石炭を握りつぶすだけではダメ…人気漫画に登場した「ダイヤモンド」描写を調べるとわかった意外な真実

少年チャンピオン・コミックス『範馬刃牙』第2巻(秋田書店)

本日、4月22日は「ダイヤモンド原石の日」だ。4月の誕生石でもあるダイヤモンドだが、ひとつの原石を対に分けて磨くのが通例とされているため、“調和”という意味がある「2」の双子の数字である「22」を組み合わせ、この日に制定されたとのこと。

さて、そんな世界でもっとも有名な宝石とも言えるダイヤモンドだが、その輝くばかりの美しさは古来より人類を魅了し続け、漫画でもダイヤモンドをモチーフにした話が数多く描かれてきた。

だが、漫画で描かれるダイヤモンドはあくまでフィクションであり、現実とは異なることもある。そこで今回は、人気漫画で描かれてきたダイヤモンドと実際のダイヤモンドの違いを見ていきたい。

■『ONE PIECE』のダイヤモンド・ジョズは硬いけど…本物のダイヤは硬いけど脆い?

「ダイヤモンドは世界で一番硬い宝石」多くの人が抱いているこの印象は、漫画の世界でもよく取り上げられる。

たとえば『ONE PIECE』(尾田栄一郎さん)に登場する白ひげ海賊団第3番隊隊長、ダイヤモンド・ジョズは“キラキラの実”の能力で体をダイヤモンドに変えられる。その硬さは、世界最強の剣士・ミホークの斬撃も食い止めるほどだ。

では、実際のダイヤモンドはどうか、答えは「硬いが脆い」だ。矛盾しているようだが、これは“モース硬度”に由来する。

モース硬度とは「とある物体がひっかかれたときの傷のつきやすさ」を10段階で示した指標で、ダイヤモンドはもっとも傷がつきにくい10とされている。ダイヤモンドに傷をつけるのは容易ではなく、だからこそ硬いイメージがついたのだろう。

だが、モース硬度はあくまでひっかき傷に対する尺度に過ぎず、衝撃への耐性とは関係ない。むしろダイヤモンドは鉱石としては脆い方で、ハンマーで叩いたり高所から落とすとあっけなく破損してしまう。だから「硬いが脆い」というわけだ。

もし、あなたがダイヤモンドを手に入れても「漫画であんなに丈夫だったし」と雑に扱うのはやめておいたほうがいいだろう。

■『ゴルゴ13』でも言われていた! ダイヤモンドの“弱点”の正体は?

「ダイヤモンドは弱点を突けば壊せる」というのも、漫画ではお決まりのシチュエーションだ。

超A級スナイパー・ゴルゴ13の活躍を描く『ゴルゴ13』(さいとう・たかをさん)のエピソード「死闘 ダイヤ・カット・ダイヤ」でも、ダイヤモンドの弱点を狙撃する展開がある。

1050カラットの特大ダイヤモンドを狙撃する依頼を受けたゴルゴ13。あるダイヤモンド職人の教えを受けた彼は、「ある一点に打撃を加えるとダイヤは砕ける」と学ぶ。そしてゴルゴ13は教えの通り、目標のダイヤモンドを正確に撃ち抜いて破壊する……という話だ。

現実のダイヤモンドにも壊れやすい“弱点”と呼べるポイントはある。しかしそれは、“点”ではなく“面”だ。

鉱物には、その方向に沿って力を加えると割れやすい面「へき開面」が存在するという。ダイヤモンドにもこの「へき開面」があり、加工でもよく利用されている弱点だ。

先に伝えた衝撃に弱い性質も加味すれば、一点を狙う熟練の技がなくともダイヤモンドを壊すのは難しくない。少なくとも、私たちがダイヤを壊すためにゴルゴ13に依頼する必要はないだろう。

■『刃牙』炭素を握りつぶしたらダイヤモンドになる?

連載30年を超える人気格闘漫画シリーズ『刃牙』(板垣恵介さん)でも、ダイヤモンドにちなんだエピソードがある。“地上最強の生物”範馬勇次郎がアメリカのバラク・オズマ大統領と「友好条約」を結ぶ際、オズマから石炭を渡され、こんな頼みごとをされる。

「この石炭を握ってダイヤモンドに変えてほしい」

オズマいわく、炭素に10万気圧もの圧力をかければダイヤモンドになる。それを地上最強の握力でやってみせてほしい、ということだ。

荒唐無稽な依頼に勇次郎は、石炭を粉々に握りつぶすパフォーマンスで応える。実際にダイヤモンドはできなかったが、オズマは「Yes, you could(あなたはできた)」と感動を返すのだ。

さて、仮に勇次郎の握力が10万気圧に匹敵した場合、石炭はダイヤモンドに変わっていたのだろうか?
確かに人工ダイヤモンドを作る際は、炭素に5万2000気圧以上の圧力をかけて生成する。だが、ダイヤモンドを作るには圧力だけではなく熱も必要だ。その温度はなんと1200度以上! もはや想像もできない超高熱である。

もし勇次郎が本当にダイヤモンドを作るなら、超人的な握力だけでなく途方もない高熱も発する必要がある。だが、一番恐ろしいのは「それでも勇次郎ならできそう」と思わせる彼の強烈なキャラクターにほかならない。

ダイヤモンドにおけるフィクションは、ほかの名作でも見られる。『魁!!男塾』(宮下あきらさん)ではダイヤモンドの弱点を「ブルッツフォン・ポイント」と紹介しているし、ゆでたまご(原作:嶋田隆司さん、作画:中井義則さん)の『キン肉マン』でも悪魔将軍が体を硬化する“ダイヤモンドパワー”を使っている。

漫画の世界におけるダイヤモンドの扱いは、もはやお約束だ。現実と違っていても、そっちのほうが面白い。そんな気持ちで楽しめるのも、漫画の醍醐味と言えるだろう。

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