世帯年収900万円・30代共働き夫婦、もの凄く頑張って「有明タワマン」を購入も…住宅ローン返済計画を破綻に追い込んだ「小1・息子からの無垢なひと言」【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年々、マンション価格が上昇しています。タワマン人気もいまだ健在で、1億円を超えるような物件はゴロゴロ。しかしながら、物件価格以外にも、タワマンでの生活には思いもよらぬことが潜んでいるのです。本記事ではタワマンを購入したTさん夫婦の事例とともに、タワマンの理想と現実について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

喉から手が出るほど手に入れたいタワマン

タワーマンションとは、基本的に集合住宅としてつくられた20階以上の高層建築物のものをいいます。略してタワマン(以降タワマンと表記)といわれています。

タワマンに住んでいる人は一般的に「富裕層」ともいわれ、地域にもよりますが、購入価格は億を超える物件が多いようです。それゆえに、タワマン住民に対して、勝ち組や富裕層といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

特に人気エリアといわれる都内の物件は、眺望や共有施設の充実など、誰もが一度は住んでみたいと憧れる、ステータスが高いマンションであるといえるでしょう。

Tさん夫婦は同級生の37歳と小学1年生の息子と3人家族。夫婦とも都内の会社に勤務する共働き世帯です。Tさんの収入は年収500万円(月40万円)、妻は年収400万円(月35万円)、世帯年収は約900万円となっています。

2023(令和5)年賃金構造基本統計調査の概況の性、年齢階級別賃金、対前年増減率および年齢階級間賃金格差によると35歳~39歳の男性は約33.8万円 、女性は約27万円。世帯で考えると、年収約730万円となり、Tさん夫婦の収入はそれなりに高いといえそうです。

Tさん夫婦は、倹約家です。倹約家というよりもお金を使う機会があまりない、というほうが正しいかもしれません。2人とも物欲も趣味もなく、食事にもあまりこだわりがないため、息子が生まれるまでは月の生活費を家賃込みで10万円に抑えて暮らすことができていました。

ただひとつ、Tさん夫婦には共通の夢があったのです。もともと高所が好きということで気が合い交際を始めたTさん夫婦。交際当初からいつか2人で眺望のよいタワマンに住みたいと話しており、これまでは都内の狭い賃貸アパートで我慢して暮らしてきました。夢を現実にするために、2人で懸命に働き、お金をなるべく使わないように暮らしてきました。そしてめでたくも、なんとか手に入れたのです。

夢が現実となったとき

Tさん夫婦が購入したのは、タワマンで有名な湾岸エリア(主に豊洲・東雲・有明・辰巳・晴海・月島・勝どき)のなかでも夜景が綺麗な有明です。親子3人で住むには十分な広さがあり、息子が通う学校が近くにあり、なんといっても眺望のよさが決め手。1億円超の物件の購入に踏み切りました。

インターネット上では「タワマン購入夫婦の破産」などといった書き込みがありましたが、貯えもたくさんあるし、自分達は大丈夫と念入りに計画してきました。

タワマンの購入には2人の両親の援助と、2人が入社してからコツコツ貯めてきた貯金の一部をあて、毎月の支払いはペアローンを組み、管理費等の諸経費と含め約27万円に抑えることができました。住宅ローンとは別に管理費が1万5,726円と修繕積立金が1万2,305円で約3万円かかります(平成30年度マンション総合調査結果)。

今後できる貯金は少なくなりますが、息子の教育費がかかることもあり、日常生活費をいままでどおり節約しながら生活すれば、なんとかなりそうです。

息子からの訴え

新生活をはじめたTさん家族。息子は近くの小学校に転入しました。最初はクラスに馴染めるだろうか、新しい友達とうまく付き合えるだろうかと心配していましたが、問題なく溶け込めていたようで一安心していました。

息子は学校から帰宅すると、同じマンションや近くのお友達と遊ぶようになり……ある日の夕食中に息子から話を切り出されました。

「僕も〇〇中学に行きたい」

お友達の家のなかはまるでホテルのようにきれいで、遊びはスマホゲームがほとんど。自分はスマホを持っていないため、たまに借りて遊んでいるとのこと。自分もスマホが欲しい。さらに、スイミングや英会話など、いくつか習い事をしているので、友達と一緒に通いたいと言い出しました。さらに、私立中学受験のため、塾に通っている友達も多いとのこと。

Tさん夫婦は、自分達も習い事はそれなりにしたことがありましたが、2人とも公立中学、高校で私立大学を卒業。息子も同じような進路に進むことになるだろうと考えていましたが、想定外の発言に戸惑いました。

いまの収支で習い事のひとつぐらいはさせてあげられますが、物価高になっていることもあり、受験のための塾となると家計がひっ迫します。長期的に考えても教育費が膨らむことは明らかでした。

タワマンに住んでいる子ども達の親は高所得サラリーマン、会社の社長、役員など、富裕層の人が多いため、子どもにかける教育費も高額のようです。周りの友達が習い事をしていれば、自分も一緒にと思うのは仕方のないことですが、お受験となると、赤字は必至かもしれない……。だんだんと暗雲が立ち込めてきます。

もうひとつの想定外

息子には習い事はひとつ、スマホはもう少し我慢するように説得しました。子どもの要望をすべては叶えられませんでしたが、それでも友達と一緒の習い事ができると喜んでくれました。

Tさん夫婦は、結婚当初、子どもは2人欲しいと考えていましたが、現状では厳しいため、ひとりっ子でもと話し合っていた矢先、なんと第2子を妊娠したことが判明します。おめでたいことですが、さらに追い打ちをかけるように夫の会社では転勤話が浮上します。もし、単身赴任となると単身赴任手当がついたとしても、二重生活で生活費はいままで以上にかかることでしょう。

想定外が続いたことに、再度夫婦で話し合いを重ね出した結論は、マンションの売却。束の間のあいだ夢は叶いましたが、子どものことを考え、家族で過ごせる環境を優先させることに決めました。

妻の仕事はテレワーク可能だったことから、これから生まれてくる子どものことやTさんの赴任先を考え、都心から少し離れた場所に一軒家を購入することにしました。唯一の後悔は資金計画を失敗したことで、息子を友達から2度も引き離してしまったこと。第二子には同じ思いをさせないようにと、無理のない人生設計を立て直しています。

住宅ローンは想定外のリスクも考慮し、無理のない返済計画を

想定外の出来事が続きましたが、救いだったのは、タワマンを売却する際に買い手がすぐについたことと、一軒家はタワマンの半額で購入できたこと。夢を持つことは大切ではありますが、それに固執せずに家族としての幸せを優先して下した判断はきっと間違っていないはずです。

Tさん夫婦も、「これからは、記念日などで高層ホテルに年1回は家族で泊まることを目標にします」と前向きに話してくれました。

<参考>

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

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