『東京タワー』永瀬廉の瞳は言葉以上に物語る “出会ってしまった”2人の恋の始まり

東京のシンボルとして真っ先に挙げられ、多くのこの地で闘う人にとってそれを見上げれば“頑張ろう”と励まされ応援されているように感じる。そんな心の拠り所として描かれることの多い東京タワー。東京の夜を照らすそれを“世界で一番悲しい景色”と形容するのが、主人公の医大生・小島透(永瀬廉/King & Prince)だ。

この多くの人とは正反対にも思える透の感覚を分かち合える人が突然目の前に現れた。彼が夜間に警備員のアルバイトをしているビルの設計を手掛けた世界からも注目を浴びる建築家・浅野詩史(板谷由夏)だ。

「東京タワーって何だかとても寂しそうじゃない?」と事もなげに言う詩史の言葉を聞くなり、透の中に稲妻のような衝撃が走る。自分の心の内をそっくりそのまま目の前の他人が言葉にしてくれたのだ。誰とも分かち合えっこないと思っていた視点や感覚、痛みや違和感をシェアできる人がこの世に自分以外にも存在している。その事実だけで救われることがある。“自分は一人ぼっちじゃなかった”と強くなれる思いがする。この人を通してならば社会と繋がれる、そんな気がする。

もっともっとこの人の中にあるものに触れてみたい。この人の目から見える世界を、この人自身を知りたいと思う。そしてまた、たった一人この人の前でだけ引き出される自分も知らなかった新たな自分自身に出会ってみたいと思える。それは紛れもない恋の始まりだ。

この時、2人の間には詩史の言う互いに惹かれ合う“空気”が充満したのだろう。恋の予感がどんどん膨らみ、その予感が正しいのか答え合わせすべく食事に行けばますます相手に惹かれ、予感が確信に変わる。その煌めきや、大袈裟な話ではなく“この人に出会わなかった人生なんて考えられない”と思えるほどのフィット感や特別感、高揚感は大恋愛ならではの醍醐味であり、抗えない引力と言えるだろう。

ローテンションで何事もそつなくこなす透からすれば、このまま医者になることさえなんだか予定調和でそんなに価値のあることにも思えず、これまで心の底から渇望するものや夢中になれる対象をどうやら持ち合わせていなかったらしい。そんな彼からすれば自分が手掛けたビルを「均整の取れた美しいビル」と評されても「その完璧さがつまらないの。もっと欠けてる部分に人は惹かれるものなのに」と一蹴する詩史に自分の全てを見透かされた思いがしたのかもしれない。そして、それは同時に一見したところ欠けたところなど全くないエリート学生である自分自身に向けられた言葉のようにも思えたのかもしれない。

また、自分の仕事を持ち自由で何物にも縛られていないかに見える詩史は、透の言う「自分だけの居場所」を自力で獲得した人であり、彼が敬遠する母親・陽子(YOU)とは対極にいるように感じるのかもしれない(しかし、いくら別れた夫からマンションを奪い取ったとはいえ、夫の浮気が原因で離婚しているのだし、陽子も雑誌の編集長を務めながら息子を医学部に通わせている中、なぜそこまで彼が陽子のことを「図太い」と思うのかは疑問に思える。年下男性を自宅に呼び息子に隠す気もなく自由に恋愛しているのが、彼からすればやはり受け入れ難いのだろうか)

20歳以上歳の差がある詩史の前でも物怖じせず、しかし背伸びして自分のことを必要以上に大きく見せるでもない自然体の透。美しい言葉の節々から知的好奇心が滲み、大人びた雰囲気や静けさと積極性を併せ持ち、勘所の良さまである。そんな稀有な男子大学生の透は永瀬ゆえに成立しているキャラクターだろう。相手に対して極端に精神年齢が低く見えてはそもそも成立しないが、これから新たな扉が開かれていくのだろう伸び代やポテンシャルは残しておかなければならない。簡単に自分を明け渡さず、しかし相手のことをフラットによく見ながら呼応する透の対峙がそんな難しい塩梅を内包していた。

詩史から「会うのはこれで最後にしましょう」と言われて、本当にこのままではこれが最後になってしまうと焦燥し、一歩踏み込む透の心情を永瀬は視線の動きだけで表現していた。「なんでも自分で決めるんだ」「提案じゃない、決定なんだ」とは透が大原耕二(松田元太)に力説していた彼女の魅力だが、今ここで行動に移さなければこれが“決定事項”になってしまうということが反射的にわかったのだろう。そして直感的に強く湧き出る感情ほど、時に自身を大胆な行動に駆り立てるものだ。

さて、“出会ってしまった”2人にこれからどんな運命が待ち受けているのだろうか。東京タワーの朧げな光は、彼らのどんな煌めきと悲哀を照らし出すのか、没入しながら見守りたい。

(文=佳香(かこ))

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