素性を隠すため?感情を抑えるため? 『ガンダム』の「仮面の男たち」が顔を隠したそれぞれの理由

ガンダムユニコーンエース『逆襲のフル・フロンタル』(KADOKAWA)

『ガンダム』シリーズでは「仮面キャラ」がお約束となっているが、仮面を被る理由はそれぞれ異なる。中には、劇中で本人が明かした理由と、真の理由が違うと考察されることも珍しくない。そんな奥深い、仮面キャラと仮面の関係を、名シーンを振り返りながら検証していこう。

■素性を隠して復讐に燃える…シャア・アズナブル

『ガンダム』シリーズの仮面キャラといえば、やはり原点にして頂点、シャア・アズナブルだろう。シャアが仮面を被る理由はさまざま語られており、アニメ『機動戦士ガンダム』では「顔にやけどがあるため」という噂がジオン公国軍の中で広まっている描写がある。

第33話「コンスコン強襲」ではコンスコンがシャアの仮面について、「やつはなぜマスクを外さんのだ」と部下に問い、「ひどいやけどとかで……美男子だとの噂もあります」と答える場面がある。また最終話「脱出」では、シャアの素顔を見た兵士による「噂のやけどはございませんな」というセリフもあるが、「顔のやけど」というのはシャアがカモフラージュのため、自ら広めた口実ではないかと推察される。

本当の理由は、敵討ちのためだ。シャアの本名は、キャスバル・レム・ダイクンといい、父であるジオン・ズム・ダイクンはジオン公国(当初は共和国)の祖である。しかし、父がザビ家に暗殺されてしまい、その復讐のため、ジオン軍にシャア・アズナブルとして潜り込んだのだ。

ちなみに、その経緯は2016年公開の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』で明らかとなるのだが、実はシャアという人物は別に存在し、彼はそれに成りすましている。つまり、シャア・アズナブルが偽物である、さらにはダイクンの息子であるとバレないように、仮面をつけるようになったのだと考えられる。

すべてを知れば、第38話「再会、シャアとセイラ」にて、テキサスコロニーでセイラ・マスこと妹のアルテイシアと再会した際に発した「私は過去を捨てたのだよ」というセリフが、非常に重要な意味を持つことがわかるだろう。

■自らの弱さをごまかすため…カロッゾ・ロナ

続いては頭部を完全に覆う、フルフェイスの仮面が特徴的なクロスボーン・バンガードの総司令官カロッゾ・ロナ。巨大モビルアーマー・ラフレシアを駆る『機動戦士ガンダムF91』のラスボスでもある彼は感情をいっさい見せず、その冷徹な見た目から「鉄仮面」と呼ばれている。

仮面を被ったきっかけは、義兄のハウゼリー・ロナの暗殺にある。もともとは優秀な科学者だったカロッゾは、巨大複合企業「ブッホ・コンツェルン」の会長であるマイッツァー・ロナの娘・ナディアに見初められ、ロナ家の婿養子になる。義父マイッツァーからも信頼される「ロナ家の男」として邁進するが、一方でロナ家の思想を嫌うナディアは彼に幻滅し、娘のベラ・ロナを連れて別の男と駆け落ちしてしまう。

これに加え、中央政府議員である義兄ハウゼリー・ロナが、反対派の勢力に暗殺されるという事件も重なり、カロッゾがロナ家唯一の後継者となった。こうした不幸の連続を断ち切るため、カロッゾは自分の肉体を強化し、重々しい仮面を被ることとなったのだった。

カロッゾが成長した娘のベラと再会した場面で、かつての妻ナディアに「素顔であれば今お前を殴り殺していたかもしれん……それを抑えるためのマスクだ」と言うセリフがある。

これらのセリフや経緯から、彼の仮面は、ロナ家の男としての重圧から逃れるため、また自分の負の感情を隠すための、自己暗示のような意味もあったのだと推測される。

また、頭を狙撃された場面で、仮面によって銃弾が跳ね返される描写もあった。いつ暗殺されてもおかしくない立場でもあり、物理的に身を守る必要もあったのかもしれない。

■仮面はファッション…フル・フロンタル

「シャアの再来」と呼ばれ、オマージュを思わせるセリフもあり、また全く違う人物としての対比も描かれている『機動戦士ガンダムUC』のフル・フロンタルも、『ガンダム』シリーズの仮面キャラとして興味深い人物だ。

フル・フロンタル自身は、仮面を被る理由について、主人公バナージ・リンクスとの初対面時に「ファッションのようなものでな、プロパガンダと言ってもいい」と語っている。これは小説版『機動戦士ガンダム』で、シャアがホワイトベースのクルーに対して説明したことのオマージュだろう。

そういったメタ的な要素を除くと、特に抵抗もなく仮面を外し、その後も仮面に依存している様子はなく、ファッションとプロパガンダのためというのは、本当だと考察できる。

フル・フロンタル自身は、シャアの兄弟でもクローンでもないため、容姿をシャアに似せる必要があったというのもあるだろう。

顔の傷を隠した『機動戦士ガンダム00』のミスター・ブシドーに、老化していることを隠した『機動戦士ガンダムSEED』のラウ・ル・クルーゼなど、シャアとフロンタルを含め、基本的に物理的に何かを隠すための仮面である。

そう考えると、自分の気持ちを自分に隠す暗示として使用したカロッゾの異質さが目立つ。仮面に着目して、様々な思いをはせるというのも面白いものである。

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