蓮池薫氏・櫻井よしこ氏と考える拉致問題解決への道筋…北朝鮮のシグナルの背景を読む

北朝鮮による拉致被害者家族の高齢化が進む中、北朝鮮に対し拉致問題解決に向けたプレッシャーをどのようにかけるべきか。アメリカとの関係、日本政府の動きはどうあるべきか。「BSフジLIVEプライムニュース」では北朝鮮に拉致され、その後帰国した蓮池薫氏を迎え、櫻井よしこ氏・礒﨑敦仁氏とともに議論した。

横田早紀江さんと有本明弘さんが娘に会わなければ「解決」ではない

長野美郷キャスター:
2004年以降、日本は北朝鮮から拉致被害者とその家族を戻せていない。蓮池さんは特に2023年ごろから積極的に発信をされているが、心境の変化などは。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
特別変化はないが、親の世代の方々が次々に他界され、まだ帰国されない被害者の親御さんは横田早紀江さん、有本明弘さんの2人になってしまった。2021年に家族会で「期限」という言葉が出て、お2人と娘さんたちが会わなければ解決ではない、これで押していかないと動かせないと思った。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
2022年10月に岸田総理が「時間的制約」と言っている。2023年5月の「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」では総理大臣として初めて明確に、時間の制約のある人道問題だから直接自分の下にチームを作ると述べた。それに対し北朝鮮から反応が出てきた。時間の制限については、被害者・家族会の皆さんも政府も同じ思いだと感じる。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
岸田総理は、今の状態では日朝関係の改善は困難と言っている。北朝鮮は日本との国交正常化によって経済協力を得ることを必ず組み込んでいるはずで、期限が守れない場合にどうなるか危機感を覚えているのでは。

礒﨑敦仁 慶應義塾大学教授:
すぐ効くものでなくても日本としては当然発信すべき内容。櫻井さんがおっしゃったように、岸田総理の発言の2日後に金正恩(キム・ジョンウン)政権では初めて外務次官レベルが日本に対して融和的な談話を送ってきた。総理の真意を探っている。

反町理キャスター:
蓮池さんは今日、平壌が見ているという気持ちで来られているか。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
もちろん。私が言うことは北朝鮮にとってかなり重みがあると思う。北に伝えることは私の活動の中で最も重要な部分。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
北朝鮮は、拉致された人たちは皆死んでいると言っているが、生存していることについて私達はそれなりの情報を持っている。だが日本国内でももう死んでいると言う人たちがおり、出版物も出ていることに対して、私は非常に憤り心配している。それもご出演の背景にあるか。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
はい、もちろん。我々が帰国した段階では全員生存していたが、北の都合で死亡としなければならず、無理やりストーリーを作り上げた。これは断定的に言える。北の「解決済み」を絶対に受け入れられないと伝える意味もあり、今日出てきた。

拉致問題と経済支援を「人道問題」パッケージに

長野美郷キャスター:
2024年に入って北朝鮮から日本へのシグナルが発信されているようにも見える。1月5日、金正恩総書記から岸田総理に宛てて能登半島地震の見舞いの電報が送られた。北朝鮮が友好国以外に電報を送るのは非常に珍しく、岸田総理に対して閣下という敬称を用いたことも注目された。2月と3月には金総書記の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が談話を出し岸田総理の訪朝に言及。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
以前と違い賠償や経済協力という言葉がない。代わりに「正当防衛圏」の話など核保有国としての自分たちに口出しするなという内容が目立つ。日本に譲歩する動きがあるかを確認している。ハノイの米朝首脳会談のとき、日本はアメリカに核問題における譲歩はしないでくれと言ったが…。

反町理キャスター:
安倍さんがトランプ大統領に。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
それを踏まえ、先を見た狙いがある気がする。日本の経済援助を諦めたわけではない。北朝鮮も日本の立場は百も承知の上で、拉致問題は論議しない、核問題も口出しするなとわざわざ国のトップとナンバー2が言ってきており、次の段階への布石と見える。次に米朝関係が動くときが日本の正念場だと考える。

礒﨑敦仁 慶應義塾大学教授:
北朝鮮は「もしトラ」を相当意識していると思う。トランプ政権期には金正恩氏と3回の米朝首脳会談があったが、ブレーキをかけたのは日本の安倍政権。最低限、日本から邪魔されない関係を作っておこうという考えや、短期的には日米韓が安全保障上で協力を深めていることに楔を打ちたい思いもあると思う。そもそも金与正氏が日本にメッセージを投げたのは初めて。北朝鮮は岸田総理の真意を知りたい。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
岸田総理は拉致問題について「人道問題」と言った。人道問題としてまず拉致被害者を返せば、経済協力、つまり人道支援として北側に施すことになる。お互い人道で、という次のステップへの意図が明らかに読める。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
私達がいつも意識しておかなければいけないのは、北朝鮮の一番の重要事は金ファミリーの存続だということ。それにはお金も要る。そして日本しかお金を出す国はない。北朝鮮は日本を通してアメリカを見ているが「我々を無視したらどうなるかわかっているのか」というメッセージを毅然として伝えなければいけない。日本国は、拉致被害者を一括して取り戻すことなしには未来永劫独立国たりえない。私達はその瀬戸際にいる。北朝鮮に騙されず、揺るがないこと。

暫定措置の失敗を繰り返さないためには日米韓の意思疎通が不可欠

長野美郷キャスター:
北朝鮮の非核化を求める交渉が難航する中、米NSC(国家安全保障会議)のラップフーパー上級部長が「非核化への道における暫定措置を検討する」と発言。

礒﨑敦仁 慶應義塾大学教授:
トランプ政権もその考え方をしていた。北朝鮮の核を一瞬にしてなくすのは技術的にも不可能で、実際は暫定的な措置を積み上げていくことになる。それがバイデン政権からもかなり明確に発信されるようになった。

反町理キャスター:
こういう暫定措置、段階的な対応にアメリカが舵を切っていることは、北朝鮮にとって外交的な勝利なのでは。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
核の能力を高めて強いカードにした上で中間措置の方向に持っていくのが北の基本戦略。アメリカの方から言われるのは願ったり叶ったり。そこで経済制裁をある程度骨抜きにすれば自分たちのやりたい放題にできる。1994年の枠組み合意も2005年の六者協議も暫定でやって失敗している。それを繰り返さないため、日米韓が意思疎通し方向性を決めること。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
日本だけの力ではある意味どうしようもない。アメリカが全ての核保有国に対して睨みをきかせることができなくなった時代に私達は生きており、そこでどうやって日本を守るかという発想が必要。我々もそこを補完すること。だから岸田さんはアメリカでグローバルパートナーシップと言った。暫定措置についても日米韓で協議をすることは大事だが、一番重要な軸の国であるアメリカが今の姿勢ではダメ。

長野美郷キャスター:
拉致問題の解決にアメリカの協力や支援は重要かどうか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
国際社会は一国で全ての問題を解ける時代ではなくなった。そして今の自衛隊は、残念ながら正式な軍隊ではない。日本国の国家としての脆弱性を考えるとき、アメリカの協力なしでどうやれるのか。もちろんアメリカもどの国も自国の国益が最優先。アメリカに頼るのではなく、助言や助力が欠かせないと私は思う。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
日本がやることをアメリカに支持してもらうこと。例えば拉致問題解決のために努力する上で人道支援を行うときに賛成してくれるという支援。アメリカがやってくれることに期待し寄りかかるようなことはダメ。

礒﨑敦仁 慶應義塾大学教授:
日本の立場への理解をアメリカに示してもらうのは最低限必要なことで、それは今まで20年間かけて十分やってきた。これからは日本がきちんと動くこと。日本人を取り戻すのは日本政府しかない。だが2024年に入ってから北朝鮮が発信している談話を見ると、水面下交渉には至っているようには到底見えない。本当に拉致問題最優先でやってきたのかという疑問は感じざるを得ない。

長野美郷キャスター:
岸田政権は拉致問題解決に向けて何をすべきか。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
北の言う死亡説を崩す最も強力な手段は、現在の拉致被害者の生存情報。これを得ることはいろんな手立てにつながる。韓国との協力を含め情報収集を強化してほしい。

反町理キャスター:
どうなれば「拉致問題は解決した」となるか。

蓮池薫 新潟産業大学特任教授:
日本で拉致被害者としてまだ認定されてない方々がいる。その対処が必要。認定拉致被害者と特定失踪者については、全てを救うという原則は同じだが、アプローチには差が出てもしょうがないかなと。確証がある方々はどんどん認定し、まだ認定できていない方々については、関係が一定改善したときに協力を得て行方不明者として救出してもらうなど。万が一の万が一として亡くなっているなら、ご家族が納得できる真相解明を北朝鮮がすること。

礒﨑敦仁 慶應義塾大学教授:
「決着」には何らかの政治的な定義が必要。いざ首脳会談で拉致問題だけ解決しようとしても、核・ミサイル問題でも要求しようという世論になる。総理自身が調整し国民を説得する努力が要る。

「BSフジLIVEプライムニュース」4月18日放送

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