実力派お笑いコンビ・にぼしいわしが感じた大阪と東京のライブシーンの違い

事務所に所属せず、フリーで活動している実力派お笑いコンビ・にぼしいわし。『女芸人No.1決定戦THE W』では、決勝に進出した経験が3回ある。昨年、結成10周年を迎え、活動拠点を大阪から東京に移した二人は2024年、さらなる飛躍を目指す。ニュースクランチのインタビューでは、東京進出後の変化、これからの目標などを聞いた。

▲にぼしいわし【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

泣いてくれたファンのためにも東京で活躍する

――お二人はこれまで大阪を拠点に活動されていましたが、2023年の10月から東京に進出されました。活動場所が変わったことで、どんな変化がありましたか?

いわし:「ライブ中心」というところでは特に変わらないですね。

にぼし:そうですね。でも、大阪は芸人の母数が少ないということもあり、いつも同じメンバーだったんですけど、東京では毎日違う芸人さんとご一緒できるようになったので、そこは大きな変化ですね。

――大阪では、どの芸人さんとご一緒することが多かったんですか?

いわし:ザ・プラン9の爆ノ介さん、かんざきさん、貫太郎さん、ガクテンソクさん、金属バットさん、Dr.ハインリッヒさんとはレギュラーでユニット(「NORA」)をやらせてもらったり。今はK-PROさんのライブに出演させていただくことが多いので、ストレッチーズさんとか、さすらいラビーとか吉本興業以外の事務所の方々ともご一緒することが多いです。ほかには居島一平さんのライブに呼んでいただいたりしてます。

――これまでも東京のライブに出演する機会はあったとは思いますが、大阪と東京だとお客さんの反応に違いってあるんですか?

いわし:ネタに対する反応はそこまで変わらない気がします。だけど、ライブ自体にファンがついてるのが東京で、芸人にファンがついてるのが大阪っていう違いは感じます。例えば、東京でやってる『グレイモヤ』とかは、そのライブにファンがついているので、誰が出演していても来るという方が多いんですけど、大阪だと出演者によって……という感じのお客さんが多いかなと。

▲東京と大阪のファンの違いを教えてくれたいわし

――それこそ、大阪には「にぼしいわしを見たいからライブに行く!」という方も多かったんじゃないでしょうか。

いわし:単独ライブで東京進出を発表したんですけど、「ずずずずっ」ってすすり泣きが聞こえました(笑)。

にぼし:まさか泣いてくれるとはね(笑)。うちらがもともと「絶対に大阪で活動する」と言ってしまっていたんで、よりビックリが大きかったんだと思います。

にぼしいわしさんのせいじゃないですか?

――なぜ、このタイミングでの東京進出を決めたんですか?

いわし:やっぱり、大阪だと芸人の数もライブの数も少ないので、賞レースの決勝を目指して、いろんなお客さんをライブに呼ぶのが難しくて。2年くらいは東京から演者さんを呼んだりして、頑張っていたんですけど、それも限界がありました。やりたいことをやるときに地盤作りからしないといけない、という負担が大きくて。それで東京進出を決めました。

――お二人で話し合って決めたんですよね。

いわし:そうですね。マジで一緒のタイミングで考えてたんですよ。コメダ珈琲で、東京進出のデメリットとメリットを全部書き出して、二人で考えた結果、東京に行こうと決めました。

――フリーで活動されているということは、ライブを主催するときはイチから全部やるんですよね。

いわし:そうですね。自分が仕事をする相手の方とは直接話したいんですよ。マネージャーさん越しってなると、うまく伝わらないこともあるのかなって。……マネージャーがついたことないんで、わかんないですけど(笑)。

――ライブ開催までの地盤作りに限界を感じたとおっしゃっていましたが、ご自身でやるからこそ、うまくいくことも多いんじゃないでしょうか。

いわし:そうですね。「ここのハコは、こういうところに死角がある」とか「ここはすごい腕の立つ技術さんがいるから、無理を言ってもやってもらえる」とかは、自分で行ったり、しゃべってみないとわからないじゃないですか。直接話すからこその信頼関係もありますし。

それこそ、私たちがずっと借りてたハコが、急に『キングオブコント』の会場になった年があったんですよ。区が運営するホールみたいな場所で、もともとはお笑いライブをやるような場所ではなかったんです。それが、私たちが使ってたから“あそこ使えるやん”ってなったみたいで。区の方からは「にぼしいわしさんのせいじゃないですか?」って言われました(笑)。

――賞レースよりも先に見つけたんですね(笑)。そういった裏側の仕事はどのように分担しているんですか?

いわし:きれいに100:0です(笑)。私がそういうの好きなタイプなんで。にぼしは、基本ジャマをしてくれてます(笑)。でも、物事が筋道どおりに進んじゃうとおもしろくないじゃないですか。私だけやったら、たぶん予定調和になっちゃうので、それをハズしてくてるのはありがたいです。

にぼし:全部よかれと思ってやってるんですけどね……。でも、これまでもずっと自分の意志とは真逆に行ってしまう人生だったんで、 これからもこんな感じで生きていくんやろうなって思います(笑)。

――にぼしさんはグッズの制作などを担当されていますよね。

にぼし:そうですね。イラストを描いたり。あとはフライヤーとか、コントの小道具とかも制作しています。

▲よかれと思ってやったことが裏目にでてしまうにぼし

高校1年生で出会って『ハイスクール漫才』に出場

――お二人はもともと高校の同級生なんですよね。タイプが違うお二人がなぜ仲よくなったんですか?

いわし:1年生のときに同じクラスだったんで、それがきっかけですね。入学式の前に健康診断があったんですけど、みんなが体育館に移動するために廊下に並んでるなか、ずっと教室でカバンの中をゴソゴソしててる人がいて。「なんか探してるん?」って聞いたら、「なんも探してない」って言われたんですよ(笑)。そこからですね。

――にぼしさんは何を探してたんですか?

にぼし:ほんとにわからないんですよね……。そもそも私はその記憶がなくて、話しかけられた記憶もないんですよ。だから、ウチはどっから仲良くなったか覚えてないんです(笑)。

▲仲良くなったきっかけを教えてくれた二人

――謎のままなんですね(笑)。お笑いを始めたきっかけは?

いわし:高校のときに『ハイスクール漫才』に出場したのがきっかけですね。

――お二人ともお笑いに興味があったんですか?

いわし:いや、二人とも全然お笑い好きとかじゃなかったんです。むしろ、クラスの隅っこにいるタイプで。だけど、文化祭でクラスの陽キャの人たちが漫才とかやってるのを見て、「何がおもろいねん」とか言ってたんです。

にぼし:サンドウィッチマンさんのネタの完コピとかやるんですよ。普段は大阪弁なのに、 完コピしすぎて標準語になってるのキモいなって笑ってました。

いわし:そういうのを見て「ウチらのほうがおもろいねん」って、それで『ハイスクール漫才』に出ました。当時、学生だった粗品さん(霜降り明星)とかレインボーの池田(直人)さんとかも出てたんですけど、高校生だけでライブ開いたりとかしてる人もいて、“あれ? こんな世界もあるんや”って新鮮だったんです。

それでNSCに入ろうと決めました。でも、ウチの親はイケイケゴーゴーだったんですけど、なぜかにぼしの親が認めてなくて……(笑)。

にぼし:赤点を取りまくってたんで……。『ハイスクール漫才』も内緒で出てたんですよ。だから、カミングアウトしたときに「こんなに赤点取って、なにしてたんや!」ってなってしまい。そのあと「大学に入学できたらNSC入ってもいい」と言ってくれたんですけど、大学も落ちてしまって……。

いわし:私は普通に大学へ行けたので、1年間、大学に通いながら自分の分と、この人の入学金を稼ぎました。でも、最終的に20万足りなかったんで、うちのおばあちゃんに20万出してもらって(笑)。

――いわしさんにそこまでさせる、にぼしさんの魅力ってなんですか?

いわし:ボケようと思ってボケにいったら『新喜劇』みたいになるんですけど、 普通に歩いてるだけで変だったり、「おはよう」って言うだけで変だったり。舞台上でも、にぼしが「はい」って言うだけでオチたりするんですよ。なんか天性のものというか、そこは本当に私にはないな、と。ただ、突出しすぎてて、自分でも乗りこなせてないんですけどね(笑)。

にぼし:なかなか自分では(笑)。

阿佐ヶ谷姉妹の美穂さんみたいな存在になりたい

――この先、コンビとしてどんな存在になっていきたいですか?

いわし:ライブは単価も安いですし、経費を引くとほぼ手元に残らないんですけど、ライブで全国を回って、それだけで食べていきたいとはずっと思っています。そのために、まずはテレビに出て知名度を上げたり、賞レースで結果残さないとなんですけど。

――芸人さんのなかには、バラエティ番組に憧れてお笑い芸人になる方も多いですが、そこへの憧れは強くないんでしょうか。

いわし:芸人になったときばかりの頃は、舞台を見て“おもしろいな”って思うことのほうが多かったので、バラエティ番組を中心に活動することにあんまり魅力を感じてなかったです。だけど、自分たちでライブを企画をすることが増えていくなかで、意外とテレビで企画してるものも同じなんやって。

自分に自信がないから、あんまりそういうのやりたくないって部分もあるので、今はそういうところにも挑戦していかなあかんとは思っています。それこそ東京に来て、身近な芸人がバラエティの企画から携わっている姿とかを見ると、ライブもテレビもおもしろいものを作りたいというのは同じなんだなって。それは大阪にいたら絶対に気づけなかったことですね。

――東京に進出して、今年はお二人にとって勝負の年になると思います。2024年の目標を教えてください。

いわし:今年は絶対に『M-1』の決勝に行きたいです。私たちはオーディションとかもほぼないので、『THE W』か『M-1』で結果を残さないと世間に出られる機会がないんですよ。これまで『THE W』では3回決勝に出させてもらったんですけど、正直、ウチらぐらいだったら優勝しないと広がることはなくいので……。なので、『M-1』で決勝を目指したいです。

▲2024年の目標は『M-1』で決勝進出!

――『M-1』も世代の近い方がどんどん決勝に進出して、ブレイクしてますもんね。

いわし:そうですね。近い人たちが決勝に出るようになって、悔しいのもあるんですけど、勇気も出ました。

――特に刺激を受けた存在は?

いわし:シンクロニシティさんが、準決勝に出たのは大きかったですね。あのときシンクロニシティさんも働きながらのフリーだったので、年間2本くらいしかネタを作ってなかったらしいんですよ。でも、ちゃんとそれをブラッシュアップして、準決勝までいかれて。「完全におもしろいネタ作ればいけるんや!」って勇気が出ました。

――にぼしさんは個人として目標はありますか。

にぼし:個人的には、阿佐ヶ谷姉妹の(木村)美穂さんみたいな存在になりたいですね。あの絶妙な感じというか。

いわし:阿佐ヶ谷姉妹さんと変ホ長調さんとウチらで、ご飯に行かせてもらったことがあったんですよ。そのとき美穂さんは、場所がわからなかったらしく、遅刻してきて。みんなで「美穂さん、もうすぐ来るなら待っておこうか、でもお腹空いたね。どうしよう……」みたいになってたんです。そこに美穂さんが入ってきたんですけど、最初のひと言が「ごめん」とかじゃなくて、「着いたわよ」って(笑)。

にぼし:美穂さんにしかない世界観がありますよね。その一言も本当にいいなって思いました。目指してできることじゃないんですけど、美穂さんみたいになれたらいいなと思います。

(取材:梅山 織愛)


© 株式会社ワニブックス