【社説】政府の書店支援 本と出合える場守らねば

 経営難のため各地で減り続けている街の本屋を支援しようと、経済産業省が省内横断の書店振興プロジェクトチームを立ち上げた。

 政府が乗り出すほど、書店の経営は悪化している。人口減少や活字離れ、ネット販売の増加などを背景に、店舗数は10年ほど前に比べ、約3割も減っている。政府として、その要因を掘り下げ、対策づくりを急いでもらいたい。

 驚くのは「書店ゼロ」自治体の多さだ。地域間で文化的環境の格差が広がっているといえよう。放置できない。

 出版文化産業振興財団によると、2022年9月時点で書店のない市町村は456。全国1741市区町村の4分の1を超え、1店舗しかない自治体と合わせると、半数近い市町村が危機的状況だ。特に町村が深刻で、地域文化の拠点が失われつつある。

 広島県は、全ての市町に書店があった。しかし山口、島根は「書店ゼロ」市町村の割合が20%を上回っていた。

 書店数減少のペースは、新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要などで一時は鈍った。しかし街の本屋の売れ筋だった雑誌や漫画の電子化が進み、経営悪化にはなかなか歯止めがかかっていない。

 ネット販売の定着も響いている。地方からでも、夜中や早朝であっても注文できるなど、便利なことは確かだ。

 ただ、書店には捨てがたい魅力がある。目当てのジャンルの本だけではなく、多種多様な分野の本に目が留まり、思いがけない本を見つけることも少なくない。そうした新たな出合いや発見の場となるのは、書店ならではだろう。

 もちろん、最新の情報や文化に触れられる拠点としての機能も果たしている。

 その点、気になる数字がある。書店と並ぶ地域文化の拠点でもある図書館のない市町村が、全国で394あることだ。うち247町村には書店もない。多様な本と直接触れ合う機会がほとんど奪われていると言わざるを得ない。

 地域の本屋をどう守っていくか。青森県八戸市の思い切った取り組みが参考になる。市営書店を8年前にオープンさせた。売れ筋の本は取り扱いを控え、良質だが採算のとりにくい本をそろえている。民間書店や図書館との連携や役割分担を心がけているからだ。とはいえ、毎年赤字で、市が税金を数千万円つぎ込んで補っているという。

 「本のまち八戸」を3期目の公約に掲げた市長が、東京に負けない読書環境を―と考えて実現させた。多額の税金投入を考えれば、市民の理解が大前提である。

 地域の文化拠点を維持する施策として、書店の経営支援だけでは不十分ということだろう。図書館との機能分担や税金投入の是非など、考えるべきことは多い。本を売る側だけではなく、買う側の視点も欠かせないはずだ。

 経産省だけでは到底、手に負えそうにない。本と出合える場を守るため、文化や教育、生涯学習を管轄する文部科学省や、地方行財政に関わる総務省を含めた省庁横断的な取り組みが求められる。

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