兵庫県加西市(かさいし)に位置する「古法華(ふるぼっけ)自然公園」は広大な自然公園である。この古法華自然公園内にある「加西アルプス」は、その名の通りアルプスのようなダイナミックな絶景が広がる人気の登山スポットだ。
「加西アルプス」の2大ピークは標高251mの「善防山(ぜんぼうやま)」と、標高244.4mの「笠松山(かさまつやま)」。いずれも300mにも満たない低山なのだが、週末は多くの登山客が訪れる。筆者が訪れたのは平日だが、それでも20人近くの登山客とすれ違った。
なお「加西アルプス」は山頂からの展望が絶景なのにもかかわらず、人気スポットに「山頂」が取り上げられることは少ない。それほど「加西アルプス」には見どころが多いということである。
「加西アルプス」の登山ルートは数多い。今回は数ある中でも「加西アルプス」の見どころを全部めぐることができる「8の字縦走コース」を歩いてみた。このルートは歩き始めて1分で眺望が開け、次々と絶景が現れる。これほど手軽に雄大な景色が楽しめる低山はそう多くないだろう。
筆者は今回初めて「加西アルプス」を訪れたが、何度でも行きたいと思うほど気に入ってしまった。「加西アルプス」は本当におすすめだ。
■8の字縦走コース
「8の字縦走コース」は、「王⼦⽫池親⽔公園(おうじさらいけしんすいこうえん)」駐車場真向かいの善防山に向かう「大手門登山口」がスタート地点。歩き始めて1分で岩場に到着し、そこからは王⼦⽫池親⽔公園が真下に見下ろせる。
岩場を過ぎると木漏れ日が美しい林を進むルート。中腹からは播磨平野が見渡せ、笠松山山頂も遠望できる。
●善防山
善防山山頂に近付くと、尾根が不自然に平らになり一目で城跡と分かる場所が現れる。この城跡は室町時代の「善防山城跡(善防師城跡)」。播磨の守護大名赤松氏の城跡だ。城跡は善防山山頂一帯に広がる。山頂は広く、眺望も抜群だ。
なお、この善防山城は、「嘉吉(かきつ)の乱」で幕府軍に攻め落とされた赤松氏の城の一つ。「嘉吉の乱」とは、播磨守護赤松満祐(みつすけ)が六代将軍足利義教(よしのり)を暗殺したことで勃発した騒乱である。山頂の案内板によると、明治初期まで乱の戦死者の白骨が多く埋まっていたらしい。
●加西アルプス名物「吊橋と摩崖仏」
善防山を過ぎると下りルートだ。眺めのよい尾根道を進むと、善防山と笠松山の間の谷にかかる吊橋に至る。この吊橋は「加西アルプス」の名物スポット。吊橋が見え始めると、そこから笠松山までの登山道も一望できるのだ。
「吊橋」を渡ると、大きな岩場で鎖場になっている。ただ鎖場と言っても難易度は低いので心配無用。たまたま居合わせた小学生もスイスイ登っていたくらいだ。そして岩場の上は尾根道になっており、真正面の崖には、独特な表情の摩崖仏(まがいぶつ)が見える。
●笠松山
吊橋以降も見晴らしのよい道が続く。振り返ると、善防山から歩いてきたルートも一望できる。300mもない低山ご当地アルプスとは言え、アルプスと言われるだけのことはある景色だ。
なお、とがった山だけに笠松山の山頂はそれほど広くはない。山頂には360度の眺望を楽しむことができる展望台がある。
笠松山からは「古法華池(大柳ダム)」湖畔までやや急な下り坂。途中東屋のあるピークを経由し、次の目的地「馬の背」を真正面に見ながら下る道となる。
ここもかなり景色がよい道なのだが、階段が朽ちて鉄の杭がむき出しになっている状態。転倒すると危険なのでゆっくり歩こう。
●古法華池から馬の背へ
笠松山から下山すると舗装路に出る。ここを右折し、西へ少し歩くと古法華池に至る。池のほとりには休憩によさそうな場所がいくつもある。
続いて向かうのは「加西アルプス」名物スポット「馬の背」。「馬の背」は、古法華池に流れ込む小川に架かる橋の脇から登る。「馬の背コース」入口の唯一の目印は、多くの人が誤字を指摘する「馬の瀬」と書いてある道標。ここも「加西アルプス」の名物スポットになっている。唯一の目印なので登山者にとっては非常にありがたい道標だが、けっこう凝った作りなのに「背」より画数が多い「瀬」の誤字が印象的だ。
なお「馬の瀬」の道標から「馬の背」までは急登。振り返ると古法華池が真下に見えて美しい。
急登を登りきると「馬の背」に至る。ここは吊橋と人気を二分する「加西アルプス」の名所。迫力ある景色が左右に広がり、左側には笠松山全体が見渡せる。
なお「馬の背」は道幅もあり危険な場所ではないのだが、当然、端を歩くと転落する恐れがある。道の真ん中でも十分景色は堪能できるので、足元には注意しよう。
●下山
「馬の背」から小さなピークを3つ越え、善防山から「吊橋」のルートを横切り下山する。小さなピークの前後もなかなか眺めがよく、景色に飽きることがない。
最後に、善防山から吊橋のルートを横切り、右に善防山、左に笠松山を眺めながら下山する。
■立ち寄りスポット
古法華自然公園には「加西アルプス」以外にも、時間があれば立ち寄りたいスポットがいくつかある。
●古法華寺
善防山と笠松山の谷間にある古法華寺は、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』のロケ地となった寺。古法華石仏という石仏群が有名で、京都の「愛宕念仏寺(おたぎねんぶつじ)」を彷彿させるようなユニークな石仏も楽しめる。
寺の裏には笠松山へ登る登山口。笠松山だけを訪れるのであれば、「古法華寺ルート」がおすすめだ。
●古法華池
「8の字縦走コース」でも傍を通るが、古法華池は風光明媚なスポットである。池を眺めながらゆっくりできる場所も多く、縦走登山のお昼休憩におすすめだ。
●古法華自然公園キャンプ場
古法華自然公園キャンプ場は、古法華自然公園西側にある人気の無料キャンプ場。利用するには予約が必要だ。平日でもキャンパーで混雑しており、とても賑やかな場所である。
キャンプ場前の道をさらに西へ進み、古法華自然公園を抜けると、「ラジオ体操考案者 大谷武一(おおたにぶいち)生誕の地」の碑がある。
●王⼦⽫池親⽔公園
王⼦⽫池親⽔公園は、古法華自然公園の東端にある溜池公園だ。「加西アルプス」の登山口でもあるこの公園は、溜池が多い播州の中でも美しい景色で知られている。
池の中央に浮かぶ王子皿島にかかる眼鏡橋は写真素材にもよく使われている写真映えのする橋。「加西アルプス」の登山後には、ぜひ立ち寄りたい。
■「加西アルプス」へのアクセス
加西アルプスは、車を持っている人も持っていない人も、訪れやすいスポットだ。
「8の字縦走コース」の登山口、大手門登山口は王⼦⽫池親⽔公園駐車場の真向かい。北条鉄道播磨下里駅から徒歩750m、10分前後で到着する。車で「加西アルプス」を訪れる人は、たいてい王⼦⽫池親⽔公園駐車場に車を停めているようだ。
また電車で訪れる場合、ノスタルジックな播磨下里駅という楽しみもある。木造の駅舎、写真映えする駅のホームにまっすぐな線路、懐かしい雰囲気の待合室など、鉄道ファンでなくてもたくさん写真を撮ってしまうスポットだ。
今回紹介した「加西アルプス」は、終始絶景が連続する山だ。登山道には名物スポットも多い。周辺にも見どころはたくさんあり、丸一日楽しめる場所である。週末には多くの登山客がやって来るというのも納得だ。
なお、筆者が歩いた「8の字縦走コース」は、休憩30分を含めて合計4時間。写真を撮りながらかなりゆっくり歩いたタイムである。何度でも訪れたいと思うほど、よい山であった。