実は宇宙世紀で最強の主人公?『Vガンダム』ウッソ・エヴィンが持つ「驚異的な才能」

富野由悠季氏の小説『機動戦士Vガンダム Vol.1 ウッソ・エヴィン』(角川スニーカー文庫)

『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて重要な意味を持つ「ニュータイプ」。アムロ・レイやカミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタなど宇宙世紀シリーズの主人公たちは、ほとんどがニュータイプの素質を持つ優れたパイロットだった。なかでも、パイロットとしての総合能力がトップクラスとも言われるのが『機動戦士Vガンダム』の主人公ウッソ・エヴィンだ。

1993年4月から1年間にわたってテレビ放送され、今年で最終回から30周年を迎えた同作。そこで今回は、「宇宙世紀最強説」まで浮上するウッソの何がすごいのか、身体能力やメンタル、ニュータイプ能力の観点から振り返ってみよう。

■サバイバビリティ高すぎ!驚異の身体能力と回復能力

ウッソは高いニュータイプ能力を持っているが、そもそも13歳の少年ながらに驚異の身体能力と回復能力を持っている。

まずは身体能力。母親の英才教育によって8歳で刃物の扱いや救急手当てを学び、11歳でナイフ投げをマスターした。そうしたサバイバル能力の高さは随所で見られ、第1話「白いモビルスーツ」では、モビルスーツより射出され、敵兵のクロノクル・アシャーが「あの高さ、助かるまい」と言うほどの高さから落ちたものの、睡眠をとっただけで通常どおり活動していた。

また第26話「マリアとウッソ」では、ザンスカール帝国の捕虜になり脱走し、手錠をされた状態で敵兵の銃に飛び乗って兵士を蹴り倒している描写がある。

最終話「天使たちの昇天」では、カテジナ・ルースにナイフで脇腹をえぐられたが、治療スプレーを噴射してすぐに戦い始めている。ウッソと対峙した敵にとってこの肉体能力の高さは、ニュータイプではなくても脅威だろう。

■大人でも病みそう…強靱すぎる鋼のメンタル

次にピックアップするのは、強靱すぎるメンタル。『機動戦士Vガンダム』では、13歳のウッソが、否応なしに戦争に巻き込まれ、悲惨な光景を目の当たりにする展開が描かれる。

その数や凄惨さは、歴代ガンダムの主人公が見てきたものの比ではない。本作でもっとも代表的なシーンといえば、ウッソを可愛がっていたモビルスーツチーム「シュラク隊」の死亡シーンだろう。シュラク隊のメンバーは最終的に10人だったが、その全員が死亡している。しかも、ほとんどがウッソを守るために死んでいるため、彼にとってはトラウマになりかねないほど衝撃的なシーンだ。

さらに、ウッソがレジスタンス組織「リガ・ミリティア」に参加したばかりの頃、敵に捕まったオイ・ニュング伯爵がギロチンで公開処刑される。中継とはいえ、その様子をしっかり見させられる。

もう1つ、衝撃的なシーンと言えば、母ミューラ・ミゲルの死だ。人質にとられたミューラは、戦いのなか戦艦に押しつぶされて戦死する。そこには頭部が詰まったヘルメットだけが残り、ウッソは大量の血が滴るヘルメットを抱えて茫然自失とする。『ガンダム』シリーズでも屈指のトラウマエピソードだ。

これだけ凄惨な人の死を目の当たりにしてきたにもかかわらず、通常の精神状態を保っていられるのは超人と言うほかに言葉が見当たらない。

■まさにスペシャル!地球育ちのニュータイプ

ウッソは、アムロやカミーユといったニュータイプとまったく違うところがある。それは、地球出身であることだ。

宇宙世紀におけるニュータイプは、宇宙に適応して進化した新しい人類とされている。つまり、地球生まれ、地球育ちのウッソは従来のニュータイプ出生論を真っ向から否定する存在なのだ。それでいて周囲のメンバーからは「スペシャル」と呼ばれるほど、常人離れしたパイロット能力があった。

さらに初めて宇宙を経験してからはニュータイプ能力に拍車がかかり、ウッソ自身が気をつけなくてはいけないほど強くなってしまった。第39話「光の翼の歌」では、威嚇射撃をしたつもりが直撃。ウッソ自身が「避けてくれない!?」と驚いていた。そこでウッソは自身が強くなりすぎたことに気づき、手加減することを覚えている。訓練された大人のパイロットを相手に、13歳の少年が圧倒する様子はなにかの冗談に見えるほどだ。

映像化された宇宙世紀シリーズの時系列で、もっとも後期の年代を描いた『Vガンダム』。その主人公ウッソ・エヴィンは、アムロやカミーユといった名だたるパイロットと比べると明らかに異質な存在だ。

本作は「よく人が死ぬ」作品なので、もし主人公がアムロやカミーユだったら、目も当てられないようなダークなストーリーになっていたかもしれない。つまり、本作はウッソの強さがあったからこそ成り立った作品といえる。アフターストーリーとして大人になったウッソの活躍も見てみたいものだ。

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