「漫画村」違法性認定で17億円の賠償命令に 刑事に続く民事の判決で期待される“違法サイト”の抑止効果

■東京地方裁判所17億3,664万2,277円の賠償命令

人気漫画を著作権者に断りなく掲載した海賊版サイトの「漫画村」運営者とされ、有罪判決を受けた人物に大手出版社のKADOKAWA、集英社、小学館が損害賠償を求めた裁判の判決が18日、東京地方裁判所で出て17億3,664万2,277円の支払いが命じられた。刑事に続いて民事でも裁判所が「漫画村」の違法性を認めた形で、17億円あまりという賠償額も違法サイトがもたらす損害の大きさを表すものとなった。

2022年7月にKADOKAWA、集英社、小学館が提起した民事裁判で、「漫画村」によって受けた損害の一部として賠償を求めたのは19億2,960万2,532円(17作品)と、相当に巨額なものだった。もっとも、「漫画村」によって出版業界が被った損害は3000億円を超えていると言われる。「漫画村」が閉鎖された後も、違法で著作権侵害を行うようなサイトの勃興を招いたことを考え合わせると、出版社側が得た17億円の賠償額は決して大きくはない。

それでも、刑事に続いて民事でも裁判を行って損害賠償を求めたのは、「漫画村」のようなサイトが次々と現れ、被害が拡大することを抑止し、健全な漫画の流通マーケットが構築されることを目指したものだと言える。「漫画村」の運営者とされ、刑事裁判で懲役3年の実刑判決を受けた人物は、控訴して争うことなく判決が確定したため服役したが、出所後に「漫画村」は法律違反ではなかったと主張し、再審を求める動きを続けている。

論争が続けば、裁判で違法とされていても実は適法だったのではといった声がはびこり始めないとも限らない。漫画なり映画、映像といったコンテンツの違法サイトが、利用者にとって便利なものとして位置づけられ、未だに利用されているところもあって、その提供者に対する支持が今一度高まりかねない可能性もゼロではなかった。

違法で動画を配信していたサイトが著作権者と話し合い、ライセンス料を払う形で合法サイトとなって事業化され、大きくなっていった例も現実にあるだけに、利用者が違法と合法の線引きをくっきりと付けづらいところもあった。こうした状況に「漫画村」のような違法サイトに対して、民事訴訟で違法を指摘する判断が出て、17億円あまりの損害賠償が命じられたことは、改めてその悪質性を喧伝する効果があった。

提起した19億円あまりの損害賠償額に対して、17億円と大半が認められたことも、裁判所が強く違法性を認識していた現れで、今後に対する相当な抑止効果が期待されると見る向きもある。判決後に一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)を通して原告3社が出した共同コメントにも、「海賊版サイトの問題を改めて訴える契機になった」とある。ACCSもコメントで「海賊版サイトの運営に対して民事上の責任が生じることが示されたことは、同種事犯防止の観点から当然の判決」と判決への支持を表明した。効果への期待感の表れだ。

■コンテンツホルダーによるオフィシャル配信が拡大の契機に

インターネットを中心としたデジタルネットワークの普及と、スマートフォンやタブレットと言ったデジタル情報端末の日常的な利用は、漫画や映像といったコンテンツの流通を一気に加速化させた。そうした動きに、オフィシャルでコンテンツを提供する動きがなかなか追いつかないところを、違法サイトが許諾を要しないことによる迅速さで一気に広がり、被害を拡大させたところもある。

こうした状況を改善するため、コンテンツホルダーによるオフィシャルでのコンテンツ配信が拡大、広く世界で日本発の作品を入手できるようになった。出版社側のこうした努力が無に帰するような動きがあってはならないとしたら、今回の判決は重要な起点になるだろう。

インターネットはグローバルにコンテンツを流通させる一方で、それらを保護する著作権法の運用が国や地域によって異なる問題があり、海外での違法サイト抑制がすぐに始まることにはならないだろう。ただ、利用する人がいなければそうしたサイトも利益を得られないとしたら、今後は利用者の側にも心構えが求められることになる。ACCSが「海賊版サイトにアクセスしない」「海賊版サイトを利用しない」ことを求めているのも、それが理由だ。

読者の対価がクリエイターを育て、新しい作品を生み出す力になってそして、成果としての作品をもたらしてくれるサイクルを理解して、コンテンツに向き合う姿勢が大切なことを改めて自覚させられる判決だったと言えそうだ。

●一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会のリリースより
「漫画村」に関する損害賠償請求事件の判決言渡について

【原告3社の共同コメント】
当時最大規模であり海賊版サイトの象徴でもあった「漫画村」に関し、刑事処罰を求めるのみならず、民事上生じた責任を追及することは、著者が安心して創作できる環境を整え、心血を注いで生み出された作品を預かる出版社の責務であることから、原告3社が共同して提訴いたしました。
「漫画村」により出版コンテンツに生じた甚大な損害は今なお深く、その全てを回復することはできませんが、本判決において原告3社の主張が認められ、原告3社の17作品に限ってもその損害額が17億円強と判示されたことは妥当なものと考えております。
原告3社は海賊版サイトを通じた権利侵害に対する大きな抑止につなげるべく提訴いたしましたが、本訴訟は改めて海賊版サイトの問題を広く訴える契機になりました。出版社は、国内のみならず、未だに深刻な被害が生じている国外においても同様の権利行使を行うなどして、作品を守り抜くため、今後も侵害に対してあらゆる手段による対策を講じてまいります。

【ACCSコメント】
海賊版サイトの運営に対して民事上の責任が生じることが示されたことは、同種事犯防止の観点から当然の判決であると考えます。権利者は海賊版サイトを通じて対価を全く得ることはできません。適正なサイトやアプリを通じて楽しんでいただくことが何より重要
であり、改めて「海賊版サイトにアクセスしない」「海賊版サイトを利用しない」よう強く呼びかけます。
今後も、会員による権利行使の支援や著作権普及を通じ、侵害抑制につながる活動を推進してまいります。

■損害賠償請求における17作品

【出版社】
(株)KADOKAWA
【作品】
オーバーロード
ケロロ軍曹
賢者の孫
盾の勇者の成り上がり
トリニティセブン 7人の魔書使い
ヒナまつり
僕だけがいない街
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~

【出版社】
(株)集英社
【作品】
キングダム
ONE PIECE

【出版社】
(株)小学館
【作品】
黄金のラフ
カノジョは嘘を愛しすぎてる
からくりサーカス
ケンガンアシュラ
黄昏流星群
ドロヘドロ
YАWARА!

■判決言渡に至る経緯(参考)
2016年2月 漫画村開設
2018年3月 漫画村最盛期
2019年9月 漫画村運営者の逮捕
2021年6月 漫画村運営者の有罪判決
(懲役3年 罰金1,000万円、追徴金6,257万1,336円)
2022年7月 漫画村運営者に対する訴訟提起
2024年4月 本訴訟の判決言渡

(文=タニグチリウイチ)

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