大腸がん公表の橋爪淳さんは検便受けず後悔…早めの検査の重要性(中川恵一)

(橋爪淳さんのインスタグラムから=右は筆者)

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

俳優の橋爪淳さん(63)が大腸がんを公表されました。NHK大河ドラマ「光る君へ」での出番が終わり、仕事の区切りがついたことで、公表に踏み切ったようです。

実は橋爪さんとは以前からお付き合いがある関係で、異変があったときに相談を受けました。2月初旬の内視鏡検査で5センチほどの大腸がんが見つかったタイミングです。東大病院での入院治療も終わり、今月からは主宰されている「非・演技塾」でのレッスンを再開されています。

橋爪さんのケースに関連して、読者の方々にも知ってほしいことが2つあります。ひとつは、橋爪さんが実感された「早めの検査」です。橋爪さんは不幸中の幸いで治療からまもなく仕事に復帰できましたが、「早めの検査」が実現しないと、復帰できても治療や療養が長引いたり、最悪の場合復帰できなかったりするかもしれません。そういう残念なシナリオをなくすために必要なことが、早めの検査です。

大腸がんや胃がん、乳がんなどはステージ1なら9割治ります。それがステージ4だと、大腸がんは約2割、胃がんは1割以下、乳がんは約4割に低下。検査を受けず、早期発見のチャンスを失うのはもったいない。

大腸がんは検便で済み簡単です。ただし、暑い時季は、採取後の冷蔵庫保管に加え、提出当日、移動に時間を要す方は保冷剤で冷やすこと。常温で持ち歩くと、潜血が分解され、検査で反応しない恐れがあります。

橋爪さんは検便を受けていませんでした。いまは後悔し、早期発見の大切さを実感されています。その大腸がんや胃がん、肺がん、子宮頚がん、乳がんの5つのがん検診は世界的に延命効果が認められていて、受診をお勧めします。

もうひとつは、早期発見とは逆説的になるかもしれませんが、過剰診断について。私が所属する総合放射線腫瘍学講座で作製した短編映画のテーマが「過剰診断」で、その主演をお願いしたのも橋爪さんでした。

橋爪さん演じた主人公は60代の男性で、主治医に前立腺がんの検査を勧められたことをキッカケに血液検査で前立腺がんのマーカーをチェック。それでがんが見つかり、主治医の勧めに従って摘出手術を受けます。術後の合併症に悩みながらも寿命を全う。天国への“関所”で手術は不要だったことを知ります。

過剰診断は、生命を脅かす必要のない病気を診断して見つけることを意味します。そうすると、必要ない、過剰な治療が行われるリスクが高い。前立腺がんはそんながんの典型で、治療せずに寿命を全うできるケースが少なくありません。

ですから橋爪さん演じた主人公にとって、前立腺がんは過剰診断で、手術は過剰治療。主人公の場合、術後合併症は、生きるために耐えるべきものではなかったというわけです。

つまり、検査と診断はどちらも過不足なく、適正であることがとても重要。私が今回のケースで皆さんに知ってほしいのは、早期発見の大切さがひとつで、もうひとつはその結果が過剰診断でないか疑いの目を持ってほしいということ。後者については、セカンドオピニオンが大切です。

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)

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