「TN87、MP29、690MB、Z925、P730…」エポックメークなマッスルの“歴史探訪”

タイガ・ウッズのデビュー当時はMP14とMP29のマッスルコンボだった(PHOTO/Getty Images)

「マスターズ」に出場した名手たちのクラブセッティングをのぞき見ると、「やっぱりアイアンはマッスルバックだよね」と感じるギア好きの皆さん、集合です。今回はいまや中古でないと手に入らないマッスルバックモデルの歴史を紐解いた。

アイアンの溝規制にさらに4年の猶予が

歴史的名器を、どうせなら堂々と使いたい――。そんな方に朗報がある。ゴルフルールをつかさどるR&Aは1月、クラブの溝に関する規制の発効期日を延期した。今後の方針が決まり次第、4年の猶予期間を経てすべてのゴルファーに適用されるとのこと。溝規制の適合、不適合を問わず、2010年以前に作られたクラブも全て対象となるという。つまり、同年以前に作られたマッスルバックの名器たちも、最低でも今後4年は安心して使えるわけだ。

ゴルフ歴35年の筆者がマッスルバックの歴史を語ると、ジャック・ニクラスが使った「マグレガー」、ベルンハルト・ランガー(ドイツ)の「ウィルソン」、グレッグ・ノーマン(オーストラリア)の「スポルディング」の御三家にはじまり、話がどうにも止まりそうもない。だから今回は「まだまだ使えるマッスルバック」をキーワードにする。

“ON”が使った名器はいまいくら?

尾崎3兄弟が使用したブリヂストンの「ジャンボMTN3プロアイアン」(1986年)と、中嶋常幸が使ったミズノ「TN87」(1988年)がまず頭に浮かぶ。TN87は2015年に復刻版が販売されており、こちらは稀に中古ショップで見かけるが15万円以上の価格が付いている。同時期に国内ツアーで絶大な人気を誇ったのは、本間ゴルフのマッスルバック。「PP737」、「PP727」、「PP717」はどれもゴルファー憧れの逸品だった。

ハーフキャビティやキャビティアイアンがツアーで主流になり始めた2000年代以降も、一部メーカーはマッスルバックを作り続けて世界的な評価を得た。2003年に発売されたミズノの「MP33」、タイトリストの「690MB」(2002年)や「670MB」(2005年)、「680MB」(2005年)等が代表作。とはいえ、TN87の復刻版以外は、中古ショップではなかなか見つからず、ネットオークションやフリマサイトで出合えるか、といったところ。状態によって価格が驚くほど違う。

タイガー・ウッズ使用のマッスルを探す

テーラー契約選手はP7TWを使う選手は多い(写真は岩崎亜久竜のアイアン)

プロ入り直後にタイトリストと契約する前のタイガー・ウッズは、ミズノの「MP-29」(2I~4I)、「MP-14」(5I~PW)を使用していた。MP-29はTN87の海外モデル。こちらは2つのモデルを組み合わせている上に、どちらもかなりレアだ。ウッズのアイアンはプロトタイプばかりで市販されているものが限られる。「タイガープロト」と呼ばれるモデルは、数量限定ながらオークション、フリマサイトでなら発掘できるかもしれない。

ナイキとの契約後は「VRフォージドTWブレード」が市販された。6本セットで5万円前後が中古価格相場。2017年にテーラーメイドと契約してからは「P7TW」(2019年)を今でも使用しており、15万~20万円前後で手に入る。

マッスルバックのブーム再来?

近年、マッスルバックの新製品が市場に登場する頻度が増えた。例えばテーラーメイドは2013年に「ツアープリファードMB」を発売以来、2017年の「P730」までマッスルバックが登場しなかったが、P7TW(2019年)以降、「P7MB 2020年」、「同 2023年モデル」を立て続けにリリース。個人的なオススメはダスティン・ジョンソンやロリー・マキロイ(北アイルランド)のプロトタイプの原型になったP730だ。かなりレアだが、10万円ぐらい出せば6本セットをゲットできるかもしれない。

松山英樹のZフォージドIIアイアン

住友ゴム(ダンロップ)も1993年を最後に発売していなかったマッスルバックを、松山英樹と契約を交わす前年の2012年に復活させた(「スリクソンZ925」)。松山は「Z945」(2014年)、「Z965」(2016年)、マスターズ勝利に貢献した「Zフォージド」(2019年)、そして今のエース「ZフォージドII」(2023年)を使用。2019年モデルはヘッドサイズが大きめで、やさしさがある。6本セットで約7万円が相場だ。

昔のマッスルバックと最新モデル、何が違う?

最近のマッスルバックは7番アイアンのロフト角が33、34度のものがほとんど。一方で往年のモデルは35、36度で飛距離性能が落ちる。また、装着シャフトが重量級ばかりだ。その点で、最新アイアンはシャフトの選択肢が多く、フェースに高精度の表面処理が施されており、スピン性能も番手ごとに最適化されている点も見逃せない。

実際のところ、マッスルバックは中古ショップの店頭ではなかなか見つけにくい。新品時の販売数が限られているからだ。製品ターゲットである上級者は、長く使うことで自分の距離感を育てるため、なかなか買い替えないことも影響しているだろう。

コリン・モリカワのP730。中古市場でも人気

最新のマッスルは、数が少なく、中古でも価格が高く維持されており、気軽に買い替えるのは難しい。ただし、希少性があまりない過去のモデルだと3万円も出せば手に入るはず。“ずっと好きだった”マッスルを手に入れて、コースで試してみるのはいかがだろう。(文・田島基晴)

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