老後の希望を失いました…年金月27万円のはずが、64歳夫の急逝で〈遺族年金〉を足しても収入激減。遺された妻の絶望【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

配偶者を亡くした場合、精神的な負担はもちろんのこと、金銭的な負担も重くのしかかってきます。専業主婦のAさんは、ある日突然最愛の夫Bさんを亡くして憔悴。さらに、夫が亡くなったことで収入も減り「老後破産危機」に陥ってしまったのでした……。そんなAさんの事例をもとに、「遺族年金」のしくみと元気なうちに実践しておきたい対策について、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。

最愛の夫を亡くした妻Aさんの「絶望」

専業主婦のAさん(65歳)には、1つ年下の夫Bさんがいました。Bさんは大手製薬会社の部長として60歳まで働き、定年退職後は趣味を楽しみながら夫婦で穏やかに過ごしていたそうです。

そんなある日のこと。畑仕事をしていたBさんが倒れ、急性心筋梗塞により64歳で急死してしまったのです。突然最愛の夫を亡くし、Aさんは深い悲しみに襲われました。

夫の死後、収入は約10万円減…“とにかく節約”メイクも楽しめず、自暴自棄に

夫が生きていれば、夫婦で月27万円の年金受給見込みだったAさん。内訳は、下記のとおりです。

・夫Bさん……基礎年金6万円+厚生年金15万円=約21万円

・妻Aさん……基礎年金6万円

■合計……約27万円

2人の生活費は月26万円程度(保険料などを含む)でしたので、夫が生きていれば年金でやりくりができる予定でした。

しかし、夫が亡くなったいま、Aさんの収入源は遺族年金とAさん自身の老齢基礎年金のみになります。

・遺族厚生年金……約11万円

・Aさんの年金……約6万円

■合計……約17万円

夫が生きていれば、夫婦で月27万円の年金生活でした。しかし、夫が亡くなったことで、10万円も少ない月17万円で生活を強いられることとなりました。

夫の死後、生活費(支出)は4万円ほど減り22万円となりましたが、このままでは月5万円の赤字です。年間になおすと60万円を貯蓄から取り崩していくことになります。

夫のBさんが60歳(Aさんは61歳)の時点では、退職金を含めて3,000万円ほどあった貯蓄も、定年退職後の無収入の期間に取り崩して生活していたため、いまでは1,200万円程度に。このままでは20年後、Aさんが85歳になるころに貯蓄が底を尽いてしまいます。

年金の受取額が月額10万円減ったことにより、Aさんは以前のような生活ができなくなってしまいました。

好きだった外食は回数を減らし、日々の買い物も類似品であれば安いほうを購入。化粧品については「贅沢品」と考えて購入を控えた結果、すっぴんで出かけることが億劫になり、外出する機会自体が減っていったのです。

家計のことは夫に任せていたため、どうすればいいのかわからず「とにかく節約」と日々を悶々と過ごしていたAさん。そんなある日、好きでいつも見ていたYouTube番組で「家計相談のできるFP」として筆者が紹介されているのを目にしたAさんは、話を聞いてもらおうと早速筆者のもとへ相談に訪れたのでした。

知っておきたい「遺族年金」のキホン

Aさんは開口一番、「夫を失ったいま、このままでは楽しみもなく、お金の余裕もありません。老後の希望を失いました」と筆者に助けを求めます。

遺族年金の仕組みもよくわかっていないというAさんに、筆者はまず、遺族年金について下記のように説明を行いました。

1.遺族基礎年金の受給額と受給対象者

遺族基礎年金の受給額は、67歳以下(昭和31年4月2日以後生まれ)の場合79万5,000円となり、もし子どもがいればその分加算されます。1人目と2人目の子の加算額は22万8,700円、3人目以降は各7万6,200円です。

ただし、遺族基礎年金を受給できるのは、18歳(障害等級1・2級の場合は20歳)になる年度までの子どもがいる配偶者(または子ども)です。そのため、18歳未満の子がいない配偶者は受け取ることができません。

2.遺族厚生年金の受給要件

次の1から5のいずれかの要件を満たしている場合、遺族に遺族厚生年金が支給されます。

1.厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき

2.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき

3.1級・2級の障害厚生(共済)年金の受給者が死亡したとき

4.老齢厚生年金の受給権者が死亡したとき

5.老齢厚生年金の受給資格者が死亡したとき

3.遺族厚生年金の受給対象者

遺族厚生年金は、死亡した方に生計を維持されていた下記の遺族のうち、もっとも優先順位の高い人が受け取ることができます。なお、遺族厚生年金は遺族基礎年金とあわせて受給できます。

1.子のいる配偶者

2.子(18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態の人。)

3.子のいない配偶者

4.父母

5.孫(18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態の人。)

6.祖父母

遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の3/4です。

なお、上記受給要件の1、2および3にもとづく遺族厚生年金の場合、報酬比例部分の計算において、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算を行います。

また、65歳以上で老齢厚生(退職共済)年金を受け取る権利がある人が、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の3/4」と「死亡した人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の1/2+自身の老齢厚生(退職共済)年金の1/2」を比較し、どちらか高いほうが遺族厚生年金額となります。

Aさんは当てはまる?…遺族厚生年金の「加算制度」

Aさんのように、遺族厚生年金の受給者が配偶者である場合、条件によって下記のような加算制度が設けられています。

①「中高齢寡婦加算」

次のいずれかに該当する場合、妻が受ける遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、59万6,300円(年額)が加算されます。これを「中高齢寡婦加算」といいます。

1.夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻。

2.遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のいる妻が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき。

妻が65歳になると自分の老齢基礎年金が受給できるようになるため、この加算は終了します。Aさんの場合すでに65歳のため、この中高齢寡婦加算の適用対象とはなりません。

②「経過的寡婦加算」

残された妻が昭和31年4月1日以前に生まれた場合、65歳以降に加算されます。ただし昭和31年4月2日以降に生まれた妻には、この加算はありません。

Aさんはこの経過的寡婦加算の対象ともならず、遺族厚生年金のみの受給となります。

では、Aさんには資産を増やす方法はないのでしょうか。

FPが提案したAさんの「救済策」3つ

①支出を減らす

夫が高収入だったこともあり、化粧品や趣味には我慢することなくお金を使ってきたAさん。定年後もBさんが亡くなるまでは貯蓄に余裕があったことから、その生活スタイルは変えずにいました。

先述のAさんのように、決して化粧品を「まったく買わない」とする必要はありませんが、費用対効果のいい化粧品に変えたり、趣味の内容を見直したりすることは必要かもしれません。

また、支出のなかでも大きな割合を占める住宅費についても見直す必要があるでしょう。これまでAさんはファミリータイプのマンションに住んでいましたが、子どもたちもすでに自立し、今後は1人での生活となります。

そこで、単身者向けのマンションに引っ越すことで家賃を抑えることが可能です。

②収入を得る

これまで長いあいだ、専業主婦として生活してきたAさん。65歳のいまから新たに仕事を始めるにはハードルが高いかもしれません。

そこで、家にある不要品をすぐに捨てるのではなく、『メルカリ』などのフリーマーケットサイトを利用して売却してみることを提案しました。自分にとっては不要なものでも、他人にとっては価値があるものもあります。商品の撮影や梱包・発送など手間はかかりますが、チャレンジする価値はあるでしょう。

③貯蓄を投資する

貯金の1,200万円を口座においたままではお金は増えません。そのため、「寝ているお金を投資に回す」という選択肢もあります。

ただし、これまで投資経験がまったくないAさんがいきなり株式やFXをしてもリスクが高く、あまり現実的ではありません。そこで、投資初心者でも安心してチャレンジできるものから始めるといいでしょう。

たとえば、元本保証のある「債券」やこの管理をお任せできて定期的に分配金がもらえる「不動産小口化商品」などがあります。会社や商品によってリターンにばらつきはありますが、おおよそ年1~6%程度の利益が見込めます。

さらに債券や不動産小口化商品には基本的に価格変動がなく、安心して保有することが可能です。仮に1,000万円を年利5%の商品に投資すれば年間で50万円、月4万円ほどの資産収入が得られます。

ただし当然、投資にはリスクがつきものです。購入前にはしっかりと説明を受け、契約内容を確認しましょう。

収支改善で月々10万円の余裕…暮らしに前向きになったAさん

Aさんは後日、まずは筆者の提案のうち①と②を早速実践し、収支改善を行いました。

単身者向けマンションに引っ越したことで家賃を5万円ほど抑えることができ、フリマサイトにも登録。最初こそ手続きに手間取りましたが、引っ越しのタイミングで不要になった食器や夫のゴルフクラブ、カメラなどを写真におさめ出品したところ、しばらくしないうちに売却できました。

予想以上に高値で取り引きされたことで、売却したお金で引越し代金を賄うことができました。その後も、不要になった物は売却することでお小遣いを得られているそうです。

結果的に、月々10万円程度の余裕が生まれました。当面のあいだ、Aさんは生活費の心配をすることなく、メイクや買い物を以前のように楽しむことができそうです。

困ってしまう前に…あらかじめとれる「老後対策」3つ

今回の事例では、夫が急死したことにより、のこされた妻の生活が危ぶまれました。

想定外のことが起こってからではできる対策に限りがあるため、可能であれば現役時代のうちに盤石な準備をしておきたいものです。Aさんの場合、下記の3点を考慮できていれば、さらにゆとりのある生活ができた可能性があります。

①老後も生命保険に加入しておく

子どもたちのための学資保険や医療保険に加入することも大切ですが、夫が定年後に急死した場合、Aさんのように受け取れる年金が減ってしまうことがあります。そのため、万が一のことが起きてもお金に困らないよう、死亡保険には加入しておきましょう。

②持ち家を購入しておく

賃貸物件に住んでいる場合、生きているあいだは家賃を払い続ける必要があります。幸いAさんは夫が亡くなったあと、1人住まい用の次の賃貸住宅が見つかりましたが、高齢になると賃貸住宅を新規で借りにくいというリスクがあります。

そこで、現役時代のうちに金利の低い住宅ローンを利用して自宅を購入し、老後には住宅費の負担を減らせるようにしておくこともひとつの手です。

持ち家であればいざというときに売却したり、リバースモーゲージを利用して資金を得ることも可能です。将来のことを見据えて選択肢を増やしておきましょう。

③資産運用について早めに知っておく

低金利の現在、お金をただ銀行に預けているだけではほとんど増えません。また、退職金や年金だけではゆとりのある老後を過ごすことも困難になっています。

したがって、できるだけ早くから情報収集を行い、少額からでも資産運用を実践してみることをおすすめします。いろいろな方法を経験しておくことで自分に合ったやり方を知ることができるほか、労働のかたわらお金にも働いてもらうことで、豊かな老後を実現しやすくなります。

未来になにが起こるかは誰にもわかりませんが、想定されることについては可能な範囲で対策をしておくことが重要です。

まずは気軽に情報収集から始め、自分1人で悩んでいても解決策がわからない場合には身近な人や専門家に相談してみるとよいでしょう。

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役

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