版元ドットコムとopenBDプロジェクトは“だれもが自由に使える書誌・書影”を再び提供するためホワイトリスト作成という正攻法に出た

執筆者:鷹野凌

一般社団法人版元ドットコムとopenBDプロジェクト(版元ドットコムと株式会社カーリル)は3月29日、版元ドットコム会員社以外の出版社に対し、書誌・書影の読者(第三者)などへの利用承諾を求める取り組みの開始を発表しました。そもそもなぜそのような取り組みが必要なのでしょうか? 本稿ではその背景や経緯などについて、関係者への取材などを踏まえた上で詳しく解説します。

そもそもなぜ書影の利用許諾が必要なのか?

オンラインショッピングなどで用いられる商品画像――本の場合、それは「書影」と呼ばれる。要するに、表紙またはカバー(以下、カバーは省略)の画像だ。タイトルや著者名などの文字や図画が独自に配置され、文字の大きさ、字体の選択、配色など、制作者の「思想又は感情が創作的に表現」されたものであり、著作物とみなされる可能性は高い。

本の中身の著作権はおおむね著者が持っているが、書影の著作権は出版社が持っているか、出版社が著作権者から利用許諾を得ている。その状況は契約次第でさまざまだと思うが、ひとまず話を単純化するため以下では「出版社は第三者に書影の利用を許諾できる立場」とする。

ある本を第三者が紹介しようと思ったとき、ブログやSNSなどへ紹介文とともに書影を添えることで、本の発見される可能性(ディスカバラビリティ)は高まる。単純に目を捕らえる(アイキャッチ)効果だけでなく「見覚えのあるあの表紙」を、書店や図書館など他の場所で本を探すといった行動にもつなげられるわけだ。

真面目な人ほど無断利用をためらう

ところが、厳密に言えば、著作権者に無断で書影を利用すると、著作権侵害となる可能性がある。ただし、日本の著作権法は親告罪なので、権利者にとってデメリットにならない利用であれば黙認される可能性も高い。書影が広く一般に露出することは販売促進に繋がるからと、本の紹介での利用はむしろ歓迎する出版社も多いだろう。いわゆる「寛容的利用(事実上のフェアユース)」だ。

しかし「厳密に言えば著作権侵害となる可能性がある」などと言われると、真面目な人ほど無断利用をためらう。ならば正攻法で権利者から利用許諾を得れば良いかというと、出版社としてはいちいち個別に許諾を求められると対応業務が重荷になってしまう。そのため、あらかじめ「基本的に許諾申請は不要」としている出版社もある。

逆に、はじめから個人には利用許諾を行っていない出版社もある。このあたりのスタンスも出版社によってまちまちだ。たとえばマンガのように、表紙へ載せるイラストもマンガ家の著作物である場合、出版社はそのイラストを含め「作家の作品をお預かりする」立場である。そのため、第三者による無断利用への対応には神経質にならざるを得ないといった事情もあるだろう。

アフィリエイトでの利用にも難点が

ところで、ネットショップの商品画像は、実はアフィリエイト(成果報酬型広告)での利用であれば権利関係をクリアにできる。たとえばAmazonや楽天では、商品画像をアップロードした時点で、その画像がAmazon.co.jpや楽天市場(楽天ブックス)で利用されることはもちろん、関連ウェブサイトでの利用(再許諾)にも同意したことになる。

ただしAmazonは、アフィリエイトで商品を紹介する場合でも、画像をダウンロードして別のサーバーへアップロードし直す形での利用を禁じている。楽天は、画像をダウンロードして再利用する形を認めているが、アフィリエイトリンクと一緒に掲載することが条件だ。

つまり、アフィリエイトの場合、そのネットショップでの購入促進に繋がらないような商品画像の利用は認められていない。アフィリエイトは商品の広告であるのと同時に、ネットショップの広告でもあるのだ。

このため、アフィリエイトでの商品画像が利用できない場合も多々ある。アフィリエイトで稼ぎたいわけではない方はもちろんだが、公務員など副業が禁じられている立場の方もいる。

また、リアル書店の場合、競合するネットショップでの購入に繋がるような利用は自らの首を絞めることになる。公共図書館の場合、特定企業だけに便益を供与するような利用には難色を示すだろう。

書誌・書影情報のAPI

他にも、たとえば「ブクログ」「読書メーター」「カーリル」のような本に関連するウェブサービスやアプリを展開しようと思った場合には、書誌・書影情報を自社でイチから構築・更新するのではなく、外部で提供されているAPI(Application Programming Interface)を利用するのが一般的だ。

たとえば、Amazon Product Advertising APIは提供開始が2003年と古く、「Web API拡大の流れのきっかけとなった」ともされている。いまではあちこちのサービスで活用されているのを見かける。楽天のAPI提供開始は数年遅れの2007年だ。

そしてもちろん、どちらもアフィリエイトのためのAPIなので、それぞれのネットショップでの購入に繋がらない利用は禁じられている。つまり、それぞれのネットショップの利用を促進・増強するためのAPI提供なのだ。

また、これはあくまで一般論だが、特定企業が提供するAPIを利用してサービスを構築することは、その企業のエコシステムに組み込まれることでもある。つまり、運営するサービスの生殺与奪の権を特定企業に握られてしまうのだ。これは経営上の大きなリスクとなる。

いきなりAPIが仕様変更されたり、いきなりの規約変更に振り回されたり、APIを止めると脅されたり、実際に止められたり、いきなりアカウントを凍結されたり――などという話もある。少し違う分野だが、Twitter(現X)が無料APIを利用しているサードパーティーを締め出しにかかったのはまだ記憶に新しい。

消えた「書影や書誌は自由にお使いください」ページ

前置きが長くなった。実は、版元ドットコムの会員社はすべて、あらかじめ「基本的に許諾申請は不要」というスタンスを表明している。それゆえ版元ドットコム公式サイトには、以前は「書影や書誌は自由にお使いください」というページが存在していた。このページが消えてしまった経緯が、本稿の主題だ。

版元ドットコム公式サイトにはもともと、会員社の本の情報だけが掲載されていた。それが、2015年9月のリニューアルを機に、JPO出版情報登録センター(以下、JPRO)から受信した会員社以外の本の情報も掲載されるようになった。このとき「書影や書誌は自由にお使いください」の対象は、会員社以外の本にも広げられた。

これを筆者が知ったとき、利便性が高まり本の販売促進には大いに役立つと思ういっぽう、許諾する/しないの「スタンスは出版社によってまちまち」だから「大丈夫なのかな?」と少し不安を覚えた。ところが、これはあとで知ったのだが、JPROの利用規約(2018年4月1日制定)には、以下のような条項があった。

第4条(提供情報の目的・用途及び利用の制限)
(1) 提供者はJPOに対し、対象の出版物の販売促進を目的として、出版情報をJPROが使用し、またJPROを通じて受信者に利用させることを許諾します。その許諾は非独占で、受信者が第三者に情報を利用させること、また提供者の意図を損なわない範囲で、受信者が情報を要約・編集することを含むものとします。

つまり、この条項を素直に読めば、提供者(出版社)はJPROに対し、受信者(版元ドットコムなど)が第三者に情報(書影を含む)を利用させることを許諾していたのだ。ただし、何にでも自由に利用できるわけではなく「対象の出版物の販売促進を目的」という条件がある

これに対し、版元ドットコムのスタンスは「本の紹介などのための利用はご自由にどうぞ」だったので、その中間はグレーゾーンだった。つまり「本の紹介」ではあるけど、すぐに「販売促進」には繋がらないような利用だ。厳密に線を引くことは難しい。そこは「寛容的利用」の領域だったとも言えるだろう。

ただし、一部の出版社はこの時点ですでに、これを是とはしなかった。そのため、版元ドットコム公式サイトでは「自由にお使いください」の対象外である一部の書影の下には「この書影の使用については、出版社にご相談ください。」と表記されていた。

openBDプロジェクトの始まり

2016年12月、版元ドットコムはカーリルとタッグを組み、次のステージへと歩を進めた。「書誌情報・書影を、だれでも自由に使える、高速なAPIで提供」する「openBDプロジェクト」である。2017年1月23日に国立情報学研究所で開催されたセミナーには筆者も参加している。

このセミナーでは繰り返し「販売促進を目的とした利用が前提」と説明されていた。その「販売促進」という言葉に引っかかった図書館関係者もいた。確かに、図書館での利用は「本の存在を認知させる」という広い意味の販売促進に繋がるかもしれないが、即効性が薄いのも事実だろう。

だから筆者はこのとき、アメリカの電子図書館サービス「OverDrive」が喧伝していた“Buy it Now”を念頭に、「図書館で本が注文できるようにすれば、販売促進になるよ!」などとツイートしている。いま思えばいろいろ示唆的だった。

ともあれ、openBD APIの提供が開始されたことで、書誌・書影はさまざまなところで活用されるようになっていった。たとえば、角川武蔵野ミュージアム公式サイト、新潮社の書評まとめ読みサイト「ブックバン」、日本SF作家クラブ公式サイトなど、出版社系や作家団体のサイトでも利用されていた。

他にも、ウェブ本棚サービス「ブクログ」、書評再録サイト「ALL REVIEWS」、とうこう・あいの書店向け書籍受発注システム「BookCellar」、文化通信社のデジタルチラシサービス「BookLink」、近刊情報検索サイト「近刊検索デルタ」などでも利用されていた。

そして、図書館のOPACや予約検索システムなどでも活用されていた。こうして見ると、Amazonや楽天が提供しているアフィリエイトのためのAPIを、立場的に少々使いづらいところが中心であることがわかる。openBD APIは、世の中のニーズをしっかり捉えていたのだ。

出版社が容認できないような悪用が……

そもそもopenBD APIのような仕組みは、本来なら「日本における出版インフラの整備・改善を目的として活動」している一般社団法人日本出版インフラセンター(以下、JPO)が提供すべきだったのでは? と思うかもしれない。

JPO専務理事 渡辺政信氏によると、JPROは当初、伝統的な業界内――取次や書店への情報提供だけを想定していて、それ以外のところまで提供範囲を広げるという意識がなかったそうだ。要は、書誌・書影のオープン化には及び腰だったのだ。だから利用規約にも、あまり細かな制限は書き込まないようにしていたのだという。

だから、版元ドットコム公式サイトやopenBDプロジェクトは、先んじて利用実績を積み重ねることにより、書誌・書影情報をだれでも自由に使えることを“当たり前の状態”にすることを狙っていたのだろう。ある意味、確信犯的だったと言っていいと思う。

ところが、openBD APIの利用が広がるにつれ、残念ながら出版社の意に沿わない――つまり、販売促進にまったく繋がらないような書影の利用も行われるトラブルも発生するようになってきた。

JPO渡辺氏によれば、いわゆる「ネタバレサイト」で書影が利用されたり、いわゆる「自炊」で裁断した本をネットオークションへ出す際に書影が使われた、などのトラブル事例があったそうだ。

ネタバレサイトの事例は、具体的にどこか? までは伺っていない。ただ、たとえば小学館の訴えで摘発された事例では「イラスト掲載は少ないながらも、セリフなどの文字内容や情景をほぼそのまま抜き出し、ストーリーが詳細に分かるように掲載している点」が問題とされている。「ネタバレ」という字面から受けるイメージに引きずられがちだが、ほぼ海賊版サイトの一種と言っていいだろう。

裁断本の事例は、さらにえげつない。ネットオークションで裁断済みの本を売る際に、版面をスキャナで取り込んでPDF化したファイルをおまけとして配布していたのが見つかったそうだ。いわゆる「自炊」までなら私的使用目的の複製でセーフだが、そのファイルを配布したら著作権侵害となる可能性は非常に高い。

そしてJPROの利用規約は改定された

正確に言えば、裁断本の事例はopenBD APIの悪用事例ではない。「自由にお使いください」とされている版元ドットコム公式サイトから、書影を手作業でダウンロードし、別の場所へアップロードし直した事例だろう。

版元ドットコム代表理事の沢辺均氏によると、版元ドットコム公式サイトでは「自由にお使いください」としながらも、受容限度を超えた利用を見つけたら個別に連絡して利用を差し止めるようなこともやっていたのだという。

しかし結局、こういった悪用事例が明るみになったことで、JPROへ出版情報を提供している出版社からのクレームとなり、JPRO利用規約は2022年7月19日に改定された。前掲の第4条は、以下のように変わった。

第4条(提供情報の目的・用途及び利用の制限)
(1) 提供者はJPOに対し、対象の出版物の周知や流通・販売促進を目的として、出版情報をJPROが使用し、またJPROを通じて受信者に利用させることを許諾します。その許諾は非独占で、受信者が第三者に情報を閲覧に供すること、また提供者の意図を損なわない範囲で、受信者が情報を要約・編集することを含みますが、第三者に対する再許諾権は含まれせん。

2018年4月1日制定の利用規約では「受信者が第三者に情報を利用させること」だったが、2022年7月19日改定版では「受信者が第三者に情報を閲覧に供すること」に変わった。また、最後に「第三者に対する再許諾権は含まれせん」というフレーズも追加された。

これにより、版元ドットコム公式サイト・openBDプロジェクトでの書誌・書影情報の第三者提供は、JPRO利用規約のグレーゾーンから違反に変わってしまったのだ。その結果、2023年6月5日にはJPROから版元ドットコム・openBDへの書誌・書影データの配信は停止されることになった。

再開に向け協議を継続というお知らせも出ていたが、最終的にはopenBD API(バージョン1)は提供終了と発表された。版元ドットコム公式サイトからも「自由にお使いください」のページは削除され、「書影・書誌の利用について」というページに差し替えられた。

この新しいページには、「画像下に【利用可】の表示があるものは出版社が再利用を許諾しているのでお使いください」「【利用不可】の表示がある書影・書誌は、版元ドットコムサイトからの利用はできません」と記載されている。

真正面から他の出版社の利用許諾を得る!

ここでようやく冒頭の、版元ドットコムとopenBDプロジェクトが、版元ドットコム会員社以外の出版社に対し、書誌・書影の読者(第三者)などへの利用承諾を求める取り組みの開始を発表した話へ繋がる。つまり今度は、真正面から他の出版社の利用許諾を得て、地道にホワイトリストを作成していく正攻法に切り替えたのだ。

ここまで読んで、版元ドットコム会員社と同様、あらかじめ「基本的に許諾申請は不要」というスタンスを表明したい出版社の方は、ぜひ利用承諾申込のページへと進んで欲しい。JPROからのデータは規約上、第三者へ提供できなくなったため、仮にまったく同じデータであっても別の手段で取得する必要がある。その手段などについても尋ねられるフォームになっている。

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