【陸上】田中希実「世界の選手たちと肩を並べて…」 パリ五輪まであと100日で語った胸中

パリ五輪への思いを語った田中希実

7月26日に開幕するパリ五輪まで、17日であと100日となった。祭典ムードが日ごとに高まる中、2021年東京五輪で陸上女子1500メートル8位入賞の田中希実(24=ニューバランス)が単独インタビューに応じ、大舞台への思いを明かした。日本女子中長距離界のエースは、世界の猛者と向き合いながら絶えず成長を模索。6月ごろに予定している人生4度目のケニア合宿を通じ、さらなる進化を目指す構えだ。

世界中が注目する戦いを前にしても、田中の表情は変わらない。3月の世界室内選手権3000メートルでは、ショートトラックのアジア新記録(8分36秒03)をマーク。8位入賞を果たすも、依然としてトップの壁は厚いと感じている。

田中(パリ五輪前に)ダイヤモンドリーグ(世界最高峰シリーズ)も何戦か決まっていて、去年はやっと何戦かレベルの高いレースをこなせたけど、まだ初心者というか、格下のチャレンジャーの立場。しっかりパリ五輪に向けて自分をアピールしていくことが大事。あとはもう1回、パリ五輪前にケニアへ行くことになると思う。これまではケニアで学んだことを日本や他のレースでフィードバックすると思っていたが、今回はケニアにいるトップの選手と、もっと対等に練習がしたいです。

ケニアの環境に興味を抱いたのは中・高校生のころだった。「なぜケニア人が速いのか」。22年に初めてケニアで合宿を行い、年明けには3度目の合宿を敢行。トップ選手と何度も練習を重ね、世界と戦うためのヒントを見つけた。

田中 ケニアでも練習の中で勝負していけるような立場になりたい。余裕を持って練習をこなせるようになれば、練習の中でも勝負を仕掛けていくことができる。最後の1本になった時はレースの時と変わらない競り合いになったりもするので、そこに自分も参加していけるような練習ができたら、五輪とかでも同じような競り合いのレースをイメージできるようになると思う。もっと自信を持って勝負を仕掛けていけるような地力をつけたいです。

自身の現在地を冷静に分析する思考力が強みの一つ。読書家としても知られる田中は、本から得た学びも競技につなげている。最近では時間ができた際に「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ)を読み進めたという。

田中 結構、感情移入をしながら本を読むことも多いが、主人公(森宮優子)は血のつながった家族と過ごしていない子なので、私からしたらどんな世界なのか理解できない部分もある。でも、その主人公の強さなどに憧れたりもした。私は逆に家族とずっと一緒にやっているところがあるので、対照的な立場から見て「私に持てる強さは何だろう」と考えるきっかけになりました。

東京五輪では日本勢初出場となった1500メートルで堂々の8位入賞。女子陸上界の歴史に新たな1ページ刻んだが、常に「理想の走り」を追い求め続ける田中は無限の可能性を秘めている。

田中 パリ五輪は1500メートルと5000メートルで出られたら、2種目とも決勝に残ることが目標になってくると思う。私の場合は決勝にさえ残ることができれば、またチャレンジャーの立場になって向かっていけると思う。そういった時間自体が好きだったりもするので、全てがかみ合った時に、入賞やそれ以上のところとかも見えてくるのでは。私が追い求めているような「ラストまでいろんな選手と肩を並べて走ること」が気づいた時に実現できたら、それが一番理想です。

パリ五輪への決意には、自身の愛称「のん」のサインとともに「世界の選手たちと肩を並べて走る時間を楽しむ」と色紙に記した。生き生きとした快走で、世界の壁に風穴を開けることはできるか。

【あくまで気分転換】幼いころから本と接してきた田中にとって、読書は身近なものだった。「普通に、みんなが暇な時にユーチューブを見たりとか、テレビを見たりとか、ゲームをしたりする感覚に近いかなと思う」と話す。読書を通じて多くの知識を吸収してきたが、あくまで気分転換の一つという認識だ。「読書とか、自分がもともと好きだったことをやるのもそうだが、無理してやることではなくて、自然とやりたいなと思う時にやりたいことができるのが一番大事だと思う」と自己分析した。

☆たなか・のぞみ 1999年9月4日生まれ。兵庫県出身。小野南中2、3年時に全国都道府県対抗女子駅伝の8区で区間賞を獲得。西脇工高進学後も全国の舞台で活躍した。同志社大進学後は父・健智氏による指導のもと、2021年東京五輪1500メートルで日本勢初の8位入賞を果たした。22年世界選手権には800、1500、5000メートルの3種目に出場。23年4月にプロへ転向すると、同年世界選手権では5000メートルで日本勢26年ぶりの入賞を果たした。153センチ。

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