京成「宗吾車両基地」拡充工事が起工 跡地はどうなる? 新京成合併による変化は?

起工式で鍬入れする、京成電鉄鉄道本部長の田中亜夫さん

京成電鉄は4月11日、宗吾車両基地拡充工事の起工式を開催しました。

京成電鉄の車両

京成電鉄では、京成高砂駅付近、京成津田沼駅付近、宗吾参道駅付近の3か所に車両基地を設置しています。宗吾参道駅付近の宗吾車両基地は、その3つの中で最大のもの。車両の留置設備のほか、数年に1回の周期で実施するような大規模検査(重要部検査および全般検査)が可能な工場設備を有しています。京成の車両のみならず、京成グループである北総鉄道などの車両も、宗吾車両基地で大規模検査を実施しています。

その宗吾車両基地は、築造から約50年が経過しており、老朽化が進んでいるといいます。京成が「安全安定輸送の基盤を支える最も重要な施設」と位置付けるこの車両基地の、安全性向上と機能強化を図るため、同社では車両基地を拡充し、工場施設を移転することとなりました。

加えて、成田空港に乗り入れている京成では、「スカイライナー」をはじめとする空港アクセス列車を運転しています。その成田空港では、2028年度以降の機能強化が予定されており、航空便の増加による空港利用客増が見込まれています。つまり、アクセス列車の増発が必要となる可能性があるのです。宗吾車両基地の拡充工事は、将来の輸送力増強に向けた備えという意味合いもあります。

拡充するスペースは、現在の宗吾車両基地より南西側。完成すれば、京成本線京成酒々井~宗吾参道間の大部分で、下り列車(成田空港方)の進行方向右側に車両基地が広がる形となります。

新工場は、人工地盤の上に建つ高架構造で建設されます。この用地は、もともとは田んぼなどがあった湿地帯で、盛り土構造とすると地盤が沈下するおそれがあるといいます。新工場用地として買収した土地は6.2ヘクタール。人工地盤の面積は4ヘクタールで、工場の建物自体は3.2ヘクタールの規模になるといいます。既存工場の面積は2.2ヘクタールで、移設により広さは約1.5倍となります。

現在の工場では、検査対象車両を移動する際に、天井にある大型クレーンを使用しています。新工場では、これを床面を移動するトラバーサーに置き換えることで、安全性や効率向上を図るそう。加えて、現在の工場では天井クレーンを設置するために天井が高くなっているため、空調装置を入れることができないといいます。トラバーサー導入の副次的な効果として、天井を低くすることができ、空調導入による作業員の労働環境改善も実現できるといいます。

現在の工場では、年間最大220両の検査能力を持ち、実際の検査両数は年間160両程度だということ。新工場では、処理能力も向上し、年間最大250両の検査が可能になる予定です。

現工場の敷地跡はどうなる? 新京成車の宗吾入場は実現する?

成田空港のアクセス列車「スカイライナー」

先述した通り、今回の拡充工事は、工場の老朽化対策と、空港アクセス列車増強対策の2点が目的です。そのためには、車両の検査設備だけでなく、車両の留置設備も増強する必要があります。順当に考えれば、新工場が竣工した後に既存工場のスペースへ留置線を整備することとなりそうですが、京成電鉄の担当者は「現段階で明確に答えられることはない」と説明します。

一方で、担当者は「教育施設の整備」という構想にも触れていました。京成電鉄の社員研修施設は、現在は宗吾車両基地の横にあります。将来的にはこれを移転、あるいは拡充するという構想があるようです。

また、京成電鉄では、同じ京成グループの新京成電鉄を、2025年4月に吸収合併する予定となっています。現在の新京成電鉄では、くぬぎ山駅付近の車両基地で全ての検査を実施しています。しかし、京成と新京成が同じ会社となり、かつ宗吾車両基地の検査機能が向上するのであれば、大規模検査機能は宗吾車両基地へ統合した方が、コストパフォーマンス面で有利となります。この点について担当者は、「現在は合併に向け調整中。合併後の対応については今後検討していく」と説明。車両基地を再編するという回答はありませんでした。

ただ、ここからは筆者の想像ではあるのですが、くぬぎ山車両基地自体は、今後何かしらの動きがあるのではと考えられます。現在整備計画が進められている、外環自動車道と成田空港方面を結ぶ国道464号線バイパス「北千葉道路」は、自治体の都市計画図によると、くぬぎ山車両基地の位置で新京成線と交差する計画となっています。また、千葉県による「第9回北千葉道路連絡調整会議」の資料では、北千葉道路と新京成線の交差部は、専用部(高速道路)が地下、一般部が高架構造となるようです。少なくとも建設工事中、場合によっては道路竣工以降も、北千葉道路がくぬぎ山車両基地に影響を与えることが考えられます。

実際のところ、道路建設の支障となるのは1週間程度の周期で実施する検査などのための建屋で、大規模検査を実施するための工場設備は直接影響を受けません。とはいえ、事業者の組織再編を機に、車両基地にメスが入れられてもおかしくはありません。

起工式のようす

起工式には、京成電鉄や戸田建設、鉄建建設、京成建設の役員らのほか、酒々井町の小坂町長らが出席。祈祷や鍬入れによって、工事の安全を祈願しました。

宗吾車両基地の拡充工事は、2028年度末の竣工を予定しています。現工場の敷地については、2029年度から撤去する計画です。

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