『寄生獣 -ザ・グレイ-』チョン・ソニが圧巻の演技 どん底から再起するク・ギョファン

韓国ドラマ『寄生獣 -ザ・グレイ-』がNetflixで配信中だ(全6話)。岩明均の人気漫画『寄生獣』を原作に、『新感染 ファイナル・エクスプレス』『地獄が呼んでいる』のヨン・サンホ監督が実写化した。

まずは本作の概要をお伝えしよう。韓国で開催された若者が集う大型イベントで寄生生物に乗っ取られた人間が暴れまわる事件が起きる。その様子が拡散され世の中が大騒ぎする中、一人の孤独な女性チョン・スイン(チョン・ソニ)は、仕事の帰りに事件に巻き込まれ、寄生生物「ハイジ」が体の中に入り込む。

そしてもう一人、チンピラのソル・ガンウ(ク・ギョファン)は、暴力団の争いに巻き込まれたことで命を狙われ、故郷に逃げ帰ってくる。ところが、妹が行方不明になり、重い病だと聞いていた姉の様子がおかしい。そんな中、ハイジが体の中に入ったスインと出会う。

数カ月後、寄生生物たちは組織化して勢力を拡大し、人間を次々と襲っていた。事態を憂慮した韓国政府は、寄生生物を撲滅させようと専門の特殊部隊「グレイ」を立ち上げ、チーム長にチェ・ジュンギョン(イ・ジョンヒョン)が着任。寄生生物が多く生息している地域を管轄するナミル警察署とともに捜査に乗り出す。

全6話ということもあり、スピード感のある物語の展開とヨン・サンホ監督らしい寄生生物たちの不気味な描写で観るものを一気に惹きつける。今回は主要キャストであるチョン・ソニ、ク・ギョファン、イ・ジョンヒョンの魅力について述べてみたい。(以下、ネタバレあり)

チョン・ソニが巧みに演じるスインとハイジ

寄生生物・ハイジと共存するスインを演じるのは、現在NHK BSで放送中の『青春ウォルダム 呪われた王宮』でヒロインを演じているチョン・ソニだ。話題作への出演が続き注目されている若手俳優だが、本作でもいかんなく魅力を発揮している。

スインは母親に捨てられ、父親から日常的に激しい暴力を受けていた少女だった。ある日このままでは父親に殺されると警察に通報し、キム刑事(クォン・ヘヒョ)に保護され、それ以来キム刑事を慕いながら孤独に生きていた。

スーパーで働くスインは生気がなく、人生を諦めたような鬱々とした表情をしている。そんなスインはスーパーに来た客とトラブルとなり、帰宅途中で殺されかける。間一髪のところでスインの体に寄生生物・ハイジが入り込み、奇跡的に無傷で生還。スインを殺そうとした客はハイジによって殺される。

通常、寄生生物に体を乗っ取られると脳を食い尽くされるため本来の人格は崩壊してしまう。しかし、スインの体に入り込んだ寄生生物・ハイジは、脳を食い尽くす前にケガを負ったスインの体を治すほうを優先した。

そのため完全にスインの体を乗っ取ることができず、1日に15分しか姿を現さない寄生生物となった。つまり完全に寄生生物に体を乗っ取られた人間(もはや人間ではないのだが)とは違って、本来のスインの人格はそのまま残り、ハイジが現れる15分だけ人格が変わるというわけだ。

人格が変わるときは、後に行動を共にするガンウ(ク・ギョファン)が『ジキルとハイド』に例えて「ハイド氏」と呼んでいたように豹変する。チョン・ソニは2つの人格を巧みに演じている。

ハイジが他の寄生生物と違うところは、スインを徹底的に守ろうとするところだ。他の寄生生物は人間の体を車のように扱い、不要になったら別の人間の体に乗り換えようとする。これは、寄生生物が人間社会を征服するための手段でもあるのだ。

ところが、ハイジはスインと上手く共存し、ガンウを通じてスインにメッセージを送って的確なアドバイスをする。スインは最初、寄生生物が体の中に入った自身の不幸を心の底から憎むのだが、次第にハイジとの間に不思議な絆が生まれていく。人生に対して諦めモードだったスインが、ハイジと出会ったことで少しずつ強くなっていくのだ。そんな微妙な心の変化もソニは実に上手く演じている。

特にグッとくるのが、スインがグレイのチーム長、チェ・ジュンギョン(イ・ジョンヒョン)らに捕らえられ、意識を失っている際にハイジと向き合い語り合うシーンだ。そこでスインは自分がいかに不幸な人生を歩んできたか、恨みごとをハイジにぶちまける。しかしハイジは、スインを気遣ってくれる人がまわりにいるではないかとクールに説く。ハイジの言葉を聞いて、スインは号泣し自分を取り戻していくのだ。

最終的に、ハイジは人に傷つけられながらも人を恋しく思い、信じようとするスインの気持ちを尊重するようになる。寄生生物を撲滅しようと躍起になるジュンギョンの心さえもつかんでしまったハイジを演じるチョン・ソニの圧巻の演技に注目してほしい。

ク・ギョファン、ダメ人間から再起する姿を熱演

姉が寄生生物となり、妹を寄生生物たちに殺されたチンピラ、ソル・ガンウを演じるのがNetflix映画『キル・ボクスン』で、チョン・ドヨン演じるボクスンの後輩の殺し屋を演じたク・ギョファンだ。独特の存在感を見せるク・ギョファンが、今回も高い演技力で魅了した。

暴力団の下っ端として底辺を這いずり回る生活をしていたガンウは、ある日組織の裏切りにあって命を狙われる身となる。身を隠そうと実家へ帰るのだが、そこで脳腫瘍を患っている姉の異変と妹が行方不明になっていることを知る。

姉のあとをつけると、寄生生物の姿になった姉とハイジの姿になったスインが争う様子を見てしまう。ハイジに捕らえられたガンウは、スインにメッセージを伝言しなければ殺すと脅される。

ガンウは化け物になってしまう姉の姿を見て、何が起きているのか理解できず、腰を抜かすほど驚く。しかしすぐに事情を受け入れ、ハイジに言われたとおりのメッセージをスインに伝える。ここからスインとの奇妙な関係が始まるのだが、ガンウとスインのやり取りは少々コメディタッチで、ク・ギョファンは面白おかしく演じている。

ありえない事態を目の当たりにしたガンウだが、命を狙って追ってきた暴力団から逃れるべく、バイクで逃走を図る。その様子は迫力のカメラワークで撮影され、ク・ギョファンのアクションシーンは見どころの一つとなっている。

ガンウもスインと同じようにツイてない人間で、味方だと思っていた仲間に裏切られ、捨て駒にされ、殺されかけたところをスインに助けられた。スインに関わり合いたくないと思いつつも、逃げてばかりの人生に終止符を打ち、スインとともに寄生生物たちと戦うことを決意する。

ク・ギョファンが演じるガンウもスインと同様に物語の中でどんどん変化していく。タバコをくゆらしながら、生活に疲れた表情を見せていたかと思ったら、ピンチに陥るスインを必死に助け、寄生生物となった姉が最後に自分を守ってくれた姿を見て涙するなど、多彩な表情を見せる。この作品で改めてク・ギョファンという人は、独特の存在感がある役者だと再認識した。

散弾銃を放つ姿が様になるイ・ジョンヒョン

寄生生物撲滅専門の特殊部隊グレイのチーム長、チェ・ジュンギョンを演じるのがイ・ジョンヒョンだ。

イ・ジョンヒョンは、歌手として日本で活動していたことで知られるが、チェ・ジウとイ・ビョンホンが出演した『美しき日々』で、チェ・ジウの義妹・セナ役を演じた人物といったほうが韓ドラファンにはピンとくるかもしれない。

今回イ・ジョンヒョンが演じるチェチーム長は、ショートカットで散弾銃を放つ姿が様になっているやり手の人物だ。ナミル警察署の警官たちへグレイが発足した意義を説明する姿は、どこか人を小馬鹿にした態度でいけ好かないのだが、チェチーム長自身が夫を寄生生物に乗っ取られ、さらに寄生生物に攻撃されて右耳を失った被害者だったことが分かる。

夫を失った復讐心からか、寄生生物を倒すことへの気概が半端ではない。当然ハイジが宿るスインもターゲットとなり、物語の前半では非常にやっかいな存在となる。しかし、もともと判断能力の高い人物なので、スインの助言を無視せず、さらに鋭い勘を持つ人物であるため、ターゲットにすべき人物を確実に仕留めようとする。

チェチーム長の思いはただ一つ、寄生生物に人間社会を乗っ取られてたまるかという熱い信念だ。スインにとってもガンウにとっても、人生を変える重要な人物になっていく。

最後に日本人ルポライター・泉新一役でゲスト出演した菅田将暉が差し出した右手をジッと見つめていたチェチーム長。新たにガンウをグレイに迎え入れ、もしかしたらスインもグレイの一員になるかもしれないことを示唆して幕を閉じた。シーズン2で、仲間となったスイン、ガンウ、チェチーム長の活躍を再び見ることができる日を楽しみに待ちたい。
(文=咲田真菜)

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