[社説]電動車椅子の搭乗拒否 合理的配慮 浸透させよ

 合理的な配慮はあったのか。障がい者の立場に立った検証が必要だ。

 格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションの那覇発台北行きの便で今月5日、電動車椅子の乗客が搭乗を拒否された。

 乗客は骨形成不全症による障がいがあり日常的に電動車椅子を利用している。

 電動車椅子にはバッテリーが装備されている。一方、バッテリーは容量によって危険物に当たり、機内持ち込みを制限されることがある。

 同社の公式ウェブサイトでは当時、電動車椅子で搭乗する際の注意事項として「バッテリーの目視確認ができない場合、バッテリーの詳細な情報が分かる書類等を持参」するよう明記されていた。

 乗客の電動車椅子は、バッテリーにカバーが付き外からは見えない。そのためサイトに従い、事前にバッテリーの情報を同社に送付していた。

 那覇空港では当日、チェックインカウンターや保安検査場は問題なく通過。ところが搭乗ゲート前で突然スタッフに止められたという。

 同社は後日、社内規定で目視確認しないと搭乗できないとした上で「サイトの説明が十分ではなかった。大変申し訳ない」と謝罪した。

 しかし、今月から施行された改正障害者差別解消法では、これまで国や自治体に義務付けていた「合理的配慮」を企業にも適用拡大した。

 乗客と話し合い、代替案を提示することなどが求められている。一律に拒否することは配慮に欠ける。

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 予期せぬ事態に乗客とその介助者の失望はいかばかりだったか。翌日、他社の便に振り替えることができたものの、2人が要した時間を考えると損失は大きい。

 乗客は台北市在住で、那覇市内で開かれた「県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例」の施行10年記念パレードに参加するため来沖していた。

 行きは他社を利用したが、搭乗は問題視されなかったという。「車椅子は私の体の一部。二度とこのようなことが、起きてほしくない」と訴える。

 そもそも電動車椅子の機内持ち込みについて国際基準で現物確認の必要性は定められていない。国も仕様が分かる書類などの提示や口頭説明があればよいとする。

 一方、国内の航空会社では同社以外にも規定で目視確認を定めるところもある。

 今回のケースを見れば、規定の見直しも必要だろう。

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 合理的配慮では、障がい者にほかの人と平等な機会を保障できるよう、本人の意向を尊重しながら可能な範囲で環境を整えることが求められている。

 電動車椅子にもシニアカーから障がい者用までさまざまな大きさ、仕様があり、中には対応が難しいケースもあろう。必要なのは利用者と話し合い、可能な限りバリアー(障壁)を取り除こうとする姿勢だ。

 誰もが暮らしやすい社会の実現へ、一人一人が考え、合理的配慮の実践を前に進めたい。

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