「石の魅力」(4月22日)

 「石っこ」。宮沢賢治のあだ名だった。ハンマーを携えて野山を歩き、石を集めて回った。お気に入りを見つけるたびに一喜一憂した。残した詩や小説に数多くの鉱石が登場する▼「銀河鉄道の夜」で、ジョバンニとカムパネルラが停車場に下車した場面。〈河原の礫[こいし]は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や…〉。その場が輝く様子が分かる。賢治は博学で農学校教師を務めた。座右の書は化学の教科書。鉱石を構成する元素の美しさに魅了されたらしい▼石川町は、全国に誇る鉱石産地の魅力を伝える町歴史民俗資料館を27日に移転オープンさせる。目玉は、町内に唯一残る和久観音山鉱山跡のVR展示だ。水没した未公開区画の様子を再現した。国内最大級の約1メートルの電気石や、「県の石」ペグマタイトの姿を、臨場感ある映像で確認できる。黒や白に輝く自然美が目を引く。100点以上の実物も並ぶ▼施設の愛称は「イシニクル」。年代記を表す「クロニクル」をもじった。雨にも負けず、風にも負けず…。長い年月を経て完成する様は、まるで忍耐の凝縮のよう。大型連休は「鉱石の里」へ。歴史をさかのぼる時間列車の旅で、しばし「石っこ」気分を味わおう。<2024.4・22>

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