国が借金しても…「破綻する国」と「破綻しない国」の決定的な差。日本が危ない本当の理由

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政府は約1,200兆円もの莫大な借金を抱えています。多くの借金を抱え、国家破綻に陥った国もありますが、破綻していない国との違いはなんでしょうか? 本記事では、お金の向こう研究所の代表を務める田内学氏の著書『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)から一部抜粋します。日本の借金について考えてみましょう。

あらすじ

キレイごとが嫌いな中学2年生の佐久間優斗は「年収の高い仕事」に就きたいと考えていた。しかし、下校中に偶然出会った銀行員の久能七海とともに「錬金術師」が住むと噂の大きな屋敷に入ると、そこで不思議な老人「ボス」と対面する。

ボスは大富豪だが、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」と語り、彼の話を聞いて「お金の正体」を理解できた人には、屋敷そのものを譲渡するという。図らずも優斗と七海はその候補者となり、ボスが語る「お金の話」を聞くことに……。

登場人物

優斗……中学2年生の男子。トンカツ店の次男。キレイごとを言う大人が嫌い。働くのは結局のところ「お金のため」だと思っている。ボスの「お金の話」を聞くために、七海とともに屋敷へと通う。

七海……アメリカの投資銀行の東京支店で働く優秀な女性。当初の目的は投資で儲ける方法をボスから学ぶことだったが、現在はボスの「お金の話」を聞くために屋敷へと通う。

ボス……「錬金術師が住んでいる」と噂の大きな屋敷に住む初老の男性。関西弁で話す。1億円分の札束を「しょせんは10キロの紙切れ」と言い放つなど、お金に対する独自の理論を持つ大富豪。

働けなくなった国の行く末

病室に戻ると、にこやかな顔をしたボスがソファに座って待ち構えていた。時間を惜しんでいるのか、2人が腰を下ろす前に、彼は話し始めた。

「借金をして、破綻した国もあれば、破綻しなかった国もある。2つの国を分けるのは、そのお金で誰に働いてもらったかということや。破綻した国は、国の中の人たちが働かなかった。家の借金と同じで、外側にいる人に頼りすぎたんや」

破綻した国の事情は、大まかには同じだとボスは言う。

借金をしても国内の労働力に頼るなら問題なかったが、外国の人に働いてもらったせいで、お金がどんどん外に流れて、将来世代が働いて返さないといけなくなった。外国へのツケを増やしすぎて破綻したそうだ。

その話を聞いて優斗は心配になる。

「日本って、大丈夫なんですか。ちゃんと働いているんですか?」

「グッドポイントや。外国に頼ることもあるし、外国のために働くこともある。問題なのは外国に頼りすぎることや。そうするとお金がどんどん外に流れる。貿易黒字という言葉は聞いたことあるやろか」

日本人の国民性を表す「貿易黒字」

授業中に先生にあてられたときのように、優斗の肩に力が入った。

「えっと、輸出だとお金が入って、輸入だとお金が出るから……、輸入より輸出が多いと、貿易黒字になります……よね?」

不安そうな内心を察してか、ボスは優しくほほえんだ。

「難しく考えんでも大丈夫や。優斗くんの家が独立して、1つの国を作ったことを考えてみたらええわ」

優斗の国では、トンカツが輸出品で、輸入しているのは服や電気などの生活必需品。トンカツがたくさん売れて貿易黒字になれば、この国のお金は貯まっていく。お金が貯まるということは、外国のためにしっかり働いているということだ。将来世代は、そのお金を使って、外国に働いてもらえるとボスは説明してくれた。

「なるほど。そのように貿易をとらえているんですね」

と、七海が感心する。

ボスによると、日本がこれまでに積み上げてきた貿易黒字はなんと250兆円もあるそうだ。その巨額の数字こそが、日本人の国民性を表しているという。

それは、日本人の勤勉さだ。

「借金をしても、なまけてお金を外に流してきたわけやない。むしろ、外からお金を稼いできた。自分たちのために働いた上に、外国のために250兆円分も働いてきたんや」

「なんだ。心配させないでくださいよ」

優斗は胸をなでおろしたが、ボスの話はここで終わらなかった。

「ぬか喜びさせて申し訳ないが、このままやと日本はやばいんや」

将来のツケになる本当の赤字

最近になって日本は大幅な貿易赤字に転落しているという。かつて、その品質の高さから飛ぶように売れていた日本製品だが、外国も技術的に追いつき、輸出を増やすのは簡単ではないらしい。加えて、高齢者人口が増える中、医療や介護の分野で働く人手を確保する課題も抱えている。

「輸出が増えないからといって、輸入をおさえるのも難しいですよね」

と七海もしぶい顔をする。食料やエネルギーの自給率の低い日本は、小麦などの食料品や、発電に必要なエネルギー資源を海外に頼っているそうだ。

「七海さんの言うとおりや。食べ物や電気は生活必需品やから、輸入をがまんするわけにもいかへん。これが高級ブランドのバッグなら、がまんすればすむ話やけどな」

しかし、貿易赤字が増えると本当に困るのだろうか。優斗の頭に疑問が浮かんだ。

「貿易赤字って、外国にお金が流れるのが悪いんでしょ。だったら、お金を印刷しちゃえばいいんじゃないですか」

「おもろいアイディアやな。せやけど、問題は国内にある日本円が足りなくなることやない。外国が日本円を大量に持つことや」

日本円が使えなくなったときに起こる最悪の事態

日本円を使うことで、外国の人たちは、日本製品を買ったり日本を旅行したり、さまざまな形で日本の人に働いてもらえる。もし、外国の人たちが大量に日本円を保有するようになって、それを使い始めたら、日本にいる僕たちは、自分たちの生活だけでなく、外国のためにもたくさん働かなければいけなくなる。

それこそが将来のツケになるとボスは言う。

「でも、それって、ふせげませんか」

優斗は、その話を自分の国に置き換えて考えてみた。

「僕の国で発行したサクマドルを外国の人たちがたくさん持っているのと同じなんでしょ。サクマドルを使わせなくしたらいいじゃないですか」

その反論に、ボスは首を振った。

「そうは問屋がおろさへんで。日本円が使い物にならへんと、外国の人たちは日本円を欲しがらなくなる。日本円の価値が下がって、誰も食料や石油を売ってくれへんやろな。そうならんためにも、貿易赤字は無視でけへん」

言い終えると、ボスは急に咳き込み始めた。

顔がみるみる赤くなる。

「大丈夫ですか?」

七海が心配そうに駆け寄り、ボスの背中を優しくたたいた。咳はしばらく続いたが、彼女が背中をたたくたびに少しずつ収まっていった。

「もう、大丈夫や。すまんすまん」

三度ほど深呼吸をしてから、ボスは話を戻した。

「七海さんのわだかまりは解消できたやろか。僕らは借金と引き換えに今の生活を送れているんやない。借金と同じだけ預金が存在しているし、今のところは、外貨をたくさん貯めている。せやけど今がふんばりどきや」

「私たちの生活は、過去の蓄積の上に成り立っていることには変わりないんですね。将来にツケを残さないためにも、外国に頼るだけではなくて、外国のために何ができるかを考える必要がありますね」

「何をするのが正解なのか、僕にはわからへん。それに、今の僕の話は、日本のことしか考えてへん。外国のことを考えていたわけやない。君らが思う正解の未来を、ぜひとも作ってほしい」

田内 学

お金の向こう研究所

代表

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