「あれもこれもできなかった…」となった時期も テレビ東京で働く真船佳奈さんが子育て漫画を続けられるワケ

テレビ東京で働きながら漫画家としても活躍中の真船佳奈さん【写真提供:テレビ東京】

実体験を基にしたエッセイ漫画は、共感を呼ぶジャンルとして人気です。テレビ東京で働きながら漫画家としても活躍する真船佳奈さんも、書籍やSNSで作品を発表し、数多くの読者の支持を集めています。「Hint-Pot」ではそんな真船さんに、インタビューを実施。前編では、仕事や育児をしながら、漫画家としても働く日々についてお話を伺いました。

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「『睡眠時間を削って描いているんでしょう?』と言われますが…」

真船さんは、2012年に株式会社テレビ東京へ入社。2015年に異動した制作局で、バラエティや音楽番組のアシスタントディレクター(AD)をしながら絵日記を描き始めます。そして、2017年10月にAD経験の絵日記をモチーフにしたコミックエッセイ「オンエアできない!~女ADまふねこ、テレビ番組作ってます~」(朝日新聞出版刊)で漫画家デビューしました。

その後、結婚・出産を経て、現在は同社のマーケティング局プロモーション部で働いています。2歳の息子さんの育児もあるなか、どうやって漫画を描く時間を確保しているのでしょうか。平日のタイムスケジュールを聞いてみると、「めちゃくちゃ寝ています」という意外な答えが返ってきました。

「朝は息子に、7時半に起こされます。物心つく前から『(真船さんを)起こさないと、何もできない』と理解しているのか、カーテンを開けて日光を浴びせるなど、あの手この手で……(笑)」

その後、朝ごはんを食べさせながら、連絡帳を書き、8時半には夫が保育園へ送りに。その間に余裕がある日は洗濯や洗い物などをしてから出勤します。通勤の電車の中では漫画家さんのラジオ番組を聞きつつ、描いた漫画の画像加工をしたり、SNS予約投稿をセットしたり。さらに、本業に関する勉強もするといいます。

昼休みはSNSをチェックしながら、iPadで漫画を描くこともあるそうですが、「ランチしながらSNSを見て、終わっちゃうほうが多いです」と真船さん。時短勤務を終えると、夕方5時半には息子さんのお迎え、夕飯を食べさせてお風呂に入れ、夜9時には寝かしつけているそうです。

「息子が完全に寝て、9時半頃から作業することもありますが、ほぼ一緒に寝てしまいます。仕事をして、育児もしながら漫画も描いていると、『睡眠時間を削って描いているんでしょう?』と言われますが、相当しっかり眠っているほうですよね(笑)」

再投稿するたびに反響が大きい「仁義なき保活物語」シリーズのひとコマ【画像提供:真船佳奈】

妊娠・出産を機に変わったペース 描き続けてきたからできる「再放送」

以前は、毎日2~3ページは描いて投稿するのが当たり前でしたが、妊娠・出産を機に生活が変わり、漫画を描くペースに大きな変化が。締め切りに合わせるのが難しいため連載は断り、現在は時間に融通が利く自身のSNSでの漫画掲載や電子書籍などのセルフ出版、スケジュールに余裕のある書籍のみで、作品を発表しています。

「妊娠したとき、つわりでなかなか漫画が描けず、楽しみにしてくださった読者のみなさんをお待たせすることにもなったと感じたので……。今の状況、できるペースで描いています」

とはいえ、X(ツイッター)アカウント(@mafune_kana)などのペースを見ると、かなりの頻度で更新しているように思えます。それを真船さんは「再放送が多いんですよ(笑)」と、テレビマンらしい言い回しで表現。長い時間をかけて蓄積した2000ページほどのストックから、季節や話題性などタイミングを見て過去作品を紹介し、投稿のペースをキープできているそうです。

週3日ほどベビーシッターとして息子さんを預かる母【画像提供:真船佳奈】

夫や母、祖母、ベビーシッター ともに子育てする「仲間を探す」大切さ

過去の作品も活用し、無理のないペースで投稿している真船さんですが、「新作は、月に1シリーズくらい連載できればと思っています」といい、書籍の出版直前などは忙しくなることも。そうした時間を作るため、一緒に子育てする夫のほか、周囲の人やプロの力も借りています。

「平日は週3日、母にベビーシッターを頼み、週末の休みは2日のうち1日は、夫が子どもを見てくれます。寂しい思いをさせたくないので、なるべく息子の予定に合わせつつ仕事をするようにしています。先日も家族3人で、車で室内遊園地へ行き、夫と子どもが遊んでいる間に、私は近くの喫茶店にこもるつもりでした。でも、まさかのリサーチ不足で周辺に飲食店がなくて……。仕方なく寒さに震えながら、駐車場に停めた車の中でネームを描いていました(笑)。

あと、息子はおばあちゃんとひいおばあちゃんが大好き。この前も2日間泊まりに行き、日中は祖母が息子と遊んでくれました。そのほかに、どうしてものときは、プロのベビーシッターさんにお願いすることもあります。家族に頼れない人も多いと思いますが、プロを含めて頼みやすい、頼りやすい仲間を作るのが大切だと考えています」

子どものために育児に専念したいというタイプの母親も、自宅で保育することも素晴らしいと感じるそう。一方で、「私は違うタイプだと思ったんです」と話し、今の形に落ち着くまでには、紆余曲折もあったと明かしました。

漫画も含め真船さんの仕事を理解し一緒に子育てする夫【画像提供:真船佳奈】

友達の誘いを断っていた夫 母をベビーシッターとして“雇う”理由

真船さんは「私の場合は漫画が趣味でもありますが、仕事としてお金もいただいているので、描く時間を『仕事だから』と言えて、時間が作りやすい」といい、そのことで反省したこともあったのだとか。

「夫に『この日は仕事しなきゃなんだけど』と息子を引き受けてもらったとき、実は夫が友達との予定を断っていたことが、あとでわかったときがあって。『仕事だから』と、優先してくれたのはありがたいけど、夫にも友達と過ごすほか、自分の時間は必要です。お互いに予定を伝え合っていたら、実家に泊まりに行ったり、ベビーシッターさんにお願いしたりなど、第三の方法を考えることができたのに……という話をしました」

そして週2~3日、息子さんを預ける母には「『親子でお金のやりとりをするなんて!』と思う人もいるでしょうし、プロに支払うのと比べたら、かなり申し訳ない金額ですけど」と断りを入れつつ、ベビーシッター代を払っています。

実母であっても、子育ての感覚が違うなど、お互いにストレスを溜めるケースは少なくありません。真船さんも一時は、同様の状況に陥りました。そのとき、悩んでいる真船さんを見た実母から「お母さんをベビーシッターとして雇わない?」と提案されたのだとか。

多くの人に囲まれ、すくすく成長している息子さん【画像提供:真船佳奈】

「子どもが生まれたばかりの頃、何度か手伝いに来てもらいました。でも、母には母のやることがあるなか、申し訳ないし、私自身が母に甘えているのも嫌だったり、息子の教育方針でぶつかってもなかなか本音が言えなかったり……と、イライラしてけんかになることも。もちろん感謝しているし、旅行や食事、贈り物などできるタイミングでのお礼はしていましたが、一方的に援助してもらう関係に遠慮する気持ちから『お金を払ってプロのベビーシッターさんに頼むほうが……』と考えがちになっていたんです。

母はそんな私を見かねて、『孫はかわいいから、もちろんタダでも今まで通り手伝いに来たい。でも『申し訳ない』という気持ちで頼みづらくなってしまうのであれば、“お仕事”として金銭を介在させたほうがいいんじゃない?』と。そうしたことで、気兼ねやけんかもなくなりました。息子に対してこうしてほしいということも、お仕事としてだからこそ伝えられるようになったんです。

仕事に復帰後は母が来やすいように、母の家の近くに引っ越しました。母が帳面に、預かった日数や買い物で立て替えた金額を記録してくれて、月末にお給料袋に入れて支払うんです。微々たる額なのですが、『これで今月は服を買う』など、母が“お仕事”として生きがいにしているのを見て、この形にして良かったなと思います」

さまざまな人が子育てに関わることで、息子さんにいい影響を感じているともいいます。

「私ひとりで、子どもとふたりっきりだった時期は、何をするわけでもなく目の前のことに対処するだけで時間が過ぎていき、夕方になると『今日もあれもこれもできなかった……』と、つらくなってしまっていました。余裕がなくなると、家事がうまくいかないイライラを、息子に隠し切れなくなるときもあって。でも今は、息子を大切に思っている人たちが、私のほかにもたくさんいるという状況で、息子が心底かわいく感じられるようになりました。

ほかの人の目を通すと、今まで知らなかった息子の長所もどんどん見つけられます。もともとの性格もあるかもしれないけれど、息子は人見知りせず、楽しく過ごしてくれていますね。もちろん、外部に頼むなかで出費もかさみますが、息子が小さくて手がかかるうちは、これも必要経費だと思って割り切っています」

さまざまな人が子育てに関わることで、息子さんの世界も広がっているようです。

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