『虎に翼』土居志央梨が表情に忍ばせる繊細な演技 寅子の“同志”よねから目が離せない

「私たちは一個の人格者として認められていない女のくせに、法律を学んでいる、地獄の道を行く同志よ。考えが違おうが、共に学び、共に戦うの」

NHK連続テレビ小説『虎に翼』では、“地獄”というワードが印象的に使われている。主人公・寅子(伊藤沙莉)が生きる約100年前の日本において、女性は戸主である父親または夫の庇護下におかれていた。あらゆる権利行使を制限され、家庭に縛り付けられる。まさに“地獄”。そこから抜け出したとしても、また別の“地獄”が待ち受けている。

どこへ行っても地獄。ならば、どの地獄に進むかを選ぶしかない。同じ地獄は地獄でも、自分が選んだ、よりマシな地獄へ。寅子たち明律大学女子部の生徒たちは、そういう意味での同志である。

2年生となった寅子の地獄行きの仲間は20人にまで減り、個性的なメンバーが残った。華族の令嬢の桜川涼子(桜井ユキ)、弁護士の夫と3人の息子を持つ大庭梅子(平岩紙)、朝鮮半島からの留学生である崔香淑(ハ・ヨンス)。そして、視聴者の注目を一身に浴びるのが、男装の山田よね(土居志央梨)だ。

「ヘラヘラしてうっとおしい。お前みたいなのがいるから女はいつまでも舐められるんだよ!」

寅子が思わず尻餅をついてしまうほどの啖呵で、初回の登場から強いインパクトを残したよね。以降も一切クラスメイトと馴れ合うことなく単独行動を取っているが、常に不機嫌なオーラを漂わせ、触れたものは皆傷つけるジャックナイフのような存在である。変わり者で厄介。そう切り捨ててしまうのは簡単だが、彼女の場合はなぜか放っておけない。自分でもどこにぶつけていいか分からない怒りに、今にも溺れそうになっているからだ。

よねを見ていると、ふと映画『リバーズ・エッジ』で同じく土居志央梨が演じた女子高生のルミが思い起こされる。同作は岡崎京子の漫画を原作に、1990年代を生きる若者たちの欲望と焦燥感を描いた過激な青春群像劇で、中でも心の飢えや渇きをセックスとドラッグで埋めるルミの姿は衝撃的だった。熱い信念が瞳や声にも宿るよねとは異なり、ルミの声は甘く、目もどこか虚ろ。一見真逆だが、よねが怒りで武装するように、ルミもまた空虚を装うことで自分を守っているキャラクターで同じように目が離せなかった。

土居が朝ドラに出演するのは今回が二度目。2020年度後期放送のNHK連続テレビ小説『おちょやん』では、ヒロインの千代(杉咲花)が奉公する芝居茶屋「岡安」の先輩お茶子・富士子を演じ、厳しさの中にある優しさを滲ませた。クラシックバレエで培った身体表現を武器に舞台で活躍する一方、NHK大河ドラマ『青天を衝け』や『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、『姪のメイ』(テレビ東京系)といった話題作への出演が相次ぐ土居。表面的な態度の裏に隠された、もしかしたら本人でさえも気づいていない繊細な感情を拾い上げる演技が秀逸で、よねが怒っているときはどこか泣いているようにも見える。

よねが現状、置かれている“地獄”はどのような場所なのか。第3週に入り、女給が男性客を接待するカフェー、今でいうキャバクラでボーイとして働くよねの姿が映し出されるなど、少しずつその現状が見え始めている。おそらく学費や生活費を稼ぐために働いているのだろう。そんな彼女からしてみれば、勉学だけに注力できる環境に身を置く寅子たちは甘いと感じられるのかもしれない。だが、寅子の言う通り、人の本気など目に見えるものではなく、少なからず彼女たちにも学ぶ理由がある。抜け出したい地獄がある。そのことをよねは少しずつ知っていくのだろう。「知らない誰かのために涙して、憤慨するあなたはとっても素敵」と寅子に褒められ、戸惑いのあまりに逃げ出すかわいらしい一面も持ち合わせるよね。寅子に肯定され、よねの頑なな心がほぐれていく様にも注目していきたい。
(文=リアルサウンド編集部)

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