【コラム・天風録】裏金事件

 自然は曲線を創り人間は直線を創る―。日本人で初めてノーベル物理学賞に輝いた湯川秀樹博士は晩年のエッセーにつづった。車窓から見える丘陵や草木の曲線、直線で形作られた田園、家屋などを眺めながら浮かんだ言葉という▲ひろしま美術館の特別展「フィンランドのライフスタイル」を巡る中で思い出した。北欧の巨匠が手がけた家具や食器は美しい曲線を持つ。題材にしたのは森林や湖、花、鳥といった自然だ。絶妙なラインに見とれながら博士の言葉に納得がいった▲自然の持つ過酷な一面がデザイン大国を育んだらしい。冬場は午後2~3時ごろに日が沈む。こもりがちになる家の中をいかに楽しく、心地よい空間に変えるか。努力と遊び心が独創的なインテリアやサウナを生んだ▲そんな暮らしへの肯定感も高い。国連が先月公表した世界幸福度ランキングで7年連続の1位となった。日本は51位である。最も近い距離にある欧州国ながら、生活の満足度では程遠い▲物理学の発展に力を尽くした湯川博士も「一番大きな問題は常に人間の幸福である」と訴えている。幸せのお裾分けではないが、かの国の暮らしに興味を持つのも一案かもしれない。

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