CLAMPキャラ原案『グリム組曲』制作秘話を鈴木達央&Pが語る 「今のWIT STUDIOがわかる」

CLAMPがキャラクター原案を務めたNetflixオリジナルアニメシリーズ『グリム組曲』の配信直前トークイベントが4月13日、アニメイト池袋本店で開催された。WIT STUDIO代表取締役社長でプロデューサーの和田丈嗣、エグゼクティブプロデューサーの櫻井大樹、グリム兄弟の兄ヤコブ役を演じた鈴木達央、アニメーションプロデューサーの二宮源太が登壇し、本作の注目ポイントと制作秘話を語った。

グリム童話をダークファンタジーとして再解釈し、オムニバス形式で描く『グリム組曲』。企画の発案者である櫻井は、「グリム童話ってみんな大体知ってるストーリーなので、始まった時点で“こんな感じかな”っていう想定があると思うんですよね。まずはその想定を作っていただくというか。で、本編が変化球になっているという形。そこを短い尺でどれだけ説得力を出せるのかがポイントでした」と本作のコンセプトを語る。有名な物語に新解釈を加えるからこそ、いかに自然に、そして短時間で伝えるかを重視したと明かした。さらに櫻井は「シンデレラが一番性格が悪いと思う」と発言し、会場の笑いを誘った。

その鍵を握るのが、唯一全編に登場するグリム兄弟だ。兄ヤコブを演じた鈴木は、「もともと、導入と本編との差を作りたいと相談していて。本来のグリム童話の届けたい対象は子供だろうと思うので、こっちの世界は優しく紡ぎ上げていくことを意識しました。ギャップみたいなものを一番最初に差し込むことで、作品のカラーリングが一気に伝わりやすいのかなと思いました」と役作りの意図を振り返った。

さらに鈴木は「実はプロローグだけでなく本編にも出演していて、シャルロッテの頭の中の話なので、(声としては)お兄ちゃんたちも出てくるんですよね。だからそういう芝居の妙も楽しんでもらえたら」と続ける。すると櫻井が「オムニバスなんで1人も被り役がいないんですよ。声優さんが数多く出演されてますからね」と補足。「ゴツいキャストの人がたくさん出てくるので、幅広い年代の方たちがお芝居で戦い合うような面白さがあります」と声優陣の競演ぶりに期待を寄せた。

濃厚な世界観を形作る上で、本作がこだわりを見せているのが音楽だ。『グリム組曲』では、劇伴作家・宮川彬良がフィルムスコアリング方式で手掛けた楽曲がアニメーションと一体化する。和田は「WIT STUDIOとしてもフィルムスコアリングは初めての経験でした。今回は僕らが映像をほぼ完パケの状態にして、それに宮川先生が音楽を乗せる形を取ったんです」と明かした。

またスコアリングでの宮川とのやりとりについて、櫻井はこうエピソードを交えて紹介した。「最初、2話では僕はチャイコフスキーっぽい曲調がいいなと思っていたんですよ。でも、宮川先生に映像を見ていただいた時に『僕にはチャイコフスキーは聞こえてこなかったな』と……」と、宮川の音楽家としての矜持が伝わるやりとりを回想。鈴木は「痺れますね」と感嘆の声を上げた。二宮も「宮川先生とのやりとりは、もう音楽の勉強のようでした。みっちり付き合わせていただいたおかげで、各話の映像にどんぴしゃで、味わい深いサウンドを実現できた。収録はいつも癒しの時間でしたね」と創作の充実ぶりを物語った。

一方、音だけでなく目にみえる視覚的な仕掛けも見逃せない。注目すべきは絵柄の多彩さだ。鈴木も「各話の絵のタッチがどんどん変わっていくのが面白い」と興味を引かれたという。CLAMPによるキャラクター原案をいかに活かすかということに、制作陣もこだわりを感じていた様子。二宮は「なるべくCLAMPのタッチに失礼がないよう意識していました」と振り返る。

そこで和田から「CLAMP先生と鈴木さんは『BLOOD-C』以来?」との質問が飛ぶと、鈴木は「久々にCLAMPちゃんの絵柄の中で役をやるっていう。やっぱり話してるといくらでもいいアイデア出てくるし、毎回楽しくやってたんで、そういう空気感がまたすごく嬉しかったですね」と当時を懐かしんだ。

CLAMPとWITの架け橋として全6話のアニメーションの作画の統一感を担ったのが、同スタジオの大杉尚広だ。「大杉は本当に頑張ってくれました。CLAMPとWIT、双方の利点を活かした絶妙なアートワークに仕上がったと思います」と二宮は称賛の言葉を贈った。

トークも終盤に差し掛かり、司会の二宮が「では最後に一言お願いします」と振ると、鈴木は「こうやって人柱みたいに立ってるんですけど(笑)ひどいんですよ、最終的に僕に投げられるんです」とユーモアたっぷりに応じ、会場を沸かせた。

鈴木は「今回の『グリム組曲』は、ちょっと聞いただけでもその面白い作り方をしている、自分たちが知っているものとはちょっと違うアニメーションになったと思います。僕自身も全てを見させていただきましたが、監督ごとにカラーリングも違うし、出してくるものも違う。統一感はあるのに色が違うっていう、なんとも人間らしいフィルムができあがっています。これを見たら、今のWIT STUDIOがわかるかもしれません」「そんな不思議なグリム童話の世界を、ぜひ皆さんにも配信で楽しんでいただけたら」と視聴者へのメッセージを込めて、イベントを締めた。
(文=すなくじら)

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