バーベキューならぬ“カーベキュー”? Der FREIRAUM デアフライラウム“自由な余白”♯22

「バーベキュー」の語源は西インド諸島で、スペインに渡った言葉が英語圏で少し変形して落ち着いたそうです。BBQという表記の方が馴染み深いですね。いずれにせよ肉を炙るための道具で、回転する焼き串台はダイナミックでいかにもアメリカ的です。そんな豪快なシーンが目の前に広がっています。

これは、通称「カーベキュー」と呼ばれ、丸焼きならぬ丸裸のシャーシをぐるぐる回せる作業台。通常の姿勢では作業しにくい箇所もコレが有れば自由自在、横倒しも裏返しも思いのまま! クルマの底をこんなふうに見ることはないのでなかなか強烈です。

今回、思いがけずバラバラ状態のGolf Caddyを購入したこと、精鋭揃いのプロショップが引き受けてくださったことで、クルマ趣味人の憧れの光景を目にすることになりました。もちろん、骨組みとは言え鋼鉄製、クルマ一台分ともなればそれなりの重さがあるし、そもそも汎用の作業台なので、ポン!とCaddyを固定出来たわけではありません。安全確実な作業のために、専用のアタッチメントを製作くださった上で固定されています。中央自動車鈑金工業所の丁寧な仕事が光ります。

ご覧のとおり、現在は本当にボルトの1本まで外された、正真正銘の「骨」状態。ここまでクルマをバラしてレストアすることなど、この先もあるとは思えない貴重な体験です。

Caddyは、いわゆるトラックの形をしていますが、VWの車体番号区分では商用車(LKW)でなく、乗用車(PKW)に分類されています。前半分は初代Golfと全く同じモノコックフレーム、そこに後半のラダーフレームが架装されていることから、乗り心地はGolfそのものである、と当時のカタログに謳われています。

鉄板は現在のVW車より硬めだそう。

「カーベキュー」台での最初の工程は、ルーフパネルの交換。前オーナーのヨーゼフが、アクリル製のポップアップルーフをつけようとしてくり抜いた状態になっています。交換パーツの供給はとうに終了していたので、当初は鉄板を叩き出して埋めよう、と算段してくださっていました。ただ、どうしてもパテを多用することになるので、出来れば部品があればなぁ、と言うことで、世界のあちこちでルーフパネルを探しました。

ルーマニアに交換パーツあり、と言うのが分かってコンタクトするも、日本への輸出は出来ないとのこと。その後は解体パーツを探したのですが、錆が酷かったり凹んでたり。 そんな中、ルーフからBピラー部分が切り取られた解体パーツを発見。アクセスしてみると、なんとリトアニアでの出物。

果たして送ってくれるだろうか……しかもこの大きさでは送料がとんでもない金額になる。必要なのは屋根の部分だけなので、カットしてくれるか打診してみることに。この売り手、ギドリウス氏がとっても理解ある人で(あとで彼自身も大変なVW好きとわかる)とにかく話が通じる。私はリトアニア語はさっぱりですが、ギドリウス氏は英語が堪能で、希望のサイズにカットの上、尼崎の工房へ発送してくれることに。良い人に辿り着きました。彼もCaddyをはじめ初代GTIから旧いPoloから、CabrioにCorradoに……と、十分にイッちゃってる人。リトアニアは他のパーツもけっこう手に入るようで、困った時の相談相手ができ、いつか訪れてみたい国になりました。

(左)エアソーで切断開始。(右)作業はリトアニアからのパネルを合わせながら慎重に進みます。

さて、そんなこんなで無事に尼崎に届いたCaddyのパネル、元々のルーフを切り取りコイツを溶接する工程が始まりました。腕の立つお二人が早速執刀にかかります。ゴロンと横倒しになったCaddyのルーフパネルに切り込みを入れていくのはエアソー。ウィンドシールドの上辺部分のスポット溶接は、まず溶接箇所をドリルで抉り、タガネのようなものを打ち込んで剥がすように外していました。時々、交換用のパネルを当てがいながら慎重な作業が続きます。お昼休みを挟んで、最後に残った左Aピラー周辺を切断、見事にパネルが外れました。

外れて支えを失ったルーフパネルはボワンボワンとたわんでいました。

エンジンも分解して徹底洗浄

(左)20年寝ていたエンジンを徹底的にクリーニング。 (右)無事再始動できるか。

この日は、並行してエンジン解体作業も実施。「カーベキュー」台のそばにスペースをお借りし、整備の心得のある友人にヘルプいただきながら、自分でも手を動かしてみました。このエンジンをドライアイス洗浄という手法でクリーニングし、再び組み上げる予定で、初挑戦だらけのレストア作業になります。ドライアイス洗浄は、グリーンテックさんの全面協力をいただき、エンジンからリーフスプリングに至るまで綺麗にしていただけることに。ドライアイスの粒子を高圧で吹き付け、塗装やプラスチックを痛めず汚れだけを落とすという素晴らしい技術です。サンドブラストだと砂粒が隙間に残ってしまうところ、ドライアイスは蒸発してしまうので、入り組んだところにも使える利点があります。さらに、ドライアイスは工場等で出たCO2を再利用しており、エコの視点からも有効なクリーニング方法なのです。

時々緩まぬボルトが立ちはだかるも、ガスバーナーの力を借りながら作業は着々と進行、自分の手でカムシャフトを取り出すなど想像もしなかった体験です。20年も不動だったエンジンですが、内部は綺麗で一安心。エキゾーストマニホールドだけはサビ?で土偶みたいな質感になっていましたけど。

これだけバラせば、重たいエンジンも人手で運ぶことが出来ます。ピカピカになった部品を組み立てる日が楽しみです。

この先、鈑金作業としてはルーフパネルの溶接、そして同じくヨーゼフによって改造されているキャビンと荷台の仕切りパネルの復元が続きます。エンジンパーツはグリーンテックさんで 着々と洗浄されています。

中央自動車鈑金工業所の皆さんと。右端が筆者です。

そして、これらの作業工程を記録に残し、プロフェッショナルの技を広く発信するために、今年の4/12-14に幕張メッセで開催される「Automobile Council 2024」に“PROJECT CADDY”として出展します。個人出展なので小さなスペースになりますが、プロジェクトの概要、進捗、そしてドライアイス洗浄されたパーツ類を展示予定ですので、ぜひ会場に足をお運びいただければ幸いです! そして、出来れば再来年のカウンシルには完成したCaddyを展示したいと妄想しています。まだまだ遥かな道程ですが、一歩ずつ進んでいければと思います。

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