ヒロイン以上に魅力的すぎた…昭和“スポ根”少女漫画の「誇り高きライバル」たち

『ガラスの仮面』第20巻(プロダクションベルスタジオ)

漫画で欠かせない存在が、主人公と切磋琢磨しながら高みを目指す「ライバルキャラ」だ。互いに刺激を与えあい、時には激しくぶつかりながら成長を遂げていく彼らの姿は感動を与えてくれるもので、それは昭和から現代まで変わらない。

昭和時代には「スポ根」さながらの熱い勝負を描いた少女漫画が読者の人気を集めたが、読者の涙腺を刺激するのは主人公の努力する姿だけでない。卑怯なことを一切行わず、プライドをかけて主人公に正々堂々と勝負を挑むライバルたちは、いつも魅力たっぷりに描かれており、読者人気も高かった。そこで今回は、名作少女漫画から、熱いハートを持つ3名のライバル女性を振り返って見ようと思う。

■元祖金髪縦ロールお嬢様!? 『エースをねらえ!』の竜崎麗香

まずは、1973年に『週刊マーガレット』(現:マーガレット)で連載が始まった山本鈴美香氏の漫画『エースをねらえ!』に登場し、圧倒的な存在感を放っていた “お蝶夫人”こと竜崎麗香だ。

竜崎麗香は県立西高校テニス部ナンバーワンの実力者で、高貴な立ち振る舞いをみせる、ゴージャスな容姿の完璧なお嬢様だった。主人公・岡ひろみはそんなお蝶夫人に憧れてテニス部に入部し、お蝶夫人もまた自分を慕うひろみを可愛がった。

だが、ひろみが公式戦のメンバーに選ばれたこと、そして男子テニス部のスーパースター・藤堂貴之と親しくなったことがきっかけで、お蝶夫人は次第に彼女に厳しく接するようになっていく。お蝶夫人は陰湿なイビリをするわけではないが、実力をつけていくひろみへの嫉妬と対抗心は相当なものだったろう。

しかし、それ以上にお蝶夫人はひろみが可愛くて仕方なく、揺れる感情の狭間で苦しむキャラでもあった。県大会の個人戦後、お蝶夫人は自分に負けて泣くひろみに罪悪感を抱き、「あたくしかテニスかどちらか一つ選びなさい!」と迫る。

ひろみがテニスを選んだことで決心したお蝶夫人は、ダブルスの最中に周囲から実力不足をからかわれる彼女に声をかけることもなく、「それがあなたのえらんだ運命よ」と見守る。しかし、本戦中に再び、ひろみに悪意ある言葉が投げかけられた瞬間には黙っていることができず、「だれです あたくしのパートナーを動揺させるようなことをいうのは!!」と怒りを露わにする。

そしてひろみに「負けることをこわがるのはおよしなさい!コートにいるのはあなたひとりではないのよ あたくしが 味方がもうひとりいるのよ!」と諭すのだった。このとき、お蝶夫人はひろみへの愛を再確認し、先導者として前を走ることを決意する。

愛と嫉妬、そして孤独感。そんな様々な想いを振り切り、いずれは自分を超えると確信しているひろみに自分の持つすべてを伝えるお蝶夫人は、なんと誇り高く心の美しい人であろうか。

■ライバルから親友になった『アタックNo.1』の早川みどり

1968年に『週刊マーガレット』で連載が始まった浦野千賀子氏の漫画『アタックNo.1』。バレーボールブームを巻き起こした同作には、早川みどりというライバルが登場していた。

みどりは資産家の娘で、茶髪のカールヘア、きりっとした顔立ちという洗練された雰囲気を纏う少女。そして気が強くワガママという、典型的な高飛車お嬢様だった。

彼女は、中学2年生で富士見学園に転校してきてバレーボール部に入部するが、英雄にならないと気が済まない性格ゆえ、キャプテンの主人公・鮎川こずえをライバル視してその座を狙いだす。頭が切れ、周囲に“良い人”という印象を植え付けたり、またこずえを道具壊しの犯人に仕立て上げたりと姑息な手を使い、ついにはキャプテンの座を奪う。

だが、キャプテンになったみどりはワンマンさが増し、チームには不協和音が生じる。そんなとき、本郷俊介先生が顧問に名乗りをあげ、キャプテンはチームを鍛えた後に自分が決めると言い放った。

本郷コーチのしごきは凄まじいものだったが、キャプテンの座を手にしたいこずえとみどりは根性を見せ、次第に二人は変わっていった。その結果が出たのが、特訓後の試合だ。前回の試合は惨敗だったが、今回は実力がついたうえに「試合に勝ったらコーチが部から離れる」という約束のための連帯感も生まれ、見違えるように強くなったのである。

特に、みどりとこずえは阿吽の呼吸でサポートしあう良きパートナーになっていた。みどりはこの試合で初めてチームプレーの大切さに気づき、こずえにこれまでのことを詫びる。自らを省みて素直に反省し、気持ちを入れ替えることができるみどりは素晴らしいキャラクターだ。

■唯一無二のライバルでありもう一人の主人公『ガラスの仮面』の姫川亜弓

最後は、1975年に『花とゆめ』で連載がスタートした美内すずえ氏の漫画『ガラスの仮面』から。主人公・北島マヤとは別に、もう一人の主人公として魅力を放っていた姫川亜弓を見ていこう。

彼女は、両親が演劇界の人物というサラブレッドだった。そして、生まれながらの美貌、人々をひき込む演技力、気品の高さに芯の強さと、あらゆる魅力を兼ね備えたお嬢様である。

亜弓に対し世間は親の力があるからだと言うが、本人は親の七光りを嫌い、幼い頃から自分の力で大女優になると心に決めていた。ゆえに誰よりもストイックに演劇に向き合い、『王子とこじき』のためにホームレス生活をしてみたり、『灰の城』のためにやつれてみたりと、血の滲むような努力で役作りに挑む。

そんな亜弓にとって、マヤの登場は青天の霹靂だった。亜弓はマヤを見てすぐに彼女の天性の才能に気づき、自分にとって宿命のライバルになると確信する。この、“貧乏だけど演劇の天才のマヤ”と、“金持ちだけど努力でチャンスをつかむ亜弓”という対極的な構図は、この作品の肝になっている。

マヤへの嫉妬心から毒づくこともあったが、信念を思い出した亜弓はリスペクトを持って、正々堂々と『紅天女』をかけて戦うことを誓う。逆に、マヤに陰湿な嫌がらせをする人物へは容赦なく、乙部のりえがマヤを陥れたことを知ると「ひきょうな...!同じ演技者の風上にもおけない…!」と激怒する。

あれほど嫌っていた親の力を使って、のりえと同じ舞台『カーミラの肖像』に立ち、「役者は実力と才能だけがものをいうのだということを思いしらせてあげる…!」と、圧巻の演技を見せつけて舞台を自分のものにする。そして、「マヤ…かたきはとったわよ…」と劇場を去るのだった。

ライバル心とともに育っていくマヤへの友情はなんとも美しく、亜弓の真っ直ぐな演技への想いにも胸を打たれるエピソードである。

今回紹介した名作漫画に登場したライバルたちは、みな芯が強く心が美しく、主人公と純粋にぶつかり合う姿は胸を打つ。一度読み始めたら止まらなくなること請け合いなので、未読の方はチェックしてみてはいかがだろうか。

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