【社説】イランのイスラエル攻撃 報復の連鎖食い止めよ

 イランが日本時間のおととい、イスラエルに向けて大量の弾道ミサイルや自爆型無人機などを発射した。イランが直接イスラエルを攻撃するのは初めてとなる。両国は中東の軍事大国である。中東でこれ以上、戦火が広がる事態は何としても食い止めなければならない。

 イランは在シリア大使館が攻撃を受けたことへの報復と主張している。ミサイルや無人機のほとんどはイスラエル軍などによって撃墜された。民間人に負傷者が出たが、死者は確認されなかった。

 今回の攻撃は、パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が波及した形だ。イランはハマスを支援している。

 イラン大使館への空爆では、親イラン組織ヒズボラを支援する中心人物らが死亡した。ヒズボラはイスラエル北部を攻撃していた。イスラエルは空爆への関与を否定も肯定もしていないが、関与は極めて濃厚だ。

 イランは同じイスラム教徒であるパレスチナ人を抑圧するイスラエルを宿敵と位置付けてきた。直接戦火を交えなかったのは、中東ならではのバランス感覚で、制御不能に陥る事態を回避するためだったと言える。

 だが大使館への攻撃は一線を越えた。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランの最高指導者ハメネイ師は「われわれの領土に対する攻撃」と受け止め、報復は不可避だったとみられる。

 ミサイルが到達する前にイランが攻撃の開始を発表したことには、国のメンツを保ちながら被害を最小限に抑え、事態を収束させたいという思いがにじむ。イスラエルのイランへの反撃に対し、米国が不参加をいち早く表明したのは、イランの意図を理解したからだろう。イスラエルは過剰に反応するべきではない。

 国連安全保障理事会は、イスラエルの要請を受けて緊急会合を開催した。先進7カ国(G7)もオンラインで首脳会議を開き、イランへの制裁を検討した。議長国イタリアは「最も強い言葉で非難する」と首脳声明を発表した。

 大量の兵器を動員したイランの一斉攻撃は許されない。しかし、引き金となった大使館攻撃の真相とイスラエルの責任を追及せず、イランへの非難一辺倒で果たして報復の連鎖の拡大を防げるのか。

 イスラエルはハマスとの戦闘を続ける方針を示し、ガザ最南部ラファへ侵攻する準備を進めている。民間人の被害がさらに増える恐れがある。

 国際社会は連携し、イスラエルとイランの双方に自制を強く求めなければならない。中東地域を巻き込んだ戦争に発展しないよう事態の沈静化を図った上で、ガザの人道危機を回避するための停戦を実現させる必要がある。

 日本は国連とG7の枠組みを重視しながらも、産油国であるイランと長年にわたって友好的な関係を維持してきた。中東諸国の信頼も厚い。欧米に同調するだけでなく、独自に培ってきた関係を生かした外交に期待したい。

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