蹴球放浪家・後藤健生のフィールドワークは、サッカーだけにとどまらない。世界各地の食も、大事な取材の一部だ。そして、食の重要な部分を占めるのが、のどを潤す酒である。サッカーと酒の知られざる関係とは――。
■ボルドー地方の「分厚いメニュー」の大半は…
僕たちが食事を始めてしばらくしたら、さっき見てきた試合の審判団もやって来ました。各地から集まったレフェリーたちも、やっぱり「せっかくボルドーに来たんだから、ここは絶対ワインを楽しもう」というわけなのでしょう。
メニューを見てビックリというか、納得してしまいます。
メニューといっても、料理の種類はたいしてありません。1ページに収まっています。分厚いメニューの大半はワインリストだったのです。
産地別にワインが並んでいます。高級ワインになれば村別に、さらに畑別に並んでいます。産地や村名や畑の名を見れば、知識のある人なら、どんなワインか分かるというわけです。
残念ながら、当時の僕はワインの知識がまだ足りませんでした。店の人の意見を聞いて、値段と相談して銘柄を選ぶしかありません……。
実際、ワイン通の食事というのは、ワインが主体です。
1回だけですが、そういうワイン通の方にお付き合いさせていただいたことがあるのですが、まず店に電話して「どんなワインを飲むか」を決めて、到着予定時間を言っておきます。すると、ソムリエがその時間に合わせてワインをデカンタージュしておくのです。「デカンタージュ」というのは、ワインをボトルからデカンタに移すこと。その作業によって、適当な時間、ワインを酸素にさらして、飲むのに適当な状態にするのです。
そして、食事もそのワインに合ったものを、ソムリエが選んでくれるというわけです。
■ニュージーランドで「ブルゴーニュ」に遭遇
昨年の8月に女子ワールドカップの観戦のためにニュージーランドを訪れました。日本代表(なでしこジャパン)が首都のウェリントンでスペインと対戦するので、僕もウェリントンに泊まっていました。
ウェリントンは、首都といっても小さくて自然豊かな街でした。国会議事堂から歩いて5分ほどのホテルに泊まったのですが、周囲は緑に囲まれ、丘の上からウェリントン湾を見下ろせました。スタジアムまでも歩いて20分。とても便利なところでした。
ニュージーランドは最近、ワイン産業に力を入れています。ウェリントン近郊にも有名なマーティンボロというワインの街があり、土壌や気候がフランスのブルゴーニュ地方に似ているというので、ブルゴーニュと同じピノ・ノワールというブドウ品種の赤ワインや、ソーヴィニヨン・ブランの白ワインで有名です。
そのウェリントン市内中心部にある「ハドソン」というパブを見つけました。
近くの大企業で働くサラリーマンが仕事帰りに飲んで帰る、そんな雰囲気のパブでした。
そして、ワインリストを見たとき、僕が思い出したのが、あのボルドーのレストランのメニューでした。
ワインの種類がとても多く、分厚いリストになっていたのです。高級なワインから、お手頃なワインまで。ニュージーランド各地のさまざまなブドウ品種のワインが並んでいました。
25年前の僕とは違って、今はワインについての知識も多少あります。ウェリントン近郊のワインを中心に、赤、白、ロゼを含めて、さまざまな産地のさまざまな品種のワインを試していきました。おかげで、ウェリントンには6泊したのですが、「ハドソン」にはなんと3日も通ってしまうことになりました。