飲食店の魅力を存分に伝える写真を撮るには? プロが教える、お酒と料理の“美味しい”撮影テクニック

酒場好きに届けたいムック本「いま最高の酒場と焼酎。」(朝日新聞出版)が発売中だ。東京・大阪・京都・神奈川の老舗酒場からネオ酒場まで、至極の焼酎とともに新旧の名酒場を紹介するこの一冊は、酒場好き必見のマニュアルとして人気を博している。

「行ってみたい!」と思わせるような写真が並ぶ本誌の撮影を担当した、フォトグラファー・深澤慎平さんにインタビュー。美味しそうに見える料理の写真や店の魅力を伝えるための撮影テクニックとは?……SNSを活用してより魅力的な写真でPRしたい飲食店や、飲み歩きが趣味の酒場ラバーズに向けてその極意を聞いた。

■撮影場所を決めてトーンを統一させる

――近年は、SNSでの発信に力を入れている飲食店が多いと思います。深澤さんは飲食店の取材が多いフォトグラファーですが、飲食店の方々は料理のプロであっても写真撮影は素人。お酒や料理を美味しそうに見せるために大切なことは何だと考えていますか?

深澤:今の時代は、SNSやHPを活用して集客されている店も多いですよね。SNS発信において「美味しそう」「食べてみたい」「行ってみたい」と感じてもらうために僕が大切だと思うのは、店の雰囲気を伝えるためのトーンを統一させること。

トーンを統一するにあたっては、まず撮影場所を決めることが重要です。具体的にいうと、美味しそうに見せる大前提は、お酒や料理を置く場所だと思っています。わざわざ撮影用の板を用意しなくても、厨房のステンレスの台や、コンクリート打ちっぱなしの床などでもいいですし、一定の場所で毎回撮影する。そうすることによってSNSに上げた時のトーンは確立されます。

――なるほど、撮影場所が大切なんですね。他にお酒の撮影で意識していることがあれば教えてください。

深澤:例えば、ビールならきめ細かな泡、酎ハイなら炭酸のシュワシュワした様子を押さえるとシズル感のある写真に仕上がるので、撮影のスピードは大事ですね。それらが喉を鳴らせるような清涼感につながります。特に時間の経った酎ハイは、氷の溶けた水のように映ってしまうので要注意です。

またグラスを撮影するのであれば、グラスに対して平行ではなく、少し下からあおって撮影しても面白い写真が撮れます。グラスの手前の淵だけが写るような角度です。後ろはシンプルで暗い方がグラスの中身がよく見えるので、ドリンクの色や透け感をきれいに写せる背景にも気を配るといいですよ。

――料理撮影でのアドバイスはありますか?

深澤:見映えよく盛り付ける、お皿の淵をきれいにするなど、基本的なことは意識してほしいです。そして一番美味しく見えるのは出来立てなので、その瞬間をとらえるためにも、やはり撮影場所は決めておきましょう。忙しい中でも負担なく撮影に向けるというメリットがあります。

いい撮影場所が店内に見つからない場合は、料理を手に持ってエプロンを背景に撮影するのもありですね。Instagramであれば一度の投稿に何枚も写真を載せられるので、1枚目は料理やお酒に寄ったもの、2枚目は料理人が料理を提供しているシーン、3枚目は鍋の中の煮込みや揚げ物など調理中の写真や動画を載せても面白いかもしれません。

あとは、他の店の写真をよく見ること。どんな写真が店のイメージに合うのか、そもそもどんな写真が好きなのか……トライ&エラーを繰り返しながら探っていくと、徐々に技術も磨かれオリジナリティある発信に近づけるはずです。

■光源を一つに絞り、料理に立体感を生む

――撮影機材は何を使用するのがよいでしょうか?

深澤:カメラマンの立場としては一眼レフ、ミラーレスなどで撮影した方が、確実に写真のクオリティは高くなります。今は中古で安いカメラも販売していますよ。レンズは明るい単焦点の、50mmなどを使用するのがおすすめです。

単焦点レンズは焦点距離が一つだけなので、トーンを合わせることにも向いています。料理にピントが当たるので、背景もボケて雰囲気のある写真になるんです。僕もこのムック本の撮影では、ほぼ単焦点レンズ1本で撮影しました。

――撮影場所の光も重要かと思います。照明など気をつけることはありますか?

深澤:撮影にあたっては、光源を一つにしてください。自然光で撮影できるような場所が理想ですが、白熱灯などの照明を利用する場合であれば、一つに絞り横か斜め後ろから光が当たるように対象物を置いて撮影するのが理想的です。

その理由は、多方面からの光源があると影のばらつきが出てしまい、見る人の視点が分散してしまうから。光源を一点に設定することで、光が当たっているところと当たっていないところのコントラストができて影が生まれます。そうした立体感のある料理の方が、美味しそうに見えますよね。

――プロのカメラマンは料理撮影時、ライティングをする方も多いですよね。

深澤:レストランなどの撮影では、僕もライトを使いますが、酒場などはその場の雰囲気を感じられるような撮影を心がけています。ストロボを使うとどうしても昼間の印象が強くなってしまうので、店の魅力を押したい時は最小限の使用にしています。

■お酒や料理以外の雰囲気が伝わる撮影も

――本誌を見ていると、お客さんが楽しそうに飲んでいる様子や、手書きのメニューなど雰囲気の伝わる写真も多く、まるでその場にいるような気持ちになりました。

深澤:人気の酒場は、居心地のよさだったり、店主の人柄だったり、店の雰囲気も込みで通っている人が多いと思います。常連さんなどに許可を取って全体を撮影させてもらったり、内観のディテールを掲載したりするのは、初めて訪れる人にとってもいい情報になりますよね。

――最後に、酒場好き、グルメ好きな読者がスマートフォンで撮影する際のアドバイスはありますか? 撮影場所も光源も自分で選べるわけではないので難しそうです。

深澤:スマートフォンにおいても統一感を持たせるといいと思います。酒場ごとの違いはあっても、対象物との距離感や角度、アプリを使用した加工などある程度決めておけば、その人のテイストが自然と表れる。美意識が貫かれているとなんだか信用できますよね。

あとはスマートフォンを逆さまにして角度つけるなど、最近流行っている撮影方法を試してみるのも面白そう。味のあるグラフィックを集めてみたり……独自の視点で撮影するのも酒場に行く楽しみにつながるのではないでしょうか。

――そうですね。『いま最高の酒場と焼酎』には魅力的な写真がたくさん掲載されていますね。読んでみて、こんな写真を撮りたいと思う方は、ぜひとも参考にしてみてください。そして、日本の文化である酒場がさらに盛り上がるといいですね!

(文=千葉泰江)

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