【コラム・天風録】空を旅する乗り物

 終点の駅まで急な勾配をゴンドラ車両が上っていく。眼下に広がる住宅団地や遠くの山並みを見ながら「空の旅」を楽しんだ。広島市安芸区のJR瀬野駅と団地を結ぶスカイレール。今月末で26年の歴史に幕を下ろすと聞き、訪れた▲週末や祝日は名残を惜しむ人で、ごった返すそうだ。平日の午前中でもカメラを向ける人がちらほら。乗車体験を紹介する動画がネット上にあふれるほど、注目されている。中には、80万回以上も見られたものがある▲機能とデザインはモノレールとロープウエーのいいとこ取り。開業時は最先端の技術だったが、後追いする団地は、ついに現れなかった。結局、世界中でここにしかない乗り物を生んだ▲肝心の利用者は当初計画の4分の1にとどまり、赤字が毎年続いていた。廃止は、もったいないと思える。代替の電気自動車バスが走り始め、団地内のあちこちに停留所ができた。便利になったとの声も聞こえてくる▲これから生まれてくる技術は、どんな新しい景色を見せてくれるのだろうか。空飛ぶ車であれ、ドローンであれ、思いのまま上空から団地の家々や街並みを眺める。そんなひとときの旅を楽しめる乗り物が待ち遠しい。

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