バイデン氏、イランのイスラエル攻撃は近くあり得ると予想 大使館空爆めぐる報復懸念

キャスリン・アームストロング(ロンドン)、ヒューゴ・バシェーガ中東特派員(エルサレム)

アメリカのジョー・バイデン大統領は12日、イランは「いずれではなく、もっと手前で」イスラエルを攻撃する可能性があり得るとの見解を示した。イランは、軍幹部が死亡した4月1日の在シリア・イラン大使館施設への空爆はイスラエルによるものだったと見ている。そのため、イランによる報復攻撃への懸念が周囲で高まっている。

バイデン氏はイランに対し、「(攻撃は)やめておけ」と警告した。「我々はイスラエルの防衛に注力している。我々は、イスラエルを支援する」とバイデン氏は述べた。

「我々はイスラエルの自衛を助ける。イランは成功しない」

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部を攻撃したことを、イスラエル政府は認めていない。しかし、同国が関与したと広く考えられている。

BBCがアメリカで提携するCBSニュースは、イスラエルへの大規模攻撃が今にも起こりそうだと複数の米当局者が語ったと報じた。

イスラエルは、自衛の用意はできているとしている。

一方のイランは、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルと戦うイスラム組織ハマスや、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなど、イスラエルを頻繁に攻撃しているいくつかのグループを含む、その地域全体で活動する様々な代理グループを支援している。

ヒズボラは12日、レバノンからイスラエルに向けて「数十発」のロケット弾を発射したと発表した。イスラエル国防軍(IDF)の報道官は、ミサイル約40発と爆発物を搭載したドローン2機が発射されたとした。死傷者の報告はなく、ほかの集団の関与は示唆されていない。

米政府関係者はCBSに対し、この集中砲火は予想されるイランの対イスラエル攻撃とは別物だと述べた。

わざと中東や米政府をかく乱

イランはわざと中東と米政府をかく乱し、攻撃時期をあれこれ予測させているのだと、BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は言う。

イスラエルは、イランがダマスカスを拠点に、レバノンとシリアにいるイランの代理勢力に対して、武器をひそかに供給しているとみている。

そしてそのダマスカスでは1日にイラン大使館施設が攻撃され、イラン軍幹部など複数人が殺害された。以来、イランの安全保障当局は対応について議論を重ねてきた。

何より大事なのは、程度だ。攻撃が強すぎれば、イスラエルは破壊的な力で対応するだろう。反対に軽すぎれば、イランは弱くて非力だとみなされる危険がある。戦術的な観点からすると、中東全域が厳戒態勢にあり、アメリカが世界に対して何を予想すべきかを伝えている今、イランがただちに対応することに意味はない。

イランのテヘランとコムでも、実利を重視する政府幹部は自制を促すだろう。対して、高齢の最高指導者アヤトラ・アリ・ハメ師らタカ派は断固とした対応を要求するだろう。

しかし、イランも、湾岸地域のアラブ近隣諸国も、全面戦争は望んでいない。湾岸地域の各国政府は、すでにイランに自制を求めている。では、イランでタカ派かハト派のどちらが最終的に勝利するのか。これが現時点での疑問だと、ガードナー安全保障担当編集委員は指摘する。

イスラエルへの渡航を警戒

緊張の高まりを受け、アメリカやイギリス、インド、オーストラリアなどはイスラエルへの渡航について注意喚起している。ドイツはイランから出国するよう、自国民に呼び掛けた。

米国務省もまた、イスラエルにいる外交官とその家族に対し、テルアヴィヴやエルサレム、ベエルシェバ以外への移動を禁止している。

こうした警告が相次ぐなか、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦時内閣のメンバーと協議した。

イスラエル市民の中には、イランの攻撃の可能性について心配していないと話す人もいる。

「私たちは東西南北を敵に囲まれている」と、エルサレムの市場を訪れていた市民はAFP通信に語った。「私たちは恐れていない。そう誓える。周りを見てください。みんな外出しているでしょう」。

イスラエルの従来のガイダンスは、水や3日分の食料、必須医薬品(世界保健機関が、国民の優先的な医療ニーズを満たすと定めているもの)を備蓄するよう国民に促している。イスラエル政府はこれ以外のガイダンスを、特に追加していない。

しかしイスラエルのラジオ局は、地方自治体が公共シェルターの準備状況を評価するなど、起こり得る攻撃に備えるよう指示を受けていると伝えた。

IDFは先週、戦闘部隊の帰国休暇を取りやめて防空体制を強化し、予備役を招集した。

イランが実際に攻撃を開始すれば、中東地域をこれまで以上に幅広く巻き込む地域紛争につながりかねないとの不安が広がっている。複数の国の関係者は、イランに攻撃を思いとどまらせようとしている。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は中国、サウジアラビア、トルコの外相と会談し、イランに対してもつ影響力を使うよう説得を試みた。

イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は12日、米中央軍司令官との会談後、この脅威によってイスラエルとアメリカの絆が強まったと述べた。そして、「どう対応すべきか我々は承知している」と話した。

ガザ地区での戦争は、昨年10月7日にイスラム組織ハマスがガザ地区に近いイスラエルの集落を襲撃したことで始まった。ハマスは民間人を中心に約1200人を殺害し、250人以上を人質にした。イスラエル政府は、ガザに残る人質130人のうち、少なくとも34人がすでに死亡したとしている。

ハマスがガザ地区で運営する保健省によると、イスラエルによるその後の攻撃で、ガザ地区では3万3600人以上が殺害された。そのほとんどが民間人だという。

この紛争の一環として、イスラエルは北側国境越しにほぼ連日、レバノンの武装勢力ヒズボラと砲撃の応酬を交わしている。他方、イラクやイエメンでイランが後押しする勢力は、イスラエル領を攻撃するほか、イラクとシリアで米軍基地を攻撃している。

さらに、イエメンの親イラン武装組織フーシ派は紅海を通過する船舶攻撃を続けており、これを受けて米英両軍がイエメン領内のフーシ派拠点を攻撃している。

(英語記事 Joe Biden expects Iran to attack Israel 'sooner than later'

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