定年退職後、〈キラキラしている同世代〉がまぶしすぎて落ち込む…「無趣味」な自分を責めてしまう人に伝えたいこと【心理学博士の助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職後、友達や知り合いが趣味に打ち込んでいると、無趣味の自分の生活を「つまらない」と感じることもあります。そこで本稿では、MP人間科学研究所で代表を務める心理学博士の榎本博明氏による著書『60歳からめきめき元気になる人「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、無趣味を前向きに過ごす方法について解説します。

趣味のない人間になったのは、頑張ってきた証拠

そう言われても、昔からやりたいことなんかなかったし、今とくにやりたいことも思いつかないという人もいるだろう。

そこで気持ちが萎縮し、自己嫌悪に陥る人もいる。「なんてつまらない人間なんだ。なんてつまらない人生なんだ」と。自分が無趣味な人間だと気づいて、何だか虚しくなったという人もいる。

人から「趣味は何ですか?」と尋ねられ、言葉に詰まってしまい、これはまずいと思い、趣味を探し始めたという人もいるが、つまらない人間だと思われないように、偽の趣味を想定して答えるようにしているという人もいる。これを趣味偽装というそうだ。

あまりに変わった趣味を偽装して、興味をもたれてしまうと、質問されても実際はやっていないので答えに窮してしまうが、ありふれた無難な趣味を想定すれば、それ以上突っ込まれるリスクもない。ほんとうは趣味はあるのだが、あまりに変わっているので人に言いたくないため、趣味偽装をしているという人もいるようだ。

いずれにしても、趣味がないからといって、「つまらない人生だ」などと全否定することはない。趣味がないのは仕事一途に頑張ってきた証拠とも言える。

ここでようやく仕事一途の生活から解放されたのだから、はじめのうちは戸惑いも大きいかもしれないが、焦らずゆっくりと、やりたいこと、お気に入りの過ごし方を模索していけばいい。

なかなか見つからず迷うのは、それだけ一生懸命に働いてきたからなのだということを念頭に置いて、ここでじっくり迷うことができるのは贅沢なご褒美なのだと思えばいい。

仕事以外にどうしてもやりたいことが見つからないという人もいるはずだ。その場合は、やりたいことと仕事がたまたま一致していたわけで、やりたいことをして稼いでこられたのだから、虚しいどころか充実した仕事人生だったと言ってよいだろう。

趣味探しに躍起になる人たち

そのように自分を納得させようと思っても、やっぱり趣味もない人生なんて淋しいという人もいる。周囲の友だちはどうしているのかと尋ねてみると、多くの人は何らかの趣味に手を染めている。

若い頃に楽器演奏をしていた人は、同好者を見つけてオヤジバンドをしている。現役時代からゴルフをしていた人は、暇になったんだからとゴルフ三昧の生活を楽しんでいる。学生時代にテニスをしていたという人は、体力維持も兼ねてテニス教室に通って、定期的にテニスをしている。

現役の頃から美術館めぐりが趣味だったという人は、時間ができたので自分でも描いてみたいと思い、絵画教室に通っている。

そういう人たちと比べて、自分にはとくに趣味がなく、無性に虚しくなってきたという人もいる。だが、そのような人はけっして少数派ではないはずだ。むしろオヤジバンドやゴルフ三昧生活を楽しんだり、テニス教室や絵画教室に通ったりしている人の方が、圧倒的に少ないのではないか。

でも、せっかく仕事生活から解放されたのだから、何か趣味を見つけて楽しみたい、打ち込める趣味があればもっと心豊かな人生になるのではないか、と思うのももっともである。

本来、趣味というのは、無理に探すものではなく、やらずにはいられないもののはずである。無理にやろうとすることなど趣味とは言えない。しかし、仕事一筋の生活の中で、仕事以外のことで自発的に動くことがなくなり、やりたいことが思い浮かばないというのも、よくあることである。

そこで、趣味探しを多少頑張ってみるのも、まあ悪くない。そんな人たちのための趣味の教室や通信講座を探してみても、音楽、園芸、絵画、囲碁、俳句・短歌、歴史、文学など、いくらでもある。

とくに音楽や絵画、園芸には興味がないし、囲碁・将棋を始めようとも思わないという人でも、仕事上の調べ物をするのが好きだったという人なら、歴史とか文学とかの調べ物には結構はまるかもしれない。

自己実現というのは、これまで開発されていない自分の能力も刺激して、全面的に生きることを指す。職業生活で論理能力がとくに磨かれたという人の場合、感覚面や感情面が十分に磨かれていないことがある。

その場合は、あえて苦手な絵画や音楽に挑戦することで感覚面を刺激したり、朗読や演劇に挑戦することで感情面を刺激したりするのも、自己実現に近づくことになるかもしれない。

ただし、無理は禁物である。苦手な能力をあえて開発しようとするよりも、得意な能力を活かして新たな領域にチャレンジする方が無難である。

榎本 博明
MP人間科学研究所
代表/心理学博士

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