犬飼いは暑くなったら八ケ岳に避難しよう【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

先日、東京・代々木公園でイベントがあり(大福は山で留守番)、たくさんの犬飼いと話をした。いろいろ話せて楽しかったが、そこで皆さん共通していたのは「これからの季節が思いやられる」ということだった。

年々暑くなる時間が早くなる問題

秋から春にかけては(犬にとって)快適なのだが、初夏から真夏、残暑、暦の上では9月末頃までは地獄だからだ。そのため、日中は外に出せない。朝の散歩は6月で6時頃、7〜9月は5時起きになる。それを過ぎるとアスファルトが焼けて熱くなるからだ。早い人は「うちは4時起き」と言っていた。

散歩が終わればエアコンのきいた部屋に入れ、夕方(または夜)の散歩まで「待機」してもらう。私が暮らしていた鎌倉・腰越は海沿いだったので、夕方16時ころになると海風が吹いて涼しくなっていた。しかしここ数年は、気温がなかなか下がらず17時半になってもまだ暑く、外の様子をちょくちょく見て散歩に行くタイミングを待っていた。都内だと20時ころでもまだ暑いらしい。

ひと昔前までは、そこまではなかったと思う。先代犬の『富士丸』と渋谷区初台で暮らしていた当時も夏には早起きはしていたが、朝6時くらいだったと思う。2014年に腰越に移り住んだ当時も、夜は窓を開ければ海風が心地よくエアコンをかけていなかった。それが年々気温があがり、最終的にはエアコンは24時間フル稼働状態になっていた。

親心を愛犬は知らず

ここまでは犬と暮らす人なら共通の認識ではないかと思う。電気代が高くなるのは悩みの種だが、それはどうしようもない。

それはいいとして、ひとつ納得いかないのが、犬は気温を認識してくれないことだ。暑い中外に出さないから当然なのだが、なぜ早起きするのか大福は分かってくれない。朝5時にゆすって「散歩行くぞ」と言うと「なんでこんなに早く起こすんだよもう」と迷惑そうな顔をする。

「いいから早く起きろ、ほら、行くぞ」と急かして外に連れ出すが、ものすごく億劫そうに歩き、ぼんやりしている。寝ぼけているのだ。しかし、このタイミングを逃すと気温がグングン上がるから仕方ない。

でも大福はそれが理解できないから、彼らの中では私が早く散歩に行きたくて嫌々それに付き合っていることになっているのだろう。もっといえば、絶対に外でしかオシッコもウンチもしないから行ってるのに、それすら分かっていない。だるそうに歩く彼らに「お前らのために早起きしてるんやろがー!」と叫びたくなるが、そこはグッと堪えて黙ってウンチしてくれるのを待つ。

夕方は、彼らの体内時計で「そろそろじゃない?」と催促してくるが、その時刻ではまだ外が暑くて出られない。そうすると「何か忘れてない?」とか「散歩の時間だよ? 分かってる?」という態度で圧をかけてくるが、黙って背中を向けて耐えるしかない。私がサボっていると思われてもいい。気温が下がるまで待つしかないのだ。

おそらくこれも、暑い季節に多くの飼い主が日々犬と繰り広げているやり取りではなかろうか。

私はそれがいやだった。どんなことがあっても絶対に寝坊してはいけないというプレッシャーはあったが、早起きは別に苦に感じなかった。毎日、ただ暑くなる前にオシッコとウンチのルーティンをこなしてもらうことが重要だった。でも当の本人たちに迷惑そうな顔をされるのが腑に落ちなかった。

でもよく考えれば、犬は何も悪くない。気温の高い環境がいけないので、犬に責任はない。であれば環境を変えるしかない。私が山に移住した最大の理由はそこだった。

昨年(2023年)11月、これから本格的に寒くなるという時期に移住完了したが、4カ月が経ち、まもなく春を迎える。犬と暮らしてから夏が待ち遠しいと思ったことは一度もないが、今年は楽しみだ。

なぜなら、もう早起きしなくていいし、迷惑そうな顔をされることもないからだ。信じられないかもしれないが、八ケ岳は平地と比べると常に10℃低いから、7時に起きたって平気。真夏の昼間でもドッグランで犬と遊べたりする。ただし、標高1300メートル以上の話だが。

だから、これからの季節に思いやらえている飼い主さんは、八ケ岳に避難すればいいと思う。移住は難しくても、泊りがけで犬と遊びに来ればいい。そうすると、平日は部屋に閉じ込められて、休日にもどこへも遊びに連れて行ってもらえない犬のストレスも発散出来るはず。私が暮らす近所には『MIC HOUSE 』という犬OKのペンションもあるので、ぜひ。涼しくて人間も快適だけど、犬のために。嬉しそうな顔をするはずだから。

<お知らせ>

私が運営する『DeLoreansショップ』で、能登半島地震で被災した犬猫のために少しでも役立ててもらおうと『チャリティーステッカー』を作りました。440円(税込)で、1枚につき原価と必要最低限の経費を抜いた300円を寄付します。ご賛同いただける方はよろしくお願いします。

※売り切れている場合は次回入荷までお待ちください。

プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
ツイッター
インスタグラム

大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

引用元:「犬の笑顔が見たいから」(世界文化社)楽天ブックス

© 株式会社ベネッセコーポレーション