吉祥寺発バンド・健やかなる子ら「俺ら青春パンクじゃないっす」

東京・吉祥寺で結成された5ピースバンド・健やかなる子ら。ドラム以外の4人全員がボーカルを担当している彼らの音楽は、メディアなどで青春パンクと括られることも多いが、作品を聴いてみると、何者にも当てはめられないジャンルレスな音楽性を追求していることに気づくだろう。彼らの本質はライブ。そのフロアでしか生まれない衝動を音に落とし込んでいる。

ニュースクランチ編集部は、健やかなる子らのメインボーカル、ギターのハヤシネオと、ボーカル・ギターのヨシダフミヤにインタビューを敢行。バンドを通して彼らが伝えようとしているものとは?

▲健やかなる子ら(ヨシダフミヤ、ハヤシネオ)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

部室の扉を開けたらヨシダがM字開脚していて……

――健やかなる子らの皆さんは吉祥寺にある大学の同級生だったんですよね。

ハヤシ:そうですね。同じ軽音サークルの先輩後輩で集まりました。

――発起人じゃないですけど、最初に「バンドを組もう」と声をかけたのは?

ハヤシ:それで言うと、俺とヨシダが最初でしたね。

ヨシダ:出会ったときから漠然と“二人で何かやりたい”と思っていて、ずっと音楽の話をしていたので、それを形にして動き始めたのが始まりでした。

――やはり、バンド名が気になってしまうんですが、どういう経緯で決まったんですか?

ヨシダ:たくさんの候補があるなかで、日本語で検索したときにどこにも引っかからないバンド名にしたい、というのが一番の理由でした。

――定番の質問になってしまうんですが、このバンド名には意味はありますか?

ハヤシ:ないっす(笑)。

ヨシダ:ないんですよ(笑)。ただ、ずっと「ない」って言い続けるのか……って、聞かれるたびに思うんで、もっともらしい理由を考えておこうって思うんですけど、忘れちゃう(笑)。

――(笑)。それぞれの第一印象は覚えていますか?

ヨシダ:第一印象か〜。お互いに若かったので、尖っていた感じはありましたよね。音楽をやるために東京に来たところがあって、「コピバンなんて」って斜に構えたスタンスでした。

ハヤシ:第一印象で言うと、初めて会ったときはめちゃめちゃ覚えているんですよ。大学のキャンパスに部室棟というのがあって、そこに俺らの部室が割り当てられているんです。そこに女性の先輩と二人で行って、部室の扉を開けたらヨシダがM字開脚した状態で真ん前にいて、大きな声で先輩の名前を叫んでいたのが最初です。

“なんだ? この人!”って。もう衝撃的ですよ(笑)。その場で「お前、次のライブでトリにしたから」って言われて、“ええっ!?”って。

ヨシダ:ちゃんと覚えてないんですけど、ライブを制作したりするライブ委員みたいなのをやっていたので、そう言ったんだと思います(笑)。

――思い出は薄いですけど、“トリにした”ということは、最初からハヤシさんに目をかけていたということですよね?

ヨシダ:そうですね。第一印象の段階から音楽の趣味も合うと思っていたし、ライブパフォーマンスを見ても、単なる軽音サークルの人に収まらない魅力がありました。当時から頭ひとつ抜けてましたね。

たいしたことじゃないことで喧嘩してます(笑)

――本日は代表してハヤシさん、ヨシダさんに来ていただきましたが、バンド内5人の関係性としては、言いたいことは言えている感じですか?

ヨシダ:だと思いますね。もともと友達で集まったのもありますし、他のバンドと比べても、ラフに言い合える関係なんじゃないかなと思っています。

――ちなみに、リーダーはどなたですか?

ヨシダ:僕ですね。バンドメンバーの意見を集約しながら、最終的な決定を下すことも多いんですけど、僕は子どもっぽいところがあるので、逆に面倒をみてもらっているところもあります。

ハヤシ:それはお互いさまですけどね。みんなの欠点とか、ダルいところを、みんなでカバーしあっていますね。付き合いも長いですし、自然と。

――結成してからどれぐらいになりますか?

ヨシダ:21年4月結成なので、4年目に入ったところですね。

――ある芸人さんにインタビューしたとき、学生時代の友達関係でコンビを解散すると、友達を失うことになるから、しんどいというお話をされていて。わかりやすく運命共同体みたいに、幼馴染で組んだバンドを見ていいなって思いますけど、それって諸刃の剣みたいなところがあるなと感じたんです。

ヨシダ:なるほど。

ハヤシ:たしかにしんどいかも。

――でも、そこを乗り越えていくからこそ、バンドとしての結束が強くなっていく気がするのですが、皆さんは喧嘩とか言い合い的なことはするんですか?

ヨシダ:ぼちぼち、衝突することはありますね。

――それは楽曲制作みたいなところで?

ヨシダ それもありますし、あんまりカッコよくないんですけど、些細な言動でぶつかることもあります。たいしたことじゃないことが多いですね(笑)。

ライブの音をどこまで音源に落とし込めるか

――皆さんの音源を聴いていると、どれほどキャリアのあるバンドでも出せない、みずみずしさみたいなものが曲全体から伝わってくると感じました。それに加えて、“〇〇っぽい”みたいな感じでのジャンルに括れない魅力があると思いました。

ヨシダ:すごくうれしい……それ、まさに言ってもらいたい言葉なんですよ。青春パンクと言われることが多くあるんですけど、自分たちはそう捉えてなくて。

ハヤシ:全然、青春パンクじゃないっす。

――そんな言葉を聞いたあとに聞くことじゃないかもしれないんですけど、気になるのが、“どんな音楽から影響を受けたんだろう”なんです。

ヨシダ:まさにニュージャンルを開拓している感覚でいるので、難しいところではあるんですけど、影響を受けた音楽は表に出るような音楽ではなくて、アンダーグラウンドな世界が好きだったので、そういうとこから影響は受けていると思いますね。Wiennersの玉屋2060%さんが大好きで、作曲家としてすごく尊敬しています。

ハヤシ:僕はTHE BLUE HEARTSから入って、そこからオールドのパンクロックを聴き始めて、地元で流行っていた青春パンクをめっちゃ聴いていました。

――吉祥寺って独自の音楽カルチャーが広がっている街ですが、健やかなる子らの音楽性と吉祥寺の共通点はありますか?

ヨシダ:音楽的なつながりはないと思っています。歴史的なところで言えば、僕らは吉祥寺の文化をすごく取り入れているとは思うんですけど、いま現在の吉祥寺のカルチャーはあまり意識していないですね。

ハヤシ:大学が吉祥寺にあったので、日常的に通っている身からすると、休みの日は人が多いのでムカついていたんですよ。こういう街じゃないのになって。みんなが吉祥寺に来る理由と僕たちがいる理由はまったく違ったので、そういう意味ではギャップを感じましたね。

――お二人とも音楽以外に興味があることはありますか?

ハヤシ:僕は文芸が好きです。太宰治や三島由紀夫をよく読んでいました。

――バンドのスタイル的に、太宰よりは三島っぽいですよね。

ハヤシ:ああ、うれしいですね。そうかもしれないです。作詞においては、わかりやすい詩についてリスペクトはあるんですけど、面白くないな……みたいな感覚もあって。現代の音楽ってデカダンス的な表現が多いじゃないですか。そのなかでデカダンスじゃない、三島らしい潔癖さみたいな方向性を意識しています。

ヨシダ:僕は裁縫が好きですね。

ハヤシ:あははは! 音楽とまったく関係ないじゃん(笑)。

ヨシダ:今はやめちゃったんですけど、細かい作業が好きですね。飽き性なので、いっぱいやりたいんですよ。

――音源を聴いていると、ライブにおける健やかなる子らを、そのままパッケージにしているような印象を受けているのですが。

ハヤシ:音源を作るときって、ある程度は綺麗に形にするのが普通だと思うんですけど、僕はそれは違うんじゃないかとずっと思っていて。どういうふうにやってこうかを悩んでいたときに、ライブっぽい力強さがもっと欲しいと思って、あえて僕のボーカルを前に出ないようにしてもらってたりとか、ギターの音を大きくしてもらってたりしてもらいました。

ヨシダ:そうですね。音源の再現というよりは、ライブの音をどこまで音源に落とし込むのか、それを常に意識しています。

〇健やかなる子ら「夏の跡」Official Music Video

健やかなる子らにとっての2023年

――2023年はどんな年でしたか?

ハヤシ:たぶん50本だったと思うんですけど、人生で一番ライブをこなしました。だから、初めてのことがいっぱいありましたよ。初めての場所もいっぱい行きましたし、いろんな敗北といろんな涙と……。

ヨシダ:よく泣いちゃいますね。

――ヨシダさん、よく泣かれるんですか?

ヨシダ:泣くんですよ、俺(笑)。悔しくて泣くこともありますし、高まって泣くこともあります。

――それはライブの出来ですか? それとも、集客が望んでいるものではなかったとか。

ヨシダ:もちろん、それはありますね。

ハヤシ:結局、己の弱さみたいなところがあるんですよね。自分たちのことを信じられなかったというか。ステージで隣に立つメンバーを見たときに、“こいつ、俺のこと信じてないぞ”みたいな。その不和から来るんですよ。僕がよくする表現があるんですけど、フロアは夜の海に似ていると思うんです。

夜の海と向き合って対峙したときの、あの恐怖感がフロアに充満するときがあって、それは、メンバーも俺もお互いを信じてなくて疑っている瞬間なんだと思います。

――夜の海と向き合うって良い表現ですね。そういう状態では、やっぱり良いライブはできないと。

ハヤシ:できないですし、何をしているのかよくわからないまま時間が過ぎて、終わってしまいますよね。そういうときって、音が何も聞こえなくなるんですよ。

――その感覚ってメンバーの共通認識としてあるんですか?

ヨシダ:全員が感じていると思います。特にボーカルの彼が感じているところではあると思うんですけど。

――2023年の一番の思い出は何がありますか?

ハヤシ:『aosag1』のリリースイベントのファイナルが吉祥寺WARPでありましたけど、それは気持ち良かったですよね。

ヨシダ:僕らの2枚目のミニアルバム『u2semi』が、初日でソールドアウトしたのはすごくうれしくて、それが一番思い出に残りました。

ハヤシ:場所もありますね。

ヨシダ:僕たちは場所をすごく大事にしているんです。ハヤシの地元にも行かせていただいたんですけど、出会った頃からその話はずっとしていたので、彼が育った場所でライブをできたのはすごくうれしかったです。特にうちのベースが喜んでましたね。

俺たちがカッコイイと思ったものを共有したい

――セカンドミニアルバム『u2semi』のコンセプトを聞かせていただけますか?

ハヤシ:最初から夏と緑という2つのテーマでいこうと考えていました。僕は作詞でヨシダが作曲をしているんですけど、上がってきた曲に対して、僕が思う夏と緑というテーマから引っ張り出してきたもので書き上げました。

ヨシダ:1曲1曲、いろんなジャンルを意識して作ったんですよ。ポップパンクだったり、ショートチューンの曲だったり、それぞれにテーマをつけて初期衝動的に作り上げていきました。

――曲の流れは、どのような意識で配置したんですか?

ヨシダ:ライブのセットリストを意識しました。曲順で揉めることはなかったよね。

ハヤシ:反論なかったね。すんなり決まっていきました。

――今回も前作に引き続き音源がシンプルで短いですよね。それが心地良いというか。

ヨシダ:僕、長い曲がめっちゃ嫌いなんです(笑)。短い曲がすごく美しいんですよ。それこそ、サビのあとにギターソロみたいな教科書的な作り方が嫌いで。短い曲に影響を受けた部分も大きいと思うんですけど、意識して短くしているというよりは、もう短い曲しか書けないかもしれない。長くて2分半がマックスかな。

――最後にバンドとしてこうありたい、みたいな理想はありますか?

ハヤシ:バンド活動って、そもそも身内ノリに近いものだと思っているんです。俺たちがカッコイイと思ったものとか、仲間たちがカッコイイと思ったものが確かにあって、それをどんどん広げていって最終的に全員が身内になればいいなと。全員が同じ価値観を共有できたら素晴らしいじゃないですか。僕はみんなと友達になりたいんですよね。だからこそ、俺たちがカッコイイと思ったものを共有したい。

ヨシダ:僕らに影響された子たちが始めた音楽を、僕らがフロアで見ることができたら終わりにしたいと思います。一番幸せじゃないですか、音楽やっているうえで。

(取材:川崎 龍也)


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