「年金80万円」もらえるはずが…元会社員、自分だけ62歳の3ヵ月前に年金機構から「緑色の封筒」が送られてこず、焦燥【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

62歳の3ヵ月前に年金機構から送られてくる「緑色の封筒」。非常に重要な通知です。あなたは該当者でしょうか? 本記事ではB子さんの事例とともに、知らない人も多い「特別支給の老齢厚生年金」について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

女性3人の年金事情

高校時代に仲良しだった62歳(昭和36年生まれ)の女性3人が食事会を開きました。

A子さん:60歳で定年退職した元会社員(既婚者)

B子さん:60歳で定年退職した元公務員(既婚者)

C子さん:パート勤務の離婚歴のある元専業主婦(現在独身)

久しぶりに会ったため、話題は高校時代のこと、家族や老後のこと、物価のことなど尽きません。60歳を超えたことから、それぞれの年金についても気になるようで……。

A子さん「私は62歳から月7万円くらい年金をもらえるようになって、いいお小遣いになってるわ」

B子さん「え、なにそれ? 私はもらってないわよ」

A子さん「誕生日の2~3ヵ月前に緑色の封書が来たわよ。あなたも来てるでしょ」

B子さん「見たことないけどなぁ。帰ったら探してみなくちゃ」

C子さん「私は旦那の年金が半分もらえると思って離婚したのに、もらえる金額は思ったより少なそうでがっかりだわ。離婚してからはスーパーのパート勤務をしているけど、65歳過ぎてもパートは続けないと生活できそうにないの」

それぞれの年金はどのようになっているのでしょうか?

A子さんが62歳からもらえた年金の正体

昭和36年(1961年)生まれのA子さんが62歳からもらえた年80万円の年金は、「特別支給の老齢厚生年金」の報酬比例部分になります。昭和60年の法律改正により、厚生年金保険の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられましたが、受給開始年齢を段階的に引き上げるために設けられたのが「特別支給の老齢厚生年金」の制度です。

「特別支給の老齢厚生年金」を受け取るためには以下の要件を満たしている必要があります。

・男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと。
・女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
・老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
・厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
・生年月日に応じた受給開始年齢に達していること。

なお、在職中の方は報酬によって年金額が支給停止となる場合があります。

特別支給の老齢厚生年金は、生年月日と性別に応じて受給開始年齢が異なります。これは、昭和29年(1954年)の改正で、男性の支給開始年齢のみ55歳から60歳に引き上げられましたことによります。当時の定年年齢が男性60歳、女性55歳というところから、この差がそのまま適用されているためです。

そのため、A子さんは62歳から受給できましたが、同じ昭和36年(4月2日以降)生まれの男性は、受給できない年金になります。

[図表]特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢 出所:日本年金機構HPより(一部抜粋)

通知を必死に探すも、見つかる気配はなく…

B子さんは、家に帰ってA子さんが言うような通知を必死で探しました。しかし、ない、ない……。どれだけ探しても通知は見つかりません。自分がどのくらい長生きするかはわからないため、もらえる年金は1円でも多くもらっておきたい……。そんな心情でした。

B子さんは、大学卒業後60歳まで公務員として勤務してきました。A子さんと同じ「第2号被保険者」として厚生年金に加入していたので、自分もきっと受け取れると思ったようですが、2人のあいだには一体どんな差があるのでしょうか?

B子さんに通知が来ない理由

支給開始年齢になっても年金請求書が届かない場合、日本年金機構に登録されている住所地が現住所と異なる等の理由から届いていない可能性があります。勤務先を退職したあとに結婚して住所や姓が変わってしまった人は、連絡先がわからずに通知が届かないケースが多いものです。そのような場合は、近くにある年金事務所や年金相談センターに問合わせる必要があります。

しかし、B子さんのケースでは、通知が届かない理由は住所変更ではなく、別に理由がありました。

B子さんは、たしかにA子さんと同じ第2号被保険者として厚生年金に加入していましたが、2015(平成27)年10月に年金の一元化が実施されるまでは、公務員等は厚生年金ではなく共済年金*でした。

「特別支給の老齢厚生年金」も「特別支給の退職共済年金」として制度がありました。公務員も一元化後に受給権が発生すると、厚生年金保険の被保険者同様「特別支給の老齢厚生年金」として支給されます。ただし、受給開始年齢については従来の特別支給の退職共済年金同様、男女差はありません。

[図表2]特別支給の退職共済年金の支給開始年齢 出所:国家公務員共済組合連合会HPより

そのため、B子さんのような公務員の場合、女性であっても昭和36年4月2日以降に生まれた方は特別支給の老齢厚生年金受給権がありません。通知が来ないのは当然ということです。

男性も知っておくべき!離婚時の「年金分割」

C子さんは、23歳で会社員と結婚し、48歳のときに離婚しました。C子さんは「年金が半分もらえると聞いたのに全然半分じゃなかったわ。当てが外れちゃった」といいます。

平成16年(2004年)の年金制度改革により、平成19年4月(2007年)から「離婚時の年金分割制度」が実施されました。夫婦が婚姻期間中に納付した年金保険料による年金は夫婦の共有財産とみなされますので、離婚によって年金を分割して受け取れるようにする制度が「年金分割」です。ただし、対象になるのは厚生年金部分のみで、国民年金は対象外となります。

また、分割の対象期間は原則婚姻期間に限られますが、事実婚の場合も認められる制度です。

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。

合意分割制度

離婚をし、一方または双方からの請求によって、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度です。割合は話し合いによって決定しますが、合意が得られなかった場合は家庭裁判所の審判または調停によって判断が下されます(最大50%)。

3号分割制度(平成20年4月施行)

離婚をし、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求によって、平成20年(2008年)4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。話し合いの必要はなく、自動的に50%の割合となります。

Cさんは専業主婦(第3号被保険者)でしたが、3号分割制度の場合、対象期間が短くなってしまうため、合意分割制度によって請求したそうです。

なお、年金分割の請求期限は離婚後2年以内となっています。さらに、離婚後に相手が死亡した場合は、死後1ヵ月が請求期限となってしまいます。また、分割を受けた者は、自身の受給開始年齢に達しなければ年金を受給することができません。

<参考>

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

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