【コラム・天風録】震災とトイレ

 150年余り前、全国各地に郵便ポストができると、公衆トイレと勘違いした人がかなりいたらしい。「郵便箱」を「垂便(たれべん)箱」と読んだのだ。中にどう入るのか。人々に「?」が広がったことだろう▲ポストぐらい公衆トイレがたくさんあればいいのに、との声が聞こえてきそうだ。能登半島地震の被災地である。発生から100日を過ぎても断水が続き、トイレを使えない地域がある▲トイレの問題は大災害のたび浮上してきた。我慢したり水や食事を減らしたりすると、体調を崩しかねない。能登ではこれから復興に向けた活動が本格化する。さまざまな業者やボランティアのためにも清潔なトイレが欠かせない▲心強い動きもある。「臭わない仮設トイレ」が避難所で好評という。金沢大の名誉教授たちが開発した、と地元の北國(ほっこく)新聞が伝えている。用を足すと約400度の蒸気を出して殺菌する。その手もあったかと感心する▲われわれも、できる時に携帯トイレなどの備蓄をしておきたい。〈備えよう食う寝る出す場所三日分〉〈天災とうんこは急にやって来る〉。家族で防災について話し合ってもらおうと、横浜市が募った川柳コンテストの作品が教えてくれる。

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