「痩せ」が糖尿病リスクを上げる…「スリムな体形であればいい」は間違い

日本の若い女性は瘦せすぎている…(C)日刊ゲンダイ

「先進国の中で痩せた女性が最も多い国が日本。特に若い日本女性は痩せすぎている」

こう指摘するのは、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」研究開発責任者の田村好史・順天堂大学国際教養学部教授だ。それらの問題を解決することを目的に発足した産官学チーム「マイウェルボディ協議会」の代表幹事も務める。話を聞いた。

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田村教授によれば、20代の痩せ女性が一気に倍増したのが1980年代。BMI(体格指数)18.5未満が痩せとなるが、90年代以降は全体の20~25%を占めている。

糖尿病専門医の田村教授が女性の痩せに着目したのは、痩せが糖尿病のリスクを上げるから。40歳から79歳の糖尿病でない日本人1万489人を対象にした研究では、BMI25以上の肥満の糖尿病発症リスクは女性で1.74倍、一方、BMI18.5未満の痩せの糖尿病発症リスクは1.93倍と、肥満を数値的に上回っている。しかし、その原因はわかっておらず、研究を始めた。

「18~29歳の女性の研究データでは、低体重群(痩せ)の女性では食べる量も少ないが、運動量も少なかった。その結果、体重が少なく筋肉量が少ない、不健康な痩せとなっている。放置すると糖尿病になる確率が高まる耐糖能異常の割合を調べると、標準体重の群では1.8%しかいませんでしたが、低体重の群では13.3%。米国の肥満者で耐糖能異常が占める割合は10.6%なので、むしろ肥満より数値的に高かったのです」

日本の若い女性で痩せている人は、前述の通り、食べない・運動しないという「エネルギー低回転型」が多かった。これはさまざまな健康問題を招く。月経異常、不妊、出産した新生児の低体重。赤ちゃんが出生時に低体重だと、将来的に糖尿病になりやすいことも明らかになっている。

「さらに深刻なのは、骨のもろさです。痩せた女性は骨粗しょう症になりやすく、若年者でも4割ほどが骨減少症と予想されます。これでは転んだ時に骨折しやすく、要介護のリスクを高めます」

■価値観の転換が不可欠

肥満やメタボの対策は盛んにいわれるが、痩せに関しては「礼賛」の傾向が強い。しかし、痩せも問題であることをしっかりと理解し、食べて運動してエネルギーを回し、健康な体を維持していく必要がある。

ただ、本人に「食べて運動して」と言うだけでは、問題解決につながらない。

「マイウェルボディ協議会が行った、標準体重の高校生、大学生1000人対象の調査で、標準体重の女性の54%が『自分のことを太っていると思っている』、88%が『少しだけ/とても痩せたいと思っている』との回答でした。また、46%がこの1年に体形に関するネガティブ発言を受けていました」

体形に関する指摘に加え、痩せたタレントや有名人が多数登場するメディアの影響、SNSからの情報、友人たちの「痩せている方がかっこいい」という考えに引っ張られる……などで、標準体重にもかかわらず、自分への体形への不満、そして痩せ願望へとつながっていく。

つまり、若い女性の痩せの問題を解決するには、本人への働きかけだけではなく、「痩せているほど素晴らしい」といった価値観を根本から転換させる社会的ムーブメント、さらには教育、医学的支援の3つの働きかけが不可欠だ。田村教授らは5年を目標に、若年女性の痩せ問題解決にしっかり取り組んでいくという。

さてこの記事を読んだみなさん。会社の部下や自分の娘に「ちょっとぽっちゃりしたね」「顔が丸くなったね」などと言ったりしていないだろうか? それがタブー発言であると認識することが、私たちの第一歩かもしれない。

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