「桜南風」に「貝寄せ」、「薫風」。春は風の季節。お散歩中の突風にも注意!

日差しがポカポカと暖かく心地よい季節になりましたが、春になると風が強くなることが増えます。そよ風を感じながら楽しむお散歩なら大歓迎ですが、時にはまっすぐに前に向かって歩けなくなるほど強い風が吹き荒れることもあります。

お散歩中にも注意したい危険な風のほか、春から夏にかけて吹く風を表すことばについてお伝えします。

春は風の季節。吹き荒れる強風に注意

春の到来を告げる強い南風「春一番」に代表されるように、春は風が強まりやすいのが特徴です。今シーズンは東京で3月に3度、最大瞬間風速20メートル以上の風を観測しました。

これは看板などが飛ばされたり、鉄道や飛行機などの交通機関に大きな影響が出たりするほどの強い風です。

春に風が強まる理由は、北に残る冬の冷たい空気と南から押し寄せる暖かい空気が激しくぶつかり合い、低気圧が急発達しやすいためです。

2024年3月20日の「春分の日」。低気圧が発達しながら通過し、愛知県の名鉄・空港線では強風の影響で停電が発生した。出典:ウェザーマップ

お散歩中も注意したい「危険な風」って?

低気圧に伴う強い風のほかにも、暖かくなると増える危険な風として覚えておきたいのが、つむじ風です。

砂や土、木の葉を巻き上げながら吹く渦巻きは、運動会などでもしばしば見られ、テントのような大きな物を吹き飛ばすことがあります。つむじ風は竜巻と混同されることが多いですが、実は似て非なるものです。

竜巻は必ず雲を伴って発生するのに対し、つむじ風はよく晴れた日に発生することが多いのです。日差しによって地面が暖められることで、上昇気流が発生して回りから空気が吹き込むことで渦巻きになります。つむじ風は前触れなく発生することが多いため、晴れた日に公園などをお散歩していると突然遭遇することも考えられます。

つむじ風を見かけたら、なるべく離れたところへ移動し頑丈な建物の中へ避難するようにしてください。つむじ風はほとんどの場合、数十秒から数分で消えます。十分に安全を確認してからお散歩を楽しむようにしましょう。

テントのような大きな物を吹き上げることもある「つむじ風」。危険なため、決して近づかないように。 出典:写真AC

いくつ知っていますか? 春から夏に吹く風の名前

春から夏にかけて吹く風を表すことばはたくさんあります。桜にまつわる風として有名なのは、「花吹雪(桜の花びらが風で散り乱れる様子)」や「花嵐(桜の花の咲く頃に吹く強い風)」です。

桜が満開の頃に吹く強風を「花散らし」と呼ぶのを聞くことがあります。これは本来は花見の後の宴会を表すことばでしたが、近年は花を吹き散らす風を指して使われていることもあります。満開に咲き誇る桜はもちろん素敵ですが、花びらが風に吹かれる様子もまた良いですよね。見ごろを過ぎてからも、川に流れる「花筏(散った桜の花びらが筏のように水面に浮かぶ様子)」を楽しめます。

桜の花びらがひらひらと舞い散る季節。風を感じながら眺めたい。
川面に浮かぶ「花筏」。光が差し込みキラキラと透ける花びらはとても美しい。

このほか「花信風(かしんふう=春から夏に花が咲いたことを知らせてくれる風)」や「貝寄せ(貝を浜に吹き寄せる風)」、「薫風(くんぷう=新緑の上を吹き渡ってくる爽やかな南風)」、「光風(こうふう=草木が翻って光っているように見えるゆるやかな春風)」も春から初夏に吹く風です。

また、風は吹いてくる方向や地方ごとに名付けられているものも多くあります。たとえば東から吹く風は「こち」と呼ばれ、春になり西高東低の冬型の気圧配置が緩むと吹きやすくなります。関東にとっては、海から吹く湿った風となるので、雨を降らせやすい風といえます。お散歩の予定の日は風向きにも注目してみてください。

春から夏にかけて南から吹く風は、「まじ」や「はえ」と呼ばれます。桜が咲く季節に吹く南風を「桜南風(さくらまじ)」というほか、梅雨時に暗い雲が広がる中で吹く南風を「黒南風(くろはえ)」、梅雨が明ける頃に本格的な夏の訪れを告げるように吹く南風を「白南風(しろはえ)」というなど、風を表す日本語は一説によると2000種類にも及ぶといわれています。

「風の花」といわれる可憐なアネモネ

春に咲く「風の花」といわれる花をご存じでしょうか?

赤やピンク、紫など鮮やかな花びらがかわいらしい「アネモネ」です。アネモネはギリシャ語で風を意味する「アネモス」が語源で、春風が吹く頃に咲くため「風の花」といわれるようになったそうです。お散歩中にアネモネの花を見つけたら、春のそよ風を感じながら眺めてみてください。

鮮やかなアネモネ。春風にゆらゆらと揺れて咲く。

風の季節といわれる春。嵐のような強い風には注意が必要ですが、気持ちの良い日差しの下、そよそよと吹く風を感じながらお散歩を楽しみたいですね。

文=片山美紀 写真=片山美紀、写真AC、ウェザーマップ

参考:倉嶋厚監修『風と雲のことば辞典』講談社

片山美紀
気象予報士
大阪府出身。大学卒業後、放送局での勤務を経て気象予報士、気象キャスターに。街歩きをしながらお天気ネタを探すのが趣味。空を眺めようと上を向きがちです。NHK総合「首都圏ネットワーク」などに出演中。

© 株式会社交通新聞社