投資初心者ほどやりがちな「株価が上がりそう→急ぎ購入→撃沈」の無限ループ…あなたの予想が当たらないのは、偶然ではない【経済評論家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

投資初心者のよくある思い込みに「株価は予想できる」というものがあります。しかし、短期的な株価変動の場合はプロでも予想不可能なのです。なぜなら、株価はしばしば理論を超えた動きをするからです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

投資初心者ほど「株価は予想できる」と考えがちだが…

投資初心者のなかには「株価が上がりそうだから、急いで買った!」などという人がいますが、短期的な株価変動を予想するのは大変困難です。なぜ困難なのかは「値上がりを予想するプロが買い注文を出し、値下がりを予想するプロが売り注文を出した結果が現在の株価なので、投資初心者には予想できない」と考えればわかるでしょう。

つまり、株の短期売買はカジノのルーレットと同じようなものです。もっとも、カジノより胴元の取り分が少ないので、バクチが好きな人が株の短期売買で楽しむのは悪くないと思いますが。

ちなみに、最近の株価の値下がりについて、平均株価が暴落している時の狼狽売りは避けよう、という趣旨で、記事『【株価暴落時あるある】投資初心者、号泣「自分が売るたび、価格が戻る!」…イジワルな市場の動きに秘められた〈納得の理由〉』を執筆していますので、ご参考までに。

「人の予想することを予想する」というむずかしさ

さて、もうひとつ、株価は美人投票だから予想がむずかしい、ということも重要です。「人々が上がると思うと買い注文が増えるから株価が上がる」というわけです。問題は「明日の投資家は、株価が上がると思うか、下がると思うか」を予想するのは無理、ということですね。

「美人投票」というのは経済学者ケインズの言葉です。当時の美人投票は最近のものとは異なり、優勝者に投票した審査員も景品がもらえたのです。

では、筆者が当時の美人投票の審査員だったらどうしたか考えてみましょう。

【候補1】が登場したとき、筆者は「美人だ」と思いましたが、会場は静かでした。【候補2】が登場したとき、筆者は「美人ではない」と思いましたが、周囲の審査員は拍手喝采していました。そこで筆者は「候補2が勝つだろうから、候補2に投票しよう」と考えて、狙い通り商品を獲得できました。

そうなると、壇上の候補者をみてだれが美人かを考えるより、周囲の審査員と会話をして、だれが勝ちそうかを考える方が有利なので、だれも壇上の候補者を真剣に見なくなります。

そこに「【候補3】が審査員たちに賄賂を配っているから、候補3が勝ちそうだ」という噂が流れてきました。筆者は候補3が勝つと考えて候補3に投票しました。ほかの審査員たちも同じように考えて候補3に投票したので、候補3が勝ちました。筆者は、商品を獲得しましたが、「どうして私には賄賂をくれなかったのか」という不満は残りました(笑)。

「ウワサの真偽」は問題ではない

その後、実は噂は嘘だったことが判明しましたが、【候補3】の優勝は変わらず、筆者たちが獲得した商品も返還する必要はありませんでした。つまり、噂が本当か嘘かは重要ではなく、多くの審査員が噂を信じたか否かが重要だったのです。

では、審査員の中に候補3の親友がいて、噂が嘘だと知っていたらどうでしょうか。親友には2つの選択肢があります。「私だけが真実を知っている」という自己満足をして別の候補に投票するか、「真実はともかく、候補3が勝ちそうだから候補3に投票する」か。商品が獲得できるのは後者ですね。真実を知っていることは商品獲得につながらないのです。

つまり、ケインズは「株で儲けたかったら、真実を追求するよりも、ほかの投資家の噂話に耳を傾けよ」と教えたのですね。

もっとも、これは短期投資の話で、長期投資の場合は真実を追求すべきです。人の噂は75日で消えますから。「この会社は10年後もしっかり儲けている」と思ったら、買えばよいのです。他の投資家がこの会社を酷評しているならば、株価が安値で放置されているはずなので、買いのチャンスだと考えればよいのです。

「金融緩和されたから、株が上がるよ」「ですね!」→結果…

金融が緩和されると、株価が大きく上昇する場合が多いのですが、これは投資家たちが「金融緩和は株価上昇要因」だと考えているからです。次に金融が緩和された時も皆が買うことで上がるとすれば、投資家たちの確信が一層強化されていくわけです。

黒田氏が日銀総裁に就任したとき、大胆な金融緩和を打ち出しました。そこで投資家たちは「世の中に資金が出回るから、株が上がる」と考えて買い注文を出しました。筆者は元銀行員なので、世の中に資金が出回らないことを知っていましたが、「自分だけが真実を知っている」などと自己満足に浸ることをせず、「皆が間違えているなら、私は積極的に買って儲けよう」と考えたのです。

結果として儲かったので、何度も飲みに行きました。そのときの失敗は「黒田総裁ありがとう」と乾杯をしたことです。黒田総裁が金融を緩和しても、ケインズの教えをしらなければ、筆者は株を買わずに儲けるチャンスを逃したでしょう。つまり、筆者は「ケインズ先生ありがとう」と乾杯すべきだったのです。

ゼロ金利下の金融緩和が無意味な理由

金融緩和とは、日銀が銀行から国債を買って代金を支払うことです。では、銀行はなぜ国債を持っていたのでしょうか。それは、借りてくれる人がいないからです。現金は金庫に入れておくと嵩張るので、仕方なく金利ゼロの国債を持っているのです。

それを日銀が買ったとしても、銀行は受け取った代金を日銀に預金するだけです。昨日は銀行が政府に金を貸していたのが、今日は銀行が日銀に貯金をして日銀が政府に金を貸しているのです。何も変わっていないし、世の中に資金は出回っていないのです。

そこで本来、ゼロ金利下で金融を緩和しても無意味なのです。しかし、今回は美人投票で株やドルが値上がりした結果、景気が回復しました。本来効果がないはずの政策で効果を上げたのです。

医学の世界では、患者に小麦粉を与えて「いい薬だ」というと病気が治癒することがあるそうです。「偽薬効果」です。黒田総裁は偽薬効果で日本の景気を回復させた「名医」だと言えるでしょう。

本稿は以上ですが、投資判断等は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があります。

塚崎 公義
経済評論家

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン