「40歳未満の大卒以上の比率」が極めて高い千代田区・世田谷区・文京区…新築マンション価格高騰に関わる〈東京23区居住者の特殊性〉とは?

(※写真はイメージです/PIXTA)

ここ20年ほどで「新築マンション」の価格が大きく上昇しています。このような売り手市場になった背景には、どんな事情があるのでしょうか。そこで本記事では麗澤大学未来工学研究センターで教授を務める宗健氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)から一部抜粋して、新築マンションの価格が高騰している理由について詳しく分析します。

不動産を買う人は高齢化し、十分なお金を持っている

新築マンションの価格はこの20年で大きく上昇しているが、その主な理由は以下のようなものになるだろう。

まず、購入者が高年齢化していることが挙げられる。国土交通省の住宅市場動向調査によれば、2019年の分譲マンション購入者のうち40歳以上の比率は49.1%で、e-Stat(政府統計の総合窓口)に掲載されているデータで最も古い2006年の38.0%から10ポイント以上増加している。

購入者の平均世帯年収は、2006年が709万円で、世帯年収800万円以上の世帯比率は26.3%だった。これが2019年には平均世帯年収が798万円に上がり、世帯年収800万円以上の世帯比率が35%以上に増えている。これは全国平均なので、首都圏に限れば平均年収はもっと高くなるだろう。

購入者の属性が変わったことに加え、新築物件の変化も影響している。大きいのは、タワーマンションの増加だ。共用部が充実し、価格が高めに設定されることが多いタワーマンションが増えたのは1997年の高層住居誘導地区の設定後で、2009年には首都圏の新築マンション供給の半数はタワーマンションとなり、2019年でも25%以上となっている。

断熱性能、遮音性能等に大きく影響するサッシの1990年代以降の性能向上も著しい。

一般社団法人板硝子協会の調査によれば、1997年時点では新築共同住宅への複層ガラスの戸数普及率はわずか11.5%だったが、2019年には85.7%まで上昇している。2000年にはいわゆる新・新耐震基準が導入され、基本構造の性能向上、サッシ以外にも住宅設備の性能向上、品質向上などがあり、住宅品質自体も向上しているが、同時にコストも増加しているわけで、当然価格に反映されている。

さらに、新築マンションの供給自体が大きく減少している。不動産経済研究所のデータによれば、新築マンションの供給は1999年に全国で16万2744戸(首都圏8万6297戸)あったが、2009年はリーマン・ショックの影響で全国7万9595戸(首都圏3万6376戸)と大きく減少し、2019年も全国で7万660戸(首都圏3万1238戸)と2009年を下回っている。新築マンションの供給数自体が20年前と比べて半減しているため、売り手市場になっているのだ。

東京23区居住カップルの特殊性

首都圏の新築マンション価格は、バブル期を超えて史上最高値になっているが、ここには東京23区居住者の特殊性も影響している可能性が高い。

日本の企業に根強く残っている年功序列賃金制度のために、個々人で見れば年収は年齢の上昇とともに上がってきている。しかし、その水準は20年前よりも大きく上がっているわけではない。

とはいえ、それもまた平均の話であって、個別の状況を見ていくと違う姿が見えてくる。

2019年の全国家計構造調査では、東京都の2人以上の一般世帯の50〜54歳の世帯年収は1,000万円を超えている。また、2017年の就業構造基本調査の結果では、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1,000万円以上1,200万円未満であり、その比率は16%となっている。

そして、年収1,000万円以上の世帯数の絶対数はなんと68万4,800万世帯となっている。

首都圏で供給される新築マンションは平均6,000万円を超える価格となっているが、供給戸数が縮小し年間3万〜4万戸程度であれば、首都圏全体では十分な購入層が存在していることになる。

そして、この状況は首都圏で貧富の差が拡大していることを示唆しており、高騰している新築マンションは特殊な市場になりつつある可能性がある。

東京23区を中心とする首都圏の特殊な状況は、夫婦の学歴構成の特殊性にも表れている。夫婦の学歴の組み合わせを含めた変化については、橘木俊詔、迫田さやか著『夫婦格差社会〜二極化する結婚のかたち〜』(2013年)に詳しいが、筆者が企画設計分析を行った「街の住みここちランキング」の個票データを分析しても、首都圏の特殊性が見て取れる。

住みここちランキングの回答者のうち結婚している33万人のデータを集計してみると、夫婦両方が大卒以上である比率は、全国平均で24%だが、東京都は37.5%と全国でも突出して高い。

この傾向は、年齢が若いほど顕著で、回答者が40歳未満の場合で夫婦両方が大卒以上である比率は東京都が50.8%と半数を超えている。さらに細かく見ていくと、千代田区74.4%、世田谷区71.1%、文京区70.2%と、40歳未満の大卒以上夫婦の比率が極めて高い地域がある。

さらに夫婦両方が大卒以上で、両方が正社員の共働きである比率は千代田区で75.4%、品川区の65.4%など極めて高い。全国で見れば、40歳未満で夫婦両方が大卒である比率は平均31.5%で、15%未満の県も2つある。東京23区の特殊性は際立っている。

本人たちはその特殊な環境と状況に気づかないまま、東京23区を中心とする首都圏中心部の一部の地域は、高学歴で共働きで高年収という特殊な人々が居住している地域となっている。それが首都圏の新築マンション市場の特殊な状況をつくり出しているといえる。

バブル期を超える首都圏の新築マンション価格は、高学歴高年収夫婦のニーズに対応して、市場の調整機能が働いた結果と考えるべきだ。そしてコロナ禍の状況が落ち着いた今、人と会う価値が改めて見直され、アクセスが便利な都心のマンションの人気が高まるかもしれない。

しかも、国際的に見て東京の不動産が割安であることも考えると、今後もさらに価格が上昇する可能性は十分にあるだろう。

宗 健

麗澤大学未来工学研究センター

教授

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