「涙の女王」ウンソンの人格に憑依するキム・スヒョンの演技は鳥肌ものだった 11〜12話レビュー【韓国ドラマ】

結婚生活の危機を迎えているふたりの間に、愛を取り戻す奇跡は起こるのか? 「涙の女王」は韓国tvNで2024年3月9日から放送されているドラマ。Netflixで土曜と日曜に配信中です。マチュアリストでは全16話のレビューをお届けします。11〜12話について紹介しましょう。
※ネタバレを含みます

★9〜10話はこちら★

みずから「余命わずか」と発表した記者会見場で倒れ、救急搬送されたホン・ヘイン(キム・ジウォン)。ヘインの病気を初めて知った財閥ホン一家は事の重大さに衝撃を受け、それぞれが家族の“絆”を見つめ直す11~12話。ペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)とヘインも、残された時間と競争するかのように、再び夫婦の“絆”を模索する。

病室で目覚めたヘインは、一睡もせず回復を祈っていたヒョヌに「サランヘ、初めて会ったときからずっと好きだった」「このまま死んだら気持ちが伝えられない。生きているうちに言っておく」と、夫婦だったときには決して言葉にしなかった素直な気持ちを伝える。こんな愛の告白を、まるで業務連絡みたいにあっさりとヒョヌに伝えるのが、ヘインらしい。

一方、娘の回復を知ったヘインの母。過去に水難事故で長男を亡くし、生き残ったヘインに辛く当たってきた母は、娘が病気を隠そうとした胸のうちを察し、「お母さんが悪かった」と謝る。「私みたいな娘は、私も嫌だわ」と応じたヘインの言葉は、ぶっきらぼうだけれど、母を労わる気持ちがにじんでいる。

こうして母との“絆”を取り戻したヘインと病院のベンチに座り、「絶対死なせない!」とその目から蜂蜜がこぼれ落ちそうな眼差しで見つめるヒョヌ。いまや超有名人の2人の激甘モードに、周囲の患者たちが呆気にとられているのが微笑ましい。

ヒョヌ家族とヘイン家族が一つの食卓を囲んだ退院祝いの焼き肉店。ヘイン父が慣れない手つきで肉を焼き、母が今後は健康的な献立を考えると宣言し、弟スチョル(クァク・ドンヨン)が姉のために焼き肉串を作る。両家が屈託ない笑顔で食事をしているのを見ているだけで、涙が出てくる。ヘイン家族にとって、ともに時間を過ごした相手がヒョヌ家族でよかった。家族の幸せな“絆“は、お金や権力では手に入れられないものなのだ。

ヘイン家族にとって、ともに時間を過ごした相手がヒョヌ家族でよかった

だが、クイーンズグループの経営権をめぐるヒョヌとユン・ウンソン(パク・ソンフン)の争いは激しさを増す一方だ。ヘインの爆弾発言会見が経営悪化を招き、元会長の隠し財産を探し出す必要に迫られたからだ。

捜索に出かけた帰り道、ヒョヌが目を離した隙に眩暈を起こしたヘインは、突然現れたウンソンをヒョヌと見誤り、ウンソンが運転する車に乗ってしまう。11話ラストで、ウンソンの人格に憑依するキム・スヒョンの演技は鳥肌ものだ。「ヘイン」と呼ぶ声も、顔の表情も、身のこなしもウンソンそのものだから。

一方、ヘインの乗った車を必死で追いかけ、「ヘイナ‼」と絞り出したヒョヌの声には、何があっても君を守る、という意思が詰まっている。そして「大丈夫?」という包み込むような声一つで、自分がヒョヌであることを気づかせる。キム・スヒョン演じるヒョヌなら、どんな奇跡も起こせそうな気がしてくる。

子や孫たちを救うために、祖父の選択は……

深夜、離婚後にヒョヌが一人暮らしをする部屋に戻った2人。ドアの暗証番号は“1031”。それは、生まれてくるはずだった子どもの出産予定日だった。それを知ったヘインの何とも言えない顔。2人の心にかかっていたロックも解除される音が聞こえるようだ。数字だけで2人の思いを表現する演出が秀逸だ。

だが、ヘインは病状の進行を自覚していた。ヒョヌに「次の段階になったときにあなたといたくない」「今は十分幸せだから、更に悪くなったら私から離れて」と懇願していたのだ。

翌日、龍頭里に戻る途中、美しい夕景の中で告白すると叶うという場所に車を停めたヒョヌは「復縁は負担だろうから、離婚を取り消すのはどう?」と指輪を渡す。だが、ヘインは「あなたは本物のヒョヌかしら? これが現実なの」と提案を拒み、車に駆け込む。涙を見せたくないヒョヌが背を向けた瞬間、ヘインも車の中で号泣する。こんなに泣くヘインを初めて見た。

愛しているからそばにいたいヒョヌ、愛しているからそばを離れなくてはと考えるヘイン。お互いの気持ちがわかっている分だけ、置かれている現実は残酷だ。

そして、2人が戻った龍頭里では、2つの“絆”が紡がれた。

1つは、ヘインの叔母ボムジュン(チョン・ジミョン)とヒョヌ父の友人ヨンソン(キム・ヨンミン/『愛の不時着』の耳野郎役)の出会い。愛人の言いなりになる父に「葬儀には出る」と捨て台詞を投げつけて訣別した後悔を語るボムジュンに、認知症の母を介護しながら質素に暮らすヨンソンは「幸せそうな人のポケットにも重い石が入っている。だから羨んだり、自分を責めたりしないで」と諭す。ヨンソンはまるで哲学者だ。

もう1つは、財閥乗っ取り騒動の渦中、大金と美術品を持って忽然と姿を消した妻ダヘ(イ・ジュビン)とスチョルの再会。ただ黙って妻を抱き締め、わが子ゴヌにやさしく触れるスチョルの愛情の深さが、この1カットで伝わってくる。しかも、ゴヌ役の子どものかわいすぎる名演技には驚かされる。

一致団結したヒョヌ組、仲間割れしそうなウンソン組。それぞれが血眼になって隠し財産を探す中、張本人のクイーンズ財閥元会長でヘインの祖父ホン・マンデ(キム・ガプス)は、意識不明から回復し始める。そして、愛人モ・スリ(イ・ミスク)が息子ウンソンに財閥を支配させるべく、自分を失墜させる画策をしたことにようやく気づく。

悪女モ・スリを法定後見人の座から引きずり下ろすには……。自分の過ちのせいで苦境に立たされている子や孫たちを救うには……。祖父の選択は、階段の上から自分が乗った車椅子を落とすことだった。家長として君臨し、家族の“絆”よりも、財閥家の格式やプライドを優先した罪を、自分の命をもって償おうとしたのだとしたら悲しすぎるし、隠し財産は行方不明のままだ。

いよいよ残り4話。海で溺れたヘインを助け、校庭で転んだヘインの膝に絆創膏を貼り、不具合なコピー機に当たるヘインを手助けし、急な雨に傘を貸し……。ヘインが困っているとヒョヌがあらわれ、そのたびに惹かれ合う。だから、ヘインがどれだけ「私から離れて」と望んでも、必ずヒョヌはヘインを助ける運命だ、と信じて、奇跡を待つ。

Netflixシリーズ「涙の女王」独占配信中


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