「協力井戸」登録広がる広島 能登半島地震で注目、断水時に共同利用可能 個人宅公表や維持管理のハードルも

自宅の庭で井戸のレバーを押す川本さん㊨と横田会長(

 能登半島地震を機に、断水時に市民が共同で利用できる「協力井戸」があらためて注目されている。トイレや洗濯など生活用水の供給源として、2018年の西日本豪雨でも井戸は役立った。広島県内では地域団体や市町が井戸を事前に登録する動きが広がっているが、個人の住所が公開されることや維持管理の負担への課題も浮かぶ。

 菜の花が揺れる家庭菜園の脇に、手動式のポンプがあった。レバーを押すと勢いよく水が出た。廿日市市大野地域に住む川本松夫さん(81)は「断水時に地域のみなさんに使ってほしい」と10年前、自宅の新築を機に井戸を掘ったという。

 川本さん宅の井戸は、大野地域の「共助井戸マップ」に落とし込まれている。広島県環境保健協会(広島市中区)の助成金を得て、大野公衆衛生推進協議会が21年から3年かけて作成。地元女性会と連携し、地域内の井戸188カ所の所有者に協力の意向を尋ねた。

 マップは120部刷り、地域の区長や団体で共有している。横田光男会長は「自分の近所で使える井戸を知っておけば便利」と強調。一方で、データの更新や個人情報の扱いにも頭を抱える。「公的機関の関わりがいずれ必要になるでしょう」

 災害時に協力井戸を登録する制度は、1995年の阪神大震災を機に全国で広がった。広島県内で自治体として制度を持っているのは、呉市や東広島市など7市町。制度がない広島市は「制度の開始に向けて準備を進めている」、廿日市市も「今後検討したい」と必要性を認めている。

 多くの自治体は登録井戸をホームページで公開しており、個人宅の住所公開への懸念もある。登録時に自治会や住民など情報提供の対象を決めるパターンが多い。県内で最初に制度を設けた府中町は「災害時に不特定多数の人が出入りすることも、登録をためらう原因になるのでは」と推し量る。安芸高田市は市が個人の連絡先を把握し、一般公開はしていない。

 呉市では制度を設けた20年度以降に136カ所が登録されたが、現在は頭打ち状態に。「所有者のメリットになるように」と、井戸の修繕や改修費の一部を補助する事業の対象を、団体から個人に広げた。

 県環境保健協会の佐藤均理事長は「行政主導ではなく、地域コミュニティー単位で協力井戸の制度を作り、行政が後方支援する形が望ましいのではないか。共助の基盤がある地域でないと浸透は難しい」と指摘している。

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