に生きる当たり前の社会は素晴らしく、大きな意味で多様性ある価値観の日本になっていったら良いなと思っています。

映画:アスリート~俺が彼に溺れた日々~
2019年7月26日(金)アップリンク吉祥寺他、全国順次公開

ストーリー/元競泳選手の海堂航平は、共働きの妻と高校生の娘と平凡な日常を過ごしていたが、ある日、突然妻に離婚届けを突きつけられる。 酒に溺れて新宿二丁目にたどり着いた航平の前に、美少年の悠嵩と運命的な出会いが訪れる。悠嵩は、チャットボーイをする傍らアニメ作家を目指しているが、病に倒れた父親に「ゲイだ」と告白できずに思い詰めていた。二人は、戸惑いながらも、いつしか性の垣根を超えて惹かれ合い、やがて肉体を交えるようになるー。

監督/大江崇允 キャスト/ジョーナカムラ、こんどうようぢ、田崎礼奈(notall)、中村文彦、みなもとらい、いちる(Vipera)、 美羽フローラ、海崎遥⽃、橋本彩花、梅垣義明 上演時間/89分 製作国/日本 配給会社/株式会社パル企画 
https://www.athlete-movie.com

インタビュー・記事作成 / 村上ひろし(newTOKYO)
写真 / 新井雄大
(C)2019 映画「アスリート~俺が彼に溺れた日々~」製作委員会

この記事は2019年7月22日に掲載された記事の再編集版となります。

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