一度発症したら治らない!?イヤホンの使い過ぎが引き起こす「イヤホン難聴」の危険な症状とは

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スマートフォンで気軽に音楽や動画を視聴できるようになりました。その際、イヤホンを使用する方も多いでしょう。そのイヤホンが「治らない難聴」の原因になるおそれもあるんだとか。

イヤホンで起こる難聴の原因やなりやすい人の特徴について、医療法人もたい耳鼻咽喉科の理事長である甕久人氏に聞きました。

Q.イヤホン難聴とはどのようなものですか

イヤホン難聴という言葉をしばしば目にしますが、イヤホンそのものが耳を悪くするわけではありません。イヤホンで大きな音量の音楽を聴き続けると難聴になることがあり、それをイヤホン難聴と呼んでいます。

イヤホン難聴のメカニズムは「騒音性難聴」という、工事現場など騒音の多い職業に従事している方に見られる難聴と同じです。従来、普通の生活をしている方々には少なかったのですが、携帯音楽プレイヤーが出現してから、大きな音量で音楽を聴き続けることでも騒音性難聴が起きることが分かりました。

以前はヘッドホン難聴と呼ばれていたものが、最近はイヤホンが多用されるため、イヤホン難聴と呼ばれるようになりました。また、ライブ・コンサートの大音量によっても引き起こることがあるためロック難聴、さらにはディスコが流行した時代にはディスコ難聴などと呼ばれていたこともありました。

Q.騒音性難聴の原因にはどのようなものがありますか

騒音による内耳の有毛細胞の損傷が、騒音性難聴の原因です。

耳に音が入ると、鼓膜を介して音の振動が内耳にある有毛細胞に伝わります。そこで音の振動は電気信号に変えられ、脳に届き音として認識されます。有毛細胞は繊細な神経であるため、大きな音で容易に損傷を受けます。騒音に長時間さらされると有毛細胞が傷み、徐々に難聴が進行していきます。

イヤホンを装着して音楽を長時間聴き続けることでも、内耳有毛細胞が損傷を受け難聴になります。音楽プレイヤーが専用機器からスマホに移り変わり、さらに気軽に音楽データを持ち歩けるようになりました。それにより、多くの人が騒音性難聴発症のリスクにさらされています。

Q.イヤホンによる騒音性難聴になりやすい人の特徴を教えてください

イヤホンで毎日のよう音楽を聴く・長時間音楽を聴く習慣のある方は注意をしてください。イヤホンで騒音性難聴が起きる条件は、「どれほどの音量」で「どれほどの時間」音楽を聴き続けているかによります。この病気の厄介なところは、初期には難聴の発症に気づかないことです。イヤホンで音楽を聴いていると、段々と小さな音量では物足りなくなって、気がつけば大きな音量で聴くことに慣れてしまいます。

また、騒音性難聴になりやすい素因の方がいることもわかっています。遺伝的素因・年齢・高血圧・糖尿病などの慢性疾患が騒音性難聴のリスクに関係していると言われていますが、リスク因子の特定には至っておりません。

Q.自分がイヤホンによって難聴になっているか、セルフチェックする方法はありますか

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イヤホンを習慣的に使う人で音が聞きにくい自覚症状があれば、すでに初期ではありません。できるだけ早期に見つけるために、次のような項目にご自身が当てはまるかをチェックしましょう。

1.イヤホンを毎日のように使う。
2.周囲の音が聞こえないほど音量を上げて音楽を聴いている・イヤホン使用中に話しかけられても気づかない。
3.耳鳴(じめい)が聞こえる。静かなところでも「キーン」「ピー」という音が耳の中で聞こえる現象が耳鳴です。
4.高い音が聞こえにくい気がする。騒音による難聴は、4,000Hz(ヘルツ)(※1)の音を聞く神経の障害から始まります。4,000Hzは日常にある音の中では一番高い部類で気づきにくいのですが、電子機器のアラーム音を聞き漏らすことがあれば要注意です。

Q.イヤホンで難聴にならないためにできる、セルフケアはありますか

イヤホンで音楽を聴く習慣があり、イヤホン難聴を防ぎたいならば、自分自身で音量や使用時間を管理していくことです。85dB(デシベル)(※2)を超える音量は難聴につながるリスクがあります。

数値ではピンとこないかもしれませんが、目安として、音量は携帯音楽プレイヤーのディスプレイ上の目盛りの60%ぐらいのところまでで留めておきましょう。

ノイズキャンセル機能のイヤホンの使用も、周囲の騒音でついつい音量を上げてしまうことが減るため良いと思われます。イヤホンの使用時間は1日あたり1時間未満に制限するのが理想的です。もしそれ以上聴き続けるならば、1時間に少なくとも10分は音を聞かない休憩時間を作るといった使用時間のコントロールも必要です。

Q.騒音性難聴は治りますか。また、病院を受診する症状の目安はありますか

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残念ながら、騒音性難聴を医学的または外科的に治療する⽅法はないといわれております。また、予防に利⽤できる薬剤もありません。

しかし内耳有毛細胞の損傷が極めて軽微な初期の状態で治療を開始すれば、回復する可能性はないとは言えません。気になる症状があれば早く医療機関を受診しましょう。そして、予防が一番であると忘れないようにしてください。

※1.Hz(ヘルツ):周波数。音の高さを表す単位。4,000Hz~高音域とされる
※2.dB(デシベル):音の大きさを表す単位。普通の会話は60dB、ピアノの音や救急車のサイレンなどが80dBとされる

教えてくれたのは・・・

甕 久人(もたい ひさと)院長

「もたい耳鼻咽喉科」院長。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医、日本聴覚医学会会員。名古屋市立大学医学部卒業後、大学附属病院ではがんを専門に研究、豊橋市民病院にて臨床経験をつんだのち、地域に根ざしたクリニックの実現のため名古屋近郊東海市にて「もたい耳鼻咽喉科」を開業。

「もたい耳鼻咽喉科」公式ホームページ

取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部

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