生きる目的が〈長生き〉では本末転倒? かつての長寿村に共通する生活習慣【医学博士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

長寿村として知られる京丹後市の高齢者ですが、「長生きするために」と思って生きてはいません。そこで本稿では、長年腸内細菌を研究し続けている医学博士の内藤裕二氏による著書『70歳からの腸活』(エクスナレッジ)から一部抜粋して、長寿村の生活習慣について解説します。

生きる目的が長生きでは本末転倒

私たちが5年間、京丹後市の高齢者の腸内フローラを調べてきてわかったことは、彼らの食事や運動の生活習慣から学ぶことはもちろんですが、やはりメンタルが重要だということです。

70歳ぐらいになると、長生きが人生の目的になってしまう人がいますが、京丹後市の高齢者は誰一人として「長生きするために」と思って生きてはいません。

そして前述のように「人の世話にはなりたくない」と思って生きています。人の世話にならないために、食事は自給自足を意識しています。

もちろん買うものもありますが、畑で野菜をつくったり、海に行って海藻を採ってきたりしています。それが結果的によい運動にもなっています。日常生活における活動量がとても多いのです。

彼らも、いざというときには病院が必要になるかもしれません。でも病院の世話になってまで長生きしたいとは思っていません。

だから私たちがやることは彼らを見守ることだけです。高齢者を集めて、運動をさせたり、これを食べなさいということはしません。なぜなら、彼らのコミュニティを壊したくないからです。

日本の長寿地域と短命の地域を調査すると、数十年前まではきれいに分かれていました。それはかつてのコミュニティはよい意味で閉鎖的だったからです。公共交通が発達していなかった頃は、コミュニティ同士の交流も少ないですし、人の出入りもそんなにありません。

そういったコミュニティで生活していると、その地域でみんなが生きていくための工夫をしないといけません。

京丹後市もそうですが、珍しい郷土料理や発酵食品などを工夫してつくり、伝えてきた地域というのは、もともと米があまりとれなかった地域に多いのです。

昭和の頃、山梨県の棡原(ゆずりはら)村(現・上野原市棡原地区)は、日本有数の長寿村として知られていました。この地域は水田がつくれないため、そばや麦、いも類が主食だったと伝えられています。

また家や畑が急斜面にあるため、日常的な活動量が大きかったことが長寿の理由ともいわれていました。

そんな長寿村は全国にたくさんありましたが、現在のようにマイカーでどこにでも行ける時代になり、スーパーやコンビニがあちこちにできると、伝統的な食文化は失われていきます。

かつての長寿村に共通する生活習慣

『新版 日本の長寿村・短命村』(1991年、サンロード出版)という本があります。著者はすでに亡くなられましたが、東北大学名誉教授の近藤正二先生です。近藤先生は日本中のほとんどの地域を歩いて調査して、どんなものを食べていたのかを調べています。

なかでも私が興味深かったのが、長野県の新潟寄りの地域です。そこは長寿地域の1つですが、大豆の一大産地でした。

その地域で生産される大豆が欲しいので、新潟の人たちが海産物を持ってきて、大豆と交換していたようです。大豆は植物由来の高たんぱく質食品ですし、海なし地域でありながらワカメなどの海産物も摂ることができました。それがこの地域の長寿の理由だというのです。

この本によると、東北は昔から短命の地域が多かったようです。今も短命な青森県(男女とも最下位、2020年)は、塩分摂取量が多く2020年のデータでも10.5g 摂っています。

高血圧に関与している乳酸菌などを研究している人たちがいて、それによると、塩分摂取量が過剰になると、塩分を好む腸内細菌が増え、それが血圧に悪影響をおよぼしているのではないかといわれています。

減塩しても血圧が下がらない人は、腸内フローラに原因がある可能性も示唆されています。

腸内フローラを悪化させる食べものに、動物性たんぱく質・脂質と砂糖がありますが、塩分もよくないのです。

厚労省が推奨する日本人の1日の塩分摂取量は、男性7.5g 未満、女性6.5g未満となっています。

また欧米では6g未満を推奨している国もありますし、WHO(世界保健機関)はすべての成人の減塩目標5gとしています。塩分を摂りすぎている人は、減らす工夫をしてみましょう。

内藤 裕二

京都府立医科大学大学院医学研究科

教授/医学博士

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