『SDコマンド戦記』『がんばれゴエモン』……懐かしの児童向け漫画が復刊される背景とは?

絶版となった本を再度出版する復刊ビジネス。読めなくなってしまった往年の名著や、絶版となってしまった学術書など、ありとあらゆる絶版本が対象となる、レンジの広いビジネスだ。2011年の復刊以来ジワジワと売れ続け、今や30万部を超えた有吉佐和子の『青い壺』など、復刊本の中からはベストセラーも生まれている。

その中でも、安定して需要があるジャンルが児童向け漫画、それも80年代から2000年代初頭あたりまでに連載された作品である。復刊書籍専門のインターネット書店兼出版社である復刊ドットコムの2024年2月の販売ランキングでは、2位に『SDコマンド戦記 1 ガンダムフォース編』が、3位に『SDコマンド戦記 2 SUPER G-ARMS編』がランクイン。そのほかにも同社のランキングには今木商事版の『ビーストウォーズⅡ』や松本久志版『小さな巨人 ミクロマン』といった作品が並ぶ。

また、先日話題になったのが、90年代に『コミックボンボン』で連載されていた帯ひろ志版『がんばれゴエモン』13作が電子書籍として復刊されたことである。この電子版復刊にあたってイラストレーター/漫画家であり、帯ひろ志氏のご子息である伯井乃博士氏が「父の絵柄に寄せた」というヤエちゃんのイラストをX(旧ツイッター)に投稿。当時のファンを驚かせ、また感動させた。

しかし、なぜ児童向け漫画には安定した復刊の需要があるのだろうか。それにはまず、児童向け漫画の単行本の入手難易度の高さがある。児童向け漫画は基本的に「卒業」するものであり、読者の入れ替わりが激しい。後から成長してきた子供にはその世代ごとのトレンドがあるため、「長く読み継がれる作品」が少ない。基本的に大半の児童向け漫画の寿命は短いのである。長く読み継がれないため重版がかかる回数が少なく、ゆえに市場での流通部数が一般的なコミックに比べて少ないのだ。

加えて、古本として流通する冊数自体の少なさも、児童向け漫画単行本の入手難易度を高くしている。ブックオフが全国に出店し、同様の新古書店が普及する90年代後半以前、古本屋に本を売ることができるエリアはそういった書店が存在するエリアに限られていた。そうでないエリアでは読み終わった本を処分する方法は少なく、また児童向け漫画は前述のように「卒業」してしまうものでもあった。そのため年齢が上がることによって読まなくなった単行本はそのまま処分されてしまうケースが一般的であり、これもまた30年ほど昔の児童向け漫画が中古として流通する数が少ない理由のひとつとなった。

しかし、ノスタルジーというのは強烈な購買意欲のトリガーである。「懐かしいもの」「知っているもの」には人間は財布の紐を緩めがちであり、子供の頃に読んでいた漫画ならば改めて手元に置きたくなるのは自然なことだ。しかし、読みたくなっても上記の理由から現在流通している子供向け漫画の冊数は少ない。買えないならば、せめて同じものを刊行してほしい。ここに復刊の需要が生まれるわけである。

ノスタルジーという物欲のトリガーが人間の精神に備わっている以上、「子供の頃に読んでいた本を復刊してほしい」という需要が減ることはないだろう。ただ、2000年代前半以前とそれ以降では、出版業の形態自体がかなり変化している。電子書籍の流通が前提となっているかどうかでも入手難易度はかなり変化するし、そもそも「雑誌連載→単行本の刊行」という漫画の出版形態がこの先どれほど続くのかも未知数。今の若者たちが30代半ばを過ぎた頃には、復刊以外の方法で懐かしの児童向け漫画を読むことになる可能性もある。

とはいえ、復刊によって再刊行される児童向け漫画と、そこで喚起されるノスタルジーはいまだに高い需要がある。今後しばらくの間は、「復刊」という書籍刊行形態への需要は続くだろう。

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