親が認知症になったあと「資産凍結」になっていることを知りました。いつごろ解除されるのでしょうか?

認知症で資産凍結されるタイミング

認知症になると、自動的に資産が凍結されるわけではありません。銀行や証券会社といった金融機関の口座は、次のようなタイミングで凍結されることになります。

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・口座名義人が認知症になったことを家族が金融機関に伝えたとき
・口座名義人が認知症などにより判断能力が低下していると金融機関が判断したとき
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後者については、「カードの暗証番号を何度も忘れる」「窓口で何度も同じ手続きや問い合わせを繰り返す」など、認知症による認知機能や判断能力の低下が原因と思われる行動が見られた場合が考えられます。

「資産凍結されたことを家族があとになって知る」というのは後者のケースでしょう。このケースは、資産の凍結状態で銀行口座からお金を引き出せなくなり困った親が、家族に連絡したときなどに発覚することがあります。

資産凍結の解除に必要となる成年後見制度

口座の凍結を解除するためには、「成年後見制度」を利用する必要があります。

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な人をサポートするための法的な手段です。家庭裁判所が成年後見人を指定し、成年後見人は対象となる人の財産の管理や、契約・手続きに関するさまざまな事務を代行します。

親が認知症になって判断能力が低下し、自分で生活や財産の管理をすることが難しくなった場合、法的な手続きを通じて援助を受けられる成年後見制度は有効といえるでしょう。

資産凍結の解除までどれぐらいかかる?

成年後見制度を利用するためには、まず家庭裁判所への申立てが必要です。手続きの流れは次のとおりです。

(1)本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。その際に、申立書、診断書、本人の戸籍謄本、申立手数料、登記手数料などを用意する必要があります。

(2)申立て後に、審問・調査・鑑定等が行われます。裁判所の職員が、申立人、後見人候補者、本人から事情を伺うことや、本人の親族に後見人候補者についての意見を照合することがあります。また、本人の判断能力について鑑定を行うこともあります。

(3)家庭裁判所が後見開始の審判をし、それと同時に最も適当と思われる人を成年後見人に選任します。事情に応じて、弁護士、司法書士、社会福祉士等の第三者を成年後見人に選任することもあります。

申立てから後見の開始までの期間は、個々の事案により異なるものの、多くの場合4ヶ月程度となっています。

家庭裁判所での審判が確定したら、成年後見人が金融機関に成年後見制度利用の届け出をします。

その際には、通帳や届出印、成年後見人に関する届出書、成年後見制度に関する確認書類(登記事項証明書など)、成年後見人の本人確認書類などが必要です。実際に必要な書類については、それぞれの金融機関にご確認ください。

資産の凍結状態を解除するまでには、成年後見制度の手続きを含め、相当の時間がかかると考えておきましょう。

緊急に資金が必要な場合は金融機関に相談

成年後見制度の利用開始までの間、緊急に資金が必要な場合はどのように対応すればよいのでしょうか。

一般社団法人全国銀行協会の「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料」によると、本人の生活費、入院や介護施設費用などのために資金が必要な場合は、まずは金融機関へ相談するように案内しています。

ただし、この場合の対応は金融機関や個別の状況によっても異なり、預金の引き出しが認められない可能性もあります。また、認められた場合でも緊急的な対応であるため、継続的に預金を引き出すには成年後見制度の利用が必要になります。

まとめ

認知症になり資産が凍結されてしまった場合、その口座を利用するためには原則として成年後見制度を利用する必要があります。ただし、成年後見制度の手続きには時間がかかるため、緊急に資金が必要な場合は、まず取引先の金融機関に相談してみましょう。

また、親がまだご健在の方も、認知症になった場合に備え、取引先の金融機関の対応状況について事前に確認しておくことをおすすめします。

出典

裁判所 成年後見制度について
法務省 成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A

執筆者:伊達寿和
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員

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