「どうぞ一人で生きていってください」…退職金2,700万円、“老後資金潤沢な61歳・元エリート国家公務員”を妻が見放したワケ

(※写真はイメージです/PIXTA)

安定のイメージが強い公務員。なかでも国家公務員は、現役時代の給料や退職金額も高く、ひと昔前までは「絶対安泰」といったイメージがありました。しかし現在では、意外にも定年後になって生活が苦しいと訴える人も多いようです。本記事では、Aさんの事例とともに国家公務員の定年退職後について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

国家公務員の定年退職者、5人に1人が「定年後に生活苦」

令和6年3月、人事院は「令和5年退職公務員生活状況調査報告書」を発表しました。これは、一般職国家公務員で令和4年度に60歳に達して定年退職した人について、定年退職後における就業の状況や収入・支出等の生活状況を調査したものです。

定年退職後の世帯の家計の状況は、

・「ゆとりはないが、赤字でもない」……38.8%
・「毎月のやりくりに苦労しており、時々赤字が出る」……23.3%
・「どうやりくりしても、常に赤字が出て生活が苦しい」……18.2%

となっており、4割を超える人達が家計に問題があるのがわかります。なお、こういった人たちの家計がマイナスとなる場合の対処方法(複数回答)は、

・退職手当を取り崩す……70.5%
・退職手当以外の預貯金等を取り崩す……61.1%
・節約を徹底する……60.3%

が多くなっています。

[図表1]世帯の家計の状況

国家公務員は高給のイメージがあり、常勤職員が定年まで勤めた場合の退職金平均額も約2,112万円となっています(2023年12月内閣官房内閣人事局)から、定年退職後も悠々自適の生活を送っているように思われがちです。しかし、その実態は違うようです。

また、住まいについては定年退職後も約1/4の人に住宅ローンが残っていることに驚かされます。

[図表2]定年退職後の住居の種類

当然ですが、生活に余裕がないとなると、年金受給までは間がありますから働くことも視野に入れて行動しないといけません。定年退職後も働きたいと思った人は実に8割を超えており、働きたいと思った理由も「日々の生計維持のために必要」と回答している人が最も高くなっています。

[図表3]定年退職時の就労希望の有無 [図表4]定年退職後も働きたいと思った理由(複数回答)

やはり生活のためなのか、「定年退職後は働きたいと思わなかった」人の54.1%が就労しているのも興味深いデータです。

[図表5]現在の就労状況

民間の再雇用制度のような「暫定再任用制度」が国家公務員にはあり、定年退職後に働いている人の79.2%がこの制度を選択していますが、「民間企業」で働いている人も10.6%あります。

[図表6]定年後の勤め先

以上のデータを見ると、国家公務員であっても、現役時代から定年後の仕事について考えていく必要があることがわかります。

60歳で国家公務員を定年退職

老後の生活に不安はなくても、離婚の危機を迎えてしまったご夫婦のケースをご紹介しましょう(プライバシーを考慮してアレンジしてご紹介しています)。

部長職(行政事務)まで勤めて1年前に国家公務員を定年退職したAさん(61歳)。Aさんは、役職を外されることが悔しく、暫定再任用制度は希望せずに仕事には就かず、定年後は自由に過ごしていました。退職時は、約2,700万円の退職金のほかにAさん自身の預貯金等の資産も3,000万円を超えて所有していましたので、生活にも困ることはありません。

2人の子供はすでに独立して別居しており、現在は定年退職後にリフォームした家で私立高校で化学の教師をしている53歳の奥さんと暮らしています。お互いに仕事が忙しかったこともあって、ここ数年はあまり話もしない関係になっていました。

家でもワンマンなAさんは、「定年後しばらくは好きなことを思いっきりやろう!」と、この1年間はゴルフに出かけたり、買い換えた車に乗って一人でドライブに出かけたりと好き放題でした。一方で、この夫の行動を間近で見てきた奥さんの不満は増すばかりでした。

妻が残業で遅く帰ってきても家事を一切やらないAさんは、夕方になるとコンビニで自分の分だけ好きなものを調達し、ビールを飲みながらテレビを見て奥さんの帰りを待っている毎日です。Aさんは自分の蓄えから小遣いを出していましたし、65歳になれば公的年金も個人年金も受け取れるようになることから、お金については奥さんには気を遣うこともなく無頓着です。

しかし、奥さんから見ると、家の改築や車の買い替え、子どもの結婚資金援助など大きな支出が続いたのに、現役時代と生活レベルを落とさずに無職の立場で遊びまわっている夫の姿は腹立たしく感じるばかりです。

奥さんが「ハローワークでも行ったら? 働きに出たほうが健康的にも精神的にもいいんじゃない?」と言っても、Aさんは「民間は自分とは合わないよ。そんなに言うならスポーツジムでも通おうかなぁ」と軽く受け流していました。

離婚を切り出され…

8歳下の奥さんは、「将来、こんな夫の介護をしないといけなくなるかと思うと希望もなにもないわ」と友達などに愚痴を言うようになりました。奥さん自身も年収は800万円を超えていますし貯蓄も十分にありますから、一人になっても暮らしていける自信は十分にあります。毎日遅くまで残業して帰っても、思いやりのある態度も示さない夫にとうとう奥さんは離婚を切り出します。

「いつまで部長のつもりでいるの? うちの高校の男の子はアルバイトもするし料理もしているのに……いまの男の子のほうがあなたよりもよっぽどしっかりしてますよ! どうぞ一人で自由に生きていってください」と言われ、Aさんはビックリしてしまいます。

現在、まだ離婚は成立していませんが、奥さんはマンションを借りて一人で暮らしています。プライドの高いAさんは反省はしていますが、すぐに帰ってくるだろうと思っているのか奥さんに謝りにも行きません。独りになってしまった寂しさを感じながらも生活を変えられない日々を送っているAさんです。

Aさんについては、お金の使い方を見直して、家事を手伝ったり思いやりの言葉をかけたりするだけで、ご夫婦の関係性は大きく変わるかもしれません。公務員に限りませんが、定年後に働く人も働かない人も、現役時代から定年後の生活を考えておく必要がありますね。

<参考>

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン