秋山黄色、“自分との対バン”で示した歌う意義 観客一人ひとりと心重ねた『BUG SESSION』

秋山黄色が、東名阪をまわる対バンツアー『BUG SESSION』を開催。名古屋公演は緑黄色社会、大阪公演はPEOPLE 1とのツーマンライブだったが、この記事でレポートする東京公演は“秋山黄色(ソロ)vs 秋山黄色(バンド)”という異例のライブだった。

途中には本人の口から「このライブはね、ワンマンじゃないんですよ。今日は秋山黄色が秋山黄色をぶっ倒すという、そういったストーリーの中でみなさんの脳に刻みこめたら」と“自分との対バン”について語られたが、確かに、自分の心と向き合い、自分と近い悩みを抱えた他者に向けて音楽を届けてきた秋山らしいスタイルなのかもしれない。結果、前後半で表現形式を変えただけには留まらない、意義深いライブとなった。

ステージを隠す紗幕の上にポップなアニメーションによるオープニング映像が映されたあと、「秋山黄色」の文字が大きく表示される。おそらく他公演では出演者の名前を出していたのだと思うが、この日はどちらが先攻でも秋山黄色なのだから、音が鳴るまでバンドかソロか分からない。そんななか、幕越しに聴こえてきたのはエレキギターによる「やさぐれカイドー」のリフで、やがてバンドによるタイトなキメが合流。こうしてバンド編成でのステージから始まった。のっけからものすごい爆発力。そして「お待たせしました、秋山黄色です!」と挨拶してから、次の曲「Bottoms call」へ突入する。

“バンドのギタリストがいるからリードギターは弾かなくていい”ではなく、歌いながら自分でもフレーズを弾きまくっている秋山は楽器好きの青年といった感じで、歌もギターも境目なく扱いながら自由に鳴らしている。例えば、ワンフレーズだけオクターブ下で歌いたいが、それは物理的に不可能なため、そこだけ同期を導入するという「Caffeine」でのアプローチはなかなか出ないアイデアだろう。自身の曲を解体し再構築したような、ゆえに音源とはまた別の形で演奏される各曲のベースにあるのは、柔軟な発想やハイブリッドな感性、音楽で楽しく遊ぼうという気持ち。「同じライブは1個もないって言いますけど、僕なんかそういうレベルじゃありませんので」とは本人の発言だが、これは「今この瞬間の感情が乗っているから」というありがちな精神論ではない。一瞬ボーカルにエフェクターを噛ませるも、やっぱりそのままの音でいくという判断も見られたように、“とりあえずやってみる精神”の下、音の発明を都度行っているのだ。「ストップ、ストップ! 聴いたことないギターの音出てます!」というアクシデントが起きても、その音でちょっとフレーズを弾いてみるなど、どこか楽しそう。

この奔放なライブスタイルを可能にさせているのが、ギターはもちろんコーラスも秋山から信頼されて任されている井手上誠(Gt)、秋山と向き合って頭ぶんぶん振りながら鳴らす藤本ひかり(Ba)、そして最近新たに仲間入りした田中駿汰(Dr)による頼もしいバンドサウンド。そしてエネルギッシュなサウンドが観客の本能を解放させる。ライブで披露されることの多い「シャッターチャンス」では、フロア一面〈BURRN!〉と声を上げながら大爆発だ。

バンドセット終盤で披露した「アイデンティティ」の曲中には秋山が、この曲はもともと「はぐれメタル」というタイトルだったと明かした。倒すと経験値がたくさんもらえるが、遭遇してもすぐに逃げられるというゲーム内のキャラクター。同じように、自分の弱いところを人に話すと逃げられてしまうから、大人になってもなかなか話せないと。

「だけと歌ってんじゃん、今。人生なんて最後の最後まで分からないかもしれないけど、分かりたくねーよって啖呵切りながら、少しばかりの光を見せながら生きていきたいと思います。みなさん、飽きるまでセッションよろしくお願いしますね」

ここで『BUG SESSION』のセッション相手とは対バン相手だけでなく、客席にいる一人ひとりもそうなのだと知らされる。秋山曰く「僕の深層心理」「暗くて不安な感じ」を歌ったこの曲、および秋山黄色の音楽を突きつけられたあなたがどう動くのか、秋山は知りたがっている。「ラストだ! コール&レスポンスしよう!」と観客と“セッション”したあとの「ソニックムーブ」では、最前列の観客が腕を振り下ろすのと同時に締めの音を鳴らし、バンド編成でのライブを締め括った。

そして特に興味深かったのが、後半のソロ編成だ。転換を終え、ステージを隠していたカーテンが開くと、そこにはすでにスタンバイしている秋山の姿が。ステージ上に組まれた四角形の台の上にはギターやキーボード、いろいろな機材が配置されていて、宅録部屋を思わせるセッティングだ。秋山はギターで弾いたフレーズやボディを叩いて鳴らしたリズムをその場でサンプリング&ループさせたのち、それらの音を全てストップさせてから、力強いバッキングとともに歌い始めた。1曲目はバンド編成と同じく「やさぐれカイドー」だ。

最初の3曲はギター弾き語りだったが、4曲目以降はその場でサンプリングした音をループさせたり、サンプリングパッドを叩いたり、バンドサウンドを同期で流して歌やギターを重ねたり、伴奏を完全に同期に任せてノリながらハンドマイクで歌ったりと、様々なアプローチを見せた。「ただの弾き語りじゃつまらない」と言わんばかりの展開が痛快だ。同時に、制作部屋を覗き見させてもらっているようでもあり、ライブ中には、ヒトリエやKEYTALKの曲の一節をふと口ずさむ場面も。また、手元や足元での操作が多いことから、「あー、二度とやりたくねえ!」「この動き、音楽じゃなさすぎる。スポーツだよね」と笑っていた。

このソロ編成は秋山にとって“元来のスタイル”だという。「俺はもともと友達とバンドをやりたかったけど、それができなかったから一人でやってて。バンドメンバーが揃うのって奇跡ですよ。ワンルームでこういうことを永久にやってるヤツはいっぱいいる。僕もその中の一人でした。これより狭い部屋で……六畳間でずっとジャカジャカやってましたから。そういうヤツがセッションできるのは恵まれてる。みなさんのおかげです」と語りつつ、「一人だと“愛してる”とか歌わなくていいから、人と喋るよりも本音が出たりする」という極めて個人的な形態で、目の前の観客と向き合った。過去のインタビューなどでもたびたび語られているように、「音楽は本来エゴイスティックなものであり、自分はそんなに大した人間じゃない」「そんな自分でも音楽が持つ“人を救う力”を信じたり使ったりしなきゃいけない時代だ」と葛藤しながら表現の在り方を探ってきた秋山にとっては、“大勢のリスナーの前で極めて個人的なことを行う”ということが重要だったのではないだろうか。「一人になっちゃったけど、本当はここに友達がいたわけです」と話したあと、不在を見つめながら歌い始めた「Caffeine」には割り切れない心が投影されていて、生身の歌を受け取った観客はこの日一番長い拍手をステージに届けた。そしてその拍手を受けて、秋山がまた新たに語り始める。本当はツーマンをやるなら呼びたい人と思っていた人がいたが、コロナ禍で亡くなってしまったのだそう。

「やさしさを返してあげたいですが、もういませんから、貰うしかないわけです。すごくありきたりなところに着地しますけど、歌うしかないわけです。それをみんなが聴いて、明日頑張る。助けられるようなら(誰かを)助けてください。助けられない時は寝てていいよ。みんなが思ってるより、あなたが助かれば喜ぶ人が周りにいる。(中略)ライブに来れば、みんなばっちり生きてますよ。いつだってセッションしに来てください。俺はデカい音出しに来てるんじゃなくて、デカい声聴きに来てるんだからね。お前らの声聴きたくてやってるんだから」

そんなMCのあと、キーボード弾き語りで披露した「PAINKILLER」では、一つひとつの言葉を届けるように歌唱。〈居てくれ〉というメッセージは一人ひとりの心に確かに光を灯したはずだ。2曲披露したアンコールのうち「猿上がりシティーポップ」では、「バンドセットの時より客がデカい声出してたって、ライブレポートに書かせようぜ!」とステージ前方に出ていき、マイクを通さず、観客と一緒に声を重ねる。その大合唱には観客が秋山にもらったもの、秋山が観客にもらったものがぎゅうぎゅうに詰まっていた。

(文=蜂須賀ちなみ)

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