【4月18日付社説】高齢者の免許返納/生活の質を落とさぬ支えを

 運転免許を返納したくとも、踏み切れない人は多い。高齢者らの移動手段の確保などの支援策を強化する必要がある。

 全国で高齢運転者による車の暴走、死傷事故に歯止めがかからない。県内でも今年2月、鏡石町のJR鏡石駅で高齢女性が運転する軽乗用車が歩道などに突っ込み男女2人が死傷した。県内の交通事故のうち、65歳以上の高齢運転者による事故が3割を占める。

 県警によると、県内の運転免許保有者は約126万人と減少を続ける一方、後期高齢者となる75歳以上の保有者は約13万5千人と、前年同期より1万1千人増えた。人口の多い「団塊の世代」が75歳以上になり、今後、高齢者による事故の増加が懸念される状況だ。

 県警などは、運転に不安のある高齢者らに免許の自主返納を検討するよう呼びかけている。しかし自主返納は東京・池袋で高齢男性の車が暴走し、母子2人が死亡した事故が起きた2019年をピークに減少傾向にある。

 身体能力や認知機能の衰えを自覚した時点で、返納することが事故を防ぐ有効な手段だ。運転に自信をなくした人や、家族などから返納を勧められた人は、前向きに検討してほしい。

 返納をためらう人の多くは、通院や買い物に車が欠かせない、バスやタクシーなどの利用に慣れていない、近所に出かけるのに不便―などを理由に挙げる。

 一部の市町村、各地区の交通安全協会は、自主返納者らに公共交通の無料措置や利用券の配布などを実施している。しかし、利用券の枚数が少なかったり、年齢が制限されたりなど、マイカーに代わる移動手段になり得ていない。

 運転手不足や経営難などで、県内でも路線バスの廃止や減便、タクシーの台数減少が進んでいる。市町村などは公共交通を担う事業者を支援するなど、返納者が生活の質を落とさないような環境づくりを進める必要がある。

 運転をやめた高齢者は生活範囲が狭まり、活動機会が減るなどして、継続した高齢者と比べて認知症や要介護状態になるリスクが高まるとのデータもある。

 特に公共交通の少ない過疎・中山間地域では運転免許を返納すれば、移動手段を奪われてしまう。やむを得ず運転する場合は、雨天や夜間は避ける、長距離は運転しない―などのルールを作り、実践していくことが大切だ。

 運転技能の低下を抑える取り組みも重要だ。市町村などは高齢者向けの運転講習や実車訓練を企画し、参加を呼びかけてほしい。

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